学校はお勉強するところ

□大きな背中
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大嫌いな体育。
マラソンなんて無くなればいい。
本気でそう思う。

ぶつぶつ心の中で文句を言いながら走っていたからなのか,わたしは校庭の石につまずいて思いきり転んだ。

ずずずと地面に腕を擦った。最悪だった。

「なにやってんだよ」

鬼男が呆れたようにわたしを見下ろしていた。

「ドジ。ほら掴め」

鬼男が手を差し伸べる。
わたしは言われた通りに手を掴んで立ち上がった。

腕は血がにじみ,ひざはつるりとした赤い肉が剥き出していた。

「痛々しいな。保健室連れてく」

鬼男がわたしに背中を向ける。

「え,なに!?」

「なにって,保健室連れてくって言っただろ。乗れ」

「いいよ別に。1人で行ける」

足を一歩踏み出したらズキンと嫌な痛みが走って体がまた倒れた。
足を寝違えたらしい。

「ああもう2回も転ぶな」

「すいませんね,ドジで」

「無理すんな。乗れ」

わたしは戸惑いながらも鬼男の背中にしがみついた。
おぶわれているわたしは,まるで鬼男の子供みたい。

クラスメートがじろじろ見ている。正直恥ずかしい。

「ねぇ,みんな見てる」

「周りなんか気にするな」

「…うん」

ふと思う。
鬼男の背中って大きかったんだなぁと。
申し訳ないけれど今まで意識していなかった。

鬼男は男の子だったんだ。

鬼男は保健室のイスまでわたしを運んでくれた。

「ありがとう。重いのに,申し訳ありませんでした」

「本当,超重かった」

「ひどっ!」

「嘘だよ。軽かったわ。お前もっとご飯食べたほうがいいよ。それじゃあ,先行く」

鬼男は小さく手を上げて保健室から出て行った。

「いらっしゃい。ひどい怪我だな」

保健室の竹中先生。
後頭部がなぜか魚という半魚人。
人間なのかよく分からないのに竹中先生は人気がある。

目鼻立ちの良い顔と爽やかな笑顔が一部の女子をときめかせるらしい。

竹中先生が擦り剥いたところに消毒液を塗った。
体に電流が走ったみたいに痛くて悲鳴を上げた。

ガーゼをテープで固定されて完了。

「はい終わり」

「ありがとうございました」

「どういたしまして。で,あんぬは鬼男と付き合ってるのか??」

「はい!?」

竹中先生があまりに淡々と言うから声を上げてしまった。


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