青学夢

□優しくしないで
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自惚れてもいいですか。










「あー、雨降ってるー」


放課後、クラスの男子が窓の外を眺めそう言った言葉につられて私も窓の方に目をやる。
窓には小さく水滴がついており、次第に雨音が聞こえてきた。
傘を持ってきていない私の気分は落ち込んだ。
しばらくすれば止むだろう…少しの期待を込めて部活へと向かった。



















けれど私の予想は外れた。
部活終わりに玄関先に向かうとさらに雨足は強くなっており、屋根にタタタタと雫が打つ音が隙間なく聞こえる。

「…天気予報、見とけば良かった」

学校から駅までは徒歩20分、走っても15分くらいだがこの雨の勢いではどのみちずぶ濡れになるだろう。
もう少し勢いが落ち着いてから学校を出ることにして、その場にしゃがみこんだ。




















しばらく待っていると、さっきよりも雨足が弱くなりかけて、そろそろ行こうかな、と立ち上がったときだった。



「とどろき…?」

突然呼び止められた男の声に驚き、肩を少しびくつかせて振り向いた。

「あ、手塚君か…びっくりした」

「驚かせてすまない、今から帰りなのか?」

私の様子に一言侘びて靴を履き替えているのは同じクラスの手塚君だった。
思わぬ人物に少し胸がドキ、とした。

「うん、傘忘れてきちゃって…。落ち着くまでここで雨宿りしてたの。手塚君こそ、雨で室内活動だったのに随分遅いね」

「ああ、部活のミーティングが延びてな…」

そう言って私の横を通り過ぎて、深い青の大きめの傘を傘入れから取り出した。

さすが手塚君だな…しっかり持ってきてるよね。

感心しているとバサッと音を立てた傘の中に入った彼が私を振り返った。

「せっかくだから一緒に帰ろう」

「え」

予想していなかった彼の提案に思わず顔が緩む。一緒にという言葉に嬉しくなった。

「傘、持ってないんだろう。俺も丁度駅へ向かう。このままでは風邪を引く」

「あ、えと…」

彼の優しさに乗りたいが、つまりは相合傘になるわけで少し周りの目を気にしてしまい恥ずかしくなり視線を下に向けた。
なかなか動かない私に痺れを切らしたのか、彼は私の手を取ると、自分の傘の中に引き入れた。
その大胆さに、またドキッとした。


「あの、ありがとう…。なんだか悪いなぁ…」

「気にするな、俺がこうしたいだけだ」

ぶつかる肩から感じる彼の体に緊張して身を縮めた。
そのまま彼は私の歩幅に合わせて歩き出し、駅へと向かった。

彼の優しさに嬉しくなるが、これって他の子にもしているのだろうか。
クラスは一緒だが、一度係が一緒になっただけであり、特に親しいわけでもない。
私が一方的に好意を抱いている以外はただのクラスメイトの間柄なのに…。


「手塚君はちゃんと傘持ってきてて偉いね」

「天気予報、欠かさず見ているからな」

「さすがだ…」


他愛ない会話をしていると彼の肩が少し濡れているのに気づいた。少し端に寄り肩をすぼませてなるべく小さくなって歩いていると、急に彼が私の肩を抱き、自分の方へと寄せた。
寒い風が当たっていた肩が、いきなり温かくなって見上げた。


「て、手塚君?あの…」

「車が通って水が跳ねそうだったからな…制服についてないか?」

そう言って私の方を少し見下ろして言った。
確かに、肩を抱き寄せられたときに車が水たまりを通る音が聞こえていた。
気遣ってくれていることに嬉しかったが、まだ彼の胸に密着していることに恥ずかしさを感じて慌てて身を離した。

「うん、大丈夫だった。それよりずっとくっついててゴメン」

「いいんだ。それより俺が車道側を歩くべきだったな、替わってくれ」

「え、いや、いいよ別に!傘に入れてもらってるだけでも有り難いんだから…」

大丈夫、と制止の意味を込めて手を上げたが、彼は気にせずに車道側へと移動した。

「…ありがとう手塚君。優しいね」

度重なる優しさに嬉しくなると同時に、次第に胸が締め付けられていった。
恋人でもなんでもない、ただのクラスメイトの私にするっていうことは、彼にとってこれは当たり前の親切なんだろうと、自惚れてはいけないと言い聞かせた。
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