提出作品

□拾った指輪
1ページ/5ページ

 


 カツン、


「んん?」
「何?」
「今、何か蹴っちゃった…」

 そう言って道に視線を落とした二人の前で、コロコロコロパタ、と何かが倒れた。

「なんだろ…? あ、指輪だぁ…」

 稜子が拾い上げたのは、薄汚れた指輪だった。丸みを帯びた銀色のボディに、両脇に淡いピンクの宝石を従えてダイヤモンドが埋め込まれている。シンプルながらも品のいい、可愛らしい指輪だ。

「わー、綺麗ー。なんでこんなところに落ちてたんだろ」
「誰かが落としたんでしょ」
「もったいなーい。…ずいぶん前に落としたんだろね、こんなに汚れちゃって…」

 言いながら稜子は、くるくると指輪を弄った。緩やかにボディを撫で、土埃の下から僅かに覗く宝石の輝きを見つめる。
 その様子に、亜紀は少し嫌な予感がした。

「……これ、磨いたら綺麗になるかなぁ…」
「ちょっと稜子。あんたまさかそれ拾うつもりじゃないでしょうね」
「う。……ダメかな…?」
「ダメ。よしなさいそんな落ちてたもの」
「うぅ、で、でもなんか勿体ないよぅ…。こんなに綺麗なのに…」
「ダーメ!そういうのは近藤にねだりなさい!」
「うー…」

 ぴしゃりと言い切られて稜子は項垂れた。
 亜紀の言い分は分かる。その通りだと、稜子だって思う。なのになぜか、この手の中で鈍く輝く指輪を手放すのが、どうしようもなく惜しかった。ころころと転がせば、その輝きが、質感が、寂しげに「拾って」と訴えている気がしてならない。
 妙なまでにこの指輪に執着している自分を、稜子は感じていた。

「……じ、じゃあ、一回だけはめてみても…」
「だめだよ」

 諦めきれない稜子の懇願を、後方からの澄んだ声が遮った。弾かれるように二人が振り返ると、木漏れ日の中、鮮やかな新緑を背後に“魔女”が佇んでいた。

 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ