企画

□掌に残った爪跡を憎んだ
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「鬼男,帰ろう!」


「うん,ちょっと待って」


さっきからずっと待っている。
教室のドアにもたれながら。

鬼男は女の子2人としゃべっていた。
何をしゃべっているのかは分からない。
でもとても楽しそう。

彼女が近くにいるのに,お構いなしにその彼氏としゃべっているあの子たちをどうかと思う。

けれど,しょうがないのだ。

鬼男は,男女関係なくみんなと仲が良くて,女子から異性として見られないタイプだから。

あの子たちも,鬼男が異性としての魅力があるという風には見ていないと思うし,鬼男も同じだと思う。

「ごめん,待たせた。帰ろう」


鬼男はわたしの頭をポンと叩いて笑う。

鬼男は無意識に,わたしの心をぎゅっと掴んで捕らえる。

わたしは鬼男がこの世でいちばんっていうくらいかっこいい。
周りの女子がどんなに彼を異性として見ていなくても。


「わたしって,さっきしゃべってた女の子たちとは違うよね??特別だよね??」


鬼男の目をじっと見て尋ねる。


「はい??当たり前だろ。そんなこといちいち聞くな」


鬼男は呆れた顔をして言った。


「じゃあ,わたしのことどのくらい好き??」


「はぁ!?なんだよ,その質問。くだらねぇ」


くだらないと言われた。


「答えられないんだ」


「ああ,答えられない」


鬼男は面倒くせぇという風に返事をする。
そしてあくびをするというオマケつき。

「わたしはね…」


鬼男の褐色の手を握る。

彼の手のひらに,自分の爪を立てて食い込ませ,ありったけの力で握った。


「いってぇ,何するんだよ」


鬼男はわたしの手を振り払い,不審そうにわたしを見ていた。

「わたしはね,そのくらい鬼男が好き」


鬼男の掌に,わたしの爪跡がくっきりと残った。


今のわたしの顔は,哀れなくらい酷い表情をしていると思う。

あなたがさすっているその掌の,もどかしくて痛々しい,爪跡が憎い。

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