飛鳥

□涙味のおにぎり
1ページ/1ページ


爽やかな風が流れる。
太陽が顔を出して,ぽかぽかと暖かい。


空はきれいな水色で,こんなにもいい天気なのに,僕の心は晴れないや。


なんで僕の心は曇っているんだろう。


僕の髪を揺らす風が気持ち良くて,さらに悲しくなるよ。


明るくて,輝いているこの世界が,痛々しいんだ。


なんでこんなに切ないんだろう。

なんでこんなに悲しいんだろう。


ねぇ,教えて,僕はちゃんと,この世界に存在していますか??


君が僕に「お前なんかいなければ良かった」と言った日。


そうだ僕なんかいなければ良かったんだ。


大切な友人を救うことさえできなかった,ひどい奴なんて。


仕事に失敗して,周囲から避難を浴び,憔悴していた君を,僕は支えたかった,立ち直らせたかった。


もう一度やり直そうと,手を差し伸べて,一緒に取りかかった仕事。


成功した,2人で抱き合って喜んだ。


なのになぜか,認められたのは僕だけだった。


あいつが頑張ったからだと主張しても,注目を浴びたのは,僕だった。

君は自殺した。

あのセリフを吐いて,僕の前から姿を消したあとに。


『お前なんかいなければ良かった』。






謝っても謝っても,謝りたりない。


どんなに頭を下げても,どんなに謝罪の言葉を口にしても,君には届かない。


僕は誰からも必要とされていない人間。

淡々と生きて,1人で死んでいく運命でいい。


…空がぼやけて見えた。



「おおーい,妹子!そんなとこにいたのか,探したぞ,バカ野郎!」


突然の声に振り向くと,青いジャージが立っていた。


「カレーおにぎり作ったんだ。まず妹子に食わしたくて,こんなにも探しちゃったじゃないか。汗で体じとじとだよ,んもぅ」

太子はおにぎりが大量にあるざるを持って,笑っていた。


「食え!カレーおにぎり試食者,第一号だ!」

太子が差し出したおにぎりを受けとって,一口食べた。


なんてことないおにぎりだった。

普通にカレーで食べた方が美味しいよ,バカ男。


「妹子,おまっ…なんで泣いてんだよ!?このおにぎり泣くほど旨かったか〜」


太子は驚いた様子で言う。


「本当は妹子のために作ったんだよ,カレーおにぎり。喜んでくれて満足だ」


太子がはしゃぎながら,僕の背中をバシバシと叩いた。


「太子の…バカ野郎」


あと,それと,…ありがとう。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ