青学夢
□嫉妬
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「不二君っていつもニコニコしてるよね」
「ん?あぁ…そうかな?」
「そう!いつも"フフ"とか"ウフフ"とかさぁ!!人柄が良いみたいに!!」
「うーん…"ウフフ"とは笑っていないと思うけど……まぁ…クセみたいなものなんじゃないかな?それに楽しいから」
そう言って綺麗な顔でフフッと笑う彼。
優しげな雰囲気にこちらも心が穏やかになる。
「それに君といると余計に楽しくてね…」
「…ま、またそうやってからかって!」
「フフッ…そういうところも可愛いね。じゃあ、俺は部活に行ってくるね」
「い、いってらっしゃーい…」
言い逃げされた。恥ずかしいじゃないか。
両手で自分の顔を挟み、顔の熱が下がるのを待っていた。
可愛いなんて好きな人に言われてしまったら、自惚れてしまう…。
私と彼は1年のときから同じクラスで、席も何度か近くなったこともあって仲が良くなっていった。
お互いの部活がない日の放課後に買い物に付き合ったり、こうやって休み時間などにお話ししたりする度に私は彼に惹かれていった。
容姿も性格も申し分ない彼は校内の人気者。男女生徒だけではなく先生からも好かれている。
そんなモテモテ男に私は恋をしているのだが、なかなか告白できずにいた。
次の日―――
「それでね不二君…」
朝に廊下で立ち話。
私が廊下の窓から外を眺めながら呆然としていたら彼から声をかけられ、ずっと話し込んでいた。内容は昨日の家族との面白い会話だとか、最近気になっている映画の話。
なかなか良い時間。
「あ、不二先輩。ちょっといいスか?」
前方から越前君が声をかけてきた。
「越前君!三年生の教室に来るなんて珍しいね」
「あ、ちーっす。ちょっと不二先輩に伝言があって…」
私の声かけに軽く会釈して、彼の方へ視線を移した。
「ごめんね話の続きだけど…」
「ううん、大丈夫」
私との話を中断してごめん、といったように申し訳なさそうな顔をした彼に首を振った。
ありがとう、と言って彼と越前君は少し離れたところに移動して話していた。
越前君の話を一通り聞いた彼は、困ったように顎に手をやり考え込んでいるようだった。
彼の真面目な表情に少しドキっとした。
「ごめんね、たまこちゃん。部活のことで相談だったみたい」
「ううん」
二人は会話を終え、彼は私の元へと戻ってきた。自分のクラスへ戻っていく越前君の後ろ姿を見つめながら話す。
「でも、越前君ってなんだかいいね」
「え?」
「後輩だけど、かっこいいって思う。クールっていうのかな?やっぱり入学早々話題になった人気者って感じ…」
「…そうかな」
「うんうん!でも不二君はいつもにこにこしてて――」
越前君の姿が見えなくなったので、視線を彼の顔に戻すと、さっきまであった笑みはなく真剣な表情になっていた。
どこか怒りを感じているような表情に、こちらも強張る。
「えと…不二君?」
「僕だっていつも笑ってるわけじゃないんだよ」
彼はそう言って私と視線も合わせずに教室へと足早に戻っていった。
こんなこと初めて。怒らせてしまった…?けれど思いつく原因が思い浮かばない。
さっきまでの会話を頭の中で繰り返すが、彼の気に障るようなことは何も言っていない気がする。
冷たい表情が脳裏に浮かび、寂しくて苦しい気持ちになる。
始業開始のチャイムが鳴り、私も教室へと戻った。