飛鳥
□しゃぼん玉
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「太子,また仕事しないで遊んでるんですか!」
役人たちが太子がいないと困り果てていたので,わざわざ僕は太子を探しにやってきた。
そしたら案の定,太子は遊んでいた。
「妹子じゃないか。見てみろよ,これ」
太子の周りにはしゃぼん玉が浮かんでいた。
どうやら太子はしゃぼん玉を吹いて遊んでいたらしい。
「いい年してなにやってるんですか…。困りますよ,もう」
「そんなこと言うなって。キレイだろ〜!」
柔らかい球体がふわふわと浮かんでいる。
それは水色やピンク色,虹色に淡く光っていた。
「…確かにキレイですね。しゃぼん玉なんて久しぶりに見ました」
優しい風が吹いて,僕たちの髪や,しゃぼん玉をふわっとなびかせる。
なんだかとても大切にしたくなるような,そんな時が流れていた。
「でもこいつら,吹いても吹いてもすぐ消えちゃうんだよな〜…。」
太子がぼんやりとしゃぼん玉を見ながら言った。
しゃぼん玉は,空に近づこうとして飛ぶけれども,あっという間にパチンと割れる。
僕もその光景を見て,じわりと切ない気持ちになった。
「…お前は永遠に私に付き合うんだからな。分かってるよな」
「はい!?」
僕は太子の突然の勝手なセリフに反応する。
「妹子は何があっても私の部下だ!一生私についてくるんだぞ!」
太子は大きな声で言った。
「太子の言うこといちいち聞いてたら,僕の神経持ちませんよ。嫌です」
と言ってみる。
「ダメだ!ずっと私と遊ぶんだぞ,あほ!」
とぷんと鼻息を荒げて太子は言った。
僕はそんな太子を見て,思わず心の中でふと笑う。
「まぁ太子についてこれる人は僕しかいませんしね。…ちゃんと摂政らしくしてくれるなら,これからもあんたの言うこと『少しなら』聞きますよ」
と少しだけ意地悪く言ってみた。
太子は「なんだよ,このケチ!」と怒っていた。
優しい風がまた吹いた。
太子がもう一度大きなしゃぼん玉を作った。
そのしゃぼん玉は,空高く飛んでいった。
割れることなく空へ飛んでいって,僕たちの前から姿を消した。