企画
□優しい人
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それから僧侶は言った。
「おばけっていうのは,優しい人が好きなんです。芭蕉さんは優しいお方なんでしょうね」
この世に不思議な出来事は本当にあるのだと,曽良はぬるくなった緑茶を飲みながら思った。
数十分後,芭蕉はもそりと起き出して開口一番「ここはどこ!?」と大声で言った。
僧侶はおかしそうに笑って「おはようございます,元気になってなによりです」と言った。
僧侶が芭蕉に大まかに出来事を説明したあと,僧侶は芭蕉にも茶と菓子を出した。
芭蕉はもぐもぐとようかんをほおばり,緑茶を飲み干したあと,僧侶に「ありがとうございました!」と元気にお礼を言った。
曽良も深々と僧侶におじぎして,2人は寺を後にした。
「あー清々しいほど体がスッキリ!このまま走ってこの山越えられそう!」
「そうですか。それじゃあ走ってこの山越えてください」
「じょ,冗談だよ曽良くん!間に受けないでよ!」
ツクツクボウシが鳴きだした。
いつの間にか空は,入道雲からうろこ雲に模様替えをしていた。
『芭蕉さんは優しいお方なんでしょうね』
曽良は僧侶が言ったセリフを思い出した。
地蔵にニッキ飴をあげた男が鼻歌を歌ってスキップしていた。
「アホじじぃめ…」
小さくポツリとつぶやいたら,頬が緩んだ。