学校はお勉強するところ

□忘れられたスイカバー
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「暑い」

「暑いね」

「もう夏くるな」

鬼男は首元のシャツで自分を扇ぐ。

「もう夏だよ。7月入ってるじゃん」

「そうか。そういえば」

むしむしとしたうだる暑さ。

すずりに墨汁を垂らす。
ぽたぽたと心地良い音がして,神経が研ぎ澄まされる。

筆を滑らす音が隣から聞こえた。
わたしもその音を合図に筆を動かした。

何枚も書いては捨て,書いては捨てを繰り返す。
たったの一文字なのに納得がいかずに決まらない。

ようやく決まったと思い,和紙から目を離す。
すると,周囲には部員全員がいた。

みんなが部室に入ってくるのに気づかないくらい,集中していた自分に驚いた。

気づくとわたしの額から汗が吹き出ていて,顎から垂れていた。

「あんぬ,いいの書けたのか」

太子先輩が覗きこんできた。

「うまっ!お前その字すごくいいぞ!」

太子先輩が言うと隣にいた鬼男も覗きこんでくる。

「僕も『夏』って書いた。けど僕より全然上手い。すごいいいよ,あんぬ」


太子先輩と鬼男に続いてみんなが次々に誉めてくれた。
あの曽良くんも誉めてくれたことに驚いた。

「なんか嬉しいな。みんなありがとう」

わたしは『夏』と書いた和紙を新聞紙に挟んで丸め,バックに入れる。

書いた習字は家に帰ってきちんと仕舞う。

とっておくと字を見直せて,自分がどのくらい成長してるのかがちゃんと分かるからだ。




習字道具を仕舞い終えてから,カルピスを片手に雑談が始まった。
外はじーじーと,名前の知らない虫が鳴いていた。

「みんな,聞いてくれ」

突然,めったに見ない真面目な顔で閻魔先輩が口を開いた。

閻魔先輩の珍しい態度に,みんなが閻魔先輩を心配そうに見ていた。

「実は…」

閻魔先輩が話そうとしたときドアが開く。
入ってきたのは芭蕉先生と阿部先生。

「習字終わったようだね。阿部先生が来てくれたよ」

嬉しそうに芭蕉先生が言う。

「先生,こんにちは!来てくれてありがとう!」

阿部先生に駆け寄って先生に椅子に座るように促した。

「ありがとな」

「いいえ。今先生のカルピスも作りますね」

「すまないな」

わたしと阿部先生の会話のあとに妹子が口を挟んできた。


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