青学夢

□嫉妬
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次の日―――


昨日、あれから放課後にメールしても返信は返ってこなかったので余計に不安になる。
多くの生徒が朝の挨拶を交わすにぎやかな廊下で、彼の姿を見つけた。

「あ、不二君…」

無視されるか不安で、震える声で呼んだ。
私の声に気づき、目の前で足を止めた彼の表情は昨日と同じで笑っていなかった。

「あの…おはよう」

「……おはよう」

いつもより低い声で返される挨拶に、より不安になる。

「あの、不二君…昨日のことなんだけど…」

「……」

話を切り出しても特に反応はなし。
私との視線も合わずに賑やかな廊下にいる生徒たちを眺めていた。

「…ごめんなさい!」

あれこれ理由を聞く前にまずは謝ろうと頭を下げた。

「昨日のことでどうして不二君が怒ってるのか、一晩考えてみたの!でも、理由が全くわからなくて…」

顔を上げたが彼の表情を見るのが怖くて、視線は下のままで自分のつま先を見ていた。

「これから気をつけるから、その…私の言ったことで悪かったところ教えてくれないかな…?」

「……」

返答を待っていたが彼はしばらく黙っている様子だった。しかしその場からも動く気配もないので恐る恐る視線を上げると、何か考えている様子だった。

「……」

私も何も言えずに黙って待っていると、彼がハア、とため息をついた。

「君は何も謝らなくていいんだ」

「え…?」

「むしろ謝るのは僕のほうだ。ごめんなさい」

そう言って彼は頭を下げた。
何故謝られているのかわからない。

「なんで不二君が…私が怒らせたんじゃ…?」

顔を上げた彼の表情は少し悩ましげに眉が下げられており、この時、今日初めて視線が合った。

「君が原因…というのも一理あるけど、すべては僕の心の狭さによるものだよ」

「不二君の心の狭さ?」

「……嫉妬だよ」

嫉妬?彼の口から出た言葉に、昨日出来事を当てはめて考えてみた。
昨日の越前君との会話から様子が変わったはず…。

「それってもしかして、私が越前君のことを良いって言ったから…?」

これしか見当がつかないので聞いてみると彼はゆっくりと頷いた。

「君が僕以外の異性を褒めたり興味を持ったりすると、どうしてもいい気にならなくてね…。それだけじゃなく、君にも当たってしまうなんて、つくづくこんな自分が嫌になるよ」

軽く頭を抱えるように片手を額に添えて苦笑している。
私はその言葉を頭の中で反芻し、意味を捉えるのに必死だった。だってその言葉はまるで私のことが…。

「僕は君が好きなんだ…」

頭の整理がやっと追いついたところで、彼からの告白に胸を打たれた。

「不二君が…私を……好き…?」

意味を理解するようにゆっくりと口に出して繰り返した。

「君といるととても楽しい。飽きない会話と表情にいつも心が惹かれる。…せっかくいつも笑っているって言ってくれたのに、ごめんね。幻滅したでしょう?」

ごめんね、という言葉にハッとなった。
いつになくネガティブな言葉を連ねる彼に、私は慌てて否定した。

「してない!幻滅してないよ!…どこから何て言ったらいいかわからないけど…その…」

彼の怒っていた理由や、私への本当の気持ちや、彼が今抱えている感情など、一つ一つに言葉を返したくて焦る。
落ち着け…と深呼吸し、じっと見つめた。

「不二君の怒ってた理由、わかって良かった。メールの返信もなくて、私本当に不二君との関係終わっちゃったのかなって思ったよ…」

「そんな…それはごめん…。余裕なくて反省していて…返せなかった」

「ううん…私も不二君っていつも優しくて怒ってるところなんて見たことなかった。だから嫉妬っていうのも意外だった…すごいびっくりだよ」

彼はじっとこちらを見つめて、私の話を黙って聞いていた。
上手く言葉にまとまっているかわからず、何をどの順番で言ってるのか混乱してきた。
彼の気持ちを知った今、緊張で鼓動が早くなっているのがわかり、余計に声が震えそうだった。
ぐっと拳に力を入れて気を引き締めた。

「でも!私も嫉妬する!すごく…不二君って人気でしょう?だから…いつも女子に囲まれたり、プレゼントをもらって笑顔でいるのをみたりすると胸が痛むよ…。私も不二君のことが好きだから…!」

ついに言った!
自分の気持ちも伝えると同時に拳に入れていた力がスっと抜けていった。

「…それは」

少しの間を置いて彼は口を開いた。

「それは今の僕を知っても…?」

不安げな表情で見つめてくる彼に、私は笑いかけた。

「うん、好きです」

心が狭いとか思わなかった。そんなことよりも彼に想われていたことがなにより嬉しかった。

私の言葉に彼の瞳が揺らいで、ゆっくりと瞼を閉じて少し黙った。
スウ…という強めに息を吸い、私の方を見つめた。

「嬉しい…ありがとう。こんな僕で良かったら、付き合ってくれるかな?」

「…!もちろん、よろしくね!」

そう言って笑いかけると、彼もいつものように笑顔になってもう一度''ありがとう''と言った。




end.
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