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□雪解け
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夏休み中の部活が終了して家に戻る際、
観月さんがくっついてきた。
「選手のデータを正確に把握するための
家庭訪問ですよっ。お気になさらずっ」
呼び鈴に応対したのは兄貴。
帰ってきたのが俺だけだと思ったのか笑顔で玄関のドアを開けて出迎えてくれたのはいいが、次の瞬間笑顔で閉められた。
「おっ、おい!失礼だろっ!」
「ああ、ごめん。あまり大きく扉開けたら蚊でも入ってくるんじゃないかと思ってね」
「観月さんも一緒だからさ、茶出してよ。頼むよ…兄貴」
「んふっ。こんにちは。お邪魔しますよ。お兄さん」
「……」
冷やかなオーラを醸し出しながらも兄貴は渋々リビングに観月さんを通した。
「突然押しかけちゃってすみませんねえ。
どうしても全国大会青学優勝のお祝いを
お兄さんにお伝えしたくてっ」
「…それはどうも」
どこぞの誰かのようにパクパクと
小声で返事をする兄貴の視線は
あきらかに明後日の方向だ。
『突然連れてくるから…お茶菓子ないからね…母さんも姉さんも留守だし…』
『連れて帰るかもって昨日メールしただろ』
『まさか本当に来るなんて…』
「お気になさらず!ケーキ買ってきましたから、皆さんで食べましょう」
ヒソヒソ声で俺に話す兄貴に対して、
大声で返す観月さんは強者だ。
「………」
兄貴がティーセット一式とお土産のケーキをリビングのテーブルに並べた。
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