学校はお勉強するところ
□マゾヒストのメロディー
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「チョコ溶けますよ,あんぬさん」
部活が終わったあとの静かな帰り道に,わたしの握りしめていたチョコを見て曽良くんが言った。
「あ,曽良くんもいる??」
チョコをつまみ渡そうとする。
「いりませんよ」
冷たく返事された。
「バカじじぃの話,聞いたんでしょう」
曽良くんは正面のオレンジ色に染まる空を見ていた。
「…うん」
先生は曽良くんにもあの話を話していないと言った。
「あいつは引きずりすぎです。ふつう,自分を捨てた恋人からのCDを未だとっておきます??僕はそんな物,すぐに捨てますけどね」
曽良くんの言葉に疑問符がついた。
「曽良くんも知ってるの??先生の話」
「知ってるに決まってるじゃないですか」
「先生,曽良くんにも教えてないって言ってたけど」
「僕が小さい頃,あいつは何があったんだか知らないけど,酒に酔い潰れて漏らしたんですよ。未練たらたらに昔の恋人のことを」
先生らしいオチだと思った。
自分の言ったことを覚えていないのも納得してしまう。
「やっぱり引きずっているんだよね」
「昔程じゃないですけどね。病気になったみたいにあのCDを繰り返し繰り返し,何度も聴いていた頃があったような気がします。幼いときの頃だったのであまり覚えてはいないですが」
曽良くんはそう言ってからわたしに顔を向ける。
「マゾヒストの過去に影響なんか受けるもんじゃありません。明日もそんな顔して来たら殴りますからね」
曽良くんは小さく片手をあげて「それでは」と言って別れた。
家に帰って改めてあの曲を聴く。
先生の寂しさがそのままメロディーに込められているようで,胸の隙間にしみりとメロディーが入ってきた。
しかしいつまでもこんな気分でいたらダメだと思った。
明日もこんな状態で行ったら曽良くんに殴られる。
でもきっと,曽良くんはわたしを励ましてくれたんだと思う。
彼のキツい言葉の裏側に優しさがあることを分かってる。
切り替えよう。
ペットボトルの水と着替えを持ってお風呂に向かった。
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