学校はお勉強するところ
□回想
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思えば、わたしはいつから先生を好きだったんだけ。
泣き疲れてふと思う。
机の上の水滴を指でなぞりながら思い起こす。
廊下に貼り出された部活動案内の紙をなんとなく眺めていた。
新しい高校生活が始まったというのに憂鬱。
もう5月に入るというのに、特定の友達を作ることができず、クラスに居ずらくて、わざわざこうやって意味もないことをしているしかなかった。
「何部の見てるの〜??」
突然の声に驚いて後ろを振り向くと40くらいの男の先生らしき人。
初めて見る先生だと思いながら
「いや、ぼんやりしていただけで、特に何部も見てなかったんですけど」
へらっと笑いながら答えた。
「君、何も部活入ってないの??」
「はい」
そう返事したら、にこりと笑う。
「あのさ、良かったら習字部入らない??」
「習字部…そんな部活あるんですか」
「うん、私が顧問してるんだけど、新入生2人しかいなくて寂しいなぁって思ってるとこで。みんないい生徒だし、楽しく部活やってるよ」
「習字習ってたことあったし、習字は好きだけど。でも今さらなかんじがするんですが」
「ううん、そんなことない。お願い、見学だけ!」
「う〜ん」
「今日の放課後、私のとこまできて!自己紹介遅れたけど、私は松尾芭蕉。席は手前から2列目の真ん中らへん」
松尾芭蕉と名乗る先生は「ねっ!」と言って、わたしに小さく会釈して去っていった。
柔らかい笑顔に、すぐに顔を覚えてしまった。
たくさん迷った結果、わたしは放課後職員室に行くことにした。
ドアの隙間からちょっと覗いて先生がいるか確認。
らしき人を見つけて中に入る。
「あっ!来てくれたんだ!嬉しい、ありがとう!」
にこにこと笑いながらわたしを見て、手に持っていたボールペンを机に置いて、席から立ち上がる。
「じゃ、案内するね」
先生は部室に辿り着く間、さまざまな質問を投げてきた。
名前やクラスや元中やわたしの住んでいる場所。
わたしは聞かれた質問をただ答えるだけで、必要以上に先生としゃべろうとはしなかった。
「到〜着っ!ここが習字部です!」
「さぁ入って」と、わたしを促す。
心臓がどきどき速い。
緊張しながらも、恐る恐るドアを開けた。
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