立海夢
□丸く大きく
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『どう天才的?』
君みたいにガム風船を上手に膨らませたかった。
そう思って買ったガム。だけど、何回やっても膨らますことが出来ない。
やっぱり私には無理なんだ…。
「たまこー?聞いてる?」
「あ、うん…」
帰り道。
友達のメアリーと一緒に夕焼け空の下を歩く。
私は一人、ガムをかみながら。
「ていうか、クチャクチャうるさい!!」
「え?」
「そのガムよ!!丸井君を目指してるのかわからないけどねぇ…いい加減膨らますことぐらい出来なさいよ!!」
「アンタの声のほうがうるさいよ…」
わかってるさ、それくらい。
自分には出来ない、ってことぐらい。思い知らされてるよ…。
でも少しでも丸井君に近づきたいじゃん。
だからこうやってガム噛んで、少しでも丸井君の雰囲気を出してるじゃん。
もう口がスースーしすぎてるよ。
―――次の日。
今日は私が初めて丸井君と話した記念すべき日になった。
放課後に委員会で遅れているメアリーを門で待っていたときだった。
そろそろ噛んでいるガムを交換しようかとかばんからガムを取り出したとき、突然、声をかけられた。
「あ!ソレ、俺も持ってるぜ!!」
横からひょいっと顔を出す丸井君。
急に現れた好きな人に驚いたのでガムを落としてしまった。
「あ…っと、はい」
落ちたガムを拾ってくれて、私の手の平に置いた丸井君。
だけど私はまだ固まっていた。というか思考停止。
「??おーい??おーいっ!!おい!!」
「…!まままままま丸井君!!い、いつの間に!?」
「さっきからいたぜ?てか、たまこもソレ食ってたんだな?好きなのかよぃ?」
私の名前…知ってたんだ。なんか、嬉しい…。
「あ、いや、違うの。ガム風船を作りたいの。それで買ったんだけど…全然出来なくて」
「ぷ」
笑われた。
そんなこともできないのか、だあい、と笑われた。
一瞬にして恥ずかしさがこみ上げてくる。
「そんなんじゃ出来ねーよぃ」
「え?」
「ガム風船に適したガムじゃねーとうまく出来ないぜ?」
「そうなの?そんなガムがあるの?」
初めて知った。ガムは全部一緒だと思ってた。
「そうだなー…あ、これこれ…と」
丸井君が自分のカバンからガムを出す。
「こういうやつだと作りやすいぜ」
いたって普通の20円くらいのガム。私が買ったガムは100円以上。
ちくしょう…。今までの努力は何だったの。
「そうなんだ…」
「…あげるぜ?」
「え!?い、良いよ!!丸井君の大事な食料だし…」
「そんなに俺ケチに見えんのかよぃ…。これくらい大丈夫だってーの!!」
そういって私の手に握らせた。
触れられた…。
ガムを握るといつもより自分の手が熱いことに気がついた。
「あ…」
「その代わりに…風船うまく作れよ?」
そう言うと、そそくさと去っていった。
「ありがとうって言うの忘れた」
てか!!
…こんなの食べれないよ!!た、宝物にしなくては…。
……嫌だ、私。なんか、痛い人みたいじゃん…。
「……」
結局、自分のお金で丸井君からもらったガムと同じものを買った。
―――次の日。
「…たまこ、ガム変えた?」
「あ、よくわかったね」
「そりゃーね。ほとんどアンタと行動をともにしてるからね」
さすがメアリー。
「それで風船は作れた?」
「ううん。でも…きっと作れないよ」
「なんでよ」
「だっていつも私、何したって出来ないじゃん?」
はぁ…とメアリーがため息をつく。出た出た、と呆れ言いながら首を振る。
「あのね、やる前からあきらめてどうするの?後悔は後から来るものよ?何も恐れることはないの」
「でも…」
「でもじゃない!こういう言葉知ってるの?"諦めたらそこで試合終了だよ"って言葉!!誰が言ったと思う!?安西先生よ!!いい?安西先生はね――」
また始まった。
メアリーのスラムダンクネタ。
それに諦めてるんじゃなくて、もう出来ないってわかってるんだよ…。
「メアリー…私、体育館行ってくるね」
「そのときよ!そのときに安西先生が…って、あ、ちょ!お弁当まだ食べ終わってないわ!!」
「別に来なくても大丈夫だよ」
メアリーがスラムダンクの話なんかするから…体育館に行きたくなっちゃったじゃんか。
体育館に着くと男子生徒がバスケをしていた。私は2階のギャラリーに上り眺める。
…こっちでもバスケかよ。
頬杖をついて見てるとボールを追っかけている姿の丸井君を見つけた。
やっぱり、かっこいいな。
昨日、話、したんだよね…。
そんなこと思ってたら丸井君の声が聞こえた。
「風船、出来たじゃん!!」
その声ではっ、と我に返る。
目の先に小さいが、ガムが膨らんでいた。
無意識でやったのかな…?
視線を戻すとそこにはもう丸井君の姿はなかった。
「あれ?」
ボールめがけて走ってる男子の群れの中に丸井君がいないかくまなく探す。
だけど、いない。
「どうした?」
横から急に声がして、向くと丸井君がいた。
「ぎょわっ!!」
「ぎょわって何だよ!そんなに驚かなくても良いだろぃ?てか、風船できたな!」
良かった良かった、とまるで自分のことのように喜ぶ丸井君。
その笑顔にきゅん、ときた。
「ありがと…丸井君のおかげでもあるよ」
「俺はただガムあげただけだぜ」
うん、それでもありがとう。
「ねぇ、丸井君」
「ん?」
「どっちが大きな風船作れるか勝負しよーよ!」
「お!いーぜ!!負けねーからな!!」
そう言ってポケットからガムを出した丸井君。ガムはいつものグリーンアップル味。
「たまこから膨らませていいぜ」
「うん、…んー……」
ふぅ、と慎重に膨らます。
さっきよりもかなり大きく出来た。
目だけで横を見ると丸井君の方がもっと大きかった。
さすがだなあ…。
だけど、すぐ割れちゃって、ガムが丸井君の口の周りにへばりついた。
「うわあーっ!!」
あせってる丸井君が面白くって、つい笑ってしまった。
「ぷっ…あははっ」
「あ、笑うな!!」
「だ、だって…すごく一生懸命でっ…ぷくくっ」
ダメだ…笑いが止まらない。
「このー…」
今度はホッペを膨らます丸井君。
「ハァ…おもしろいね!!」
「お、おもしろくなんか…な……ぃ…」
「…?丸井君?」
丸井君が急に真面目な顔をしたから、どうしたのかと伺った。
「丸井く――「好きだ!!」
「…え?」
まさかの告白にあほな声で聞き返してしまった。
「だから、好きだって!!前から好きだったんだよぃ!!」
ちょっと、なげやりになりながらも照れながら言う。
「そんな…うそ…だって今までそんな…」
そんな素振り、見せなかったじゃん。他人同士みたいだったじゃん。
「いろいろ話したりしたかったけど、き、緊張して…それに…」
「?」
「とっ…とにかく…好きなんだよぃ!!たまこが…好きだああー!!!」
コイツ、体育館で叫びやがった。
しかもステージに向かって。
せめて私のほうに向かって叫んでくれ。
でもそんな私の顔は真っ赤。
私も好きって言葉は結局、カミカミで伝えたのでした。
end.
(゚∀゚)ノ
安西先生…。
スラムダンクってよくわからん。