立海夢

□60cm
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次の日も、たまこは来た。
いつもより来るのが遅かったから来ないと思っていた。そう思って安心してた。なのに、来た。

しかもたまこの近くを通り掛かった仁王先輩が、練習相手(柳生先輩)そっちのけでたまこに話しかけに向かった。
たまこも嬉しそうに笑いながら仁王先輩に挨拶して話してる。
意味わかんねぇ。普通なら気遣うだろ?『あの眼鏡かけてる人待ってますよ?』とか『今日は見てるだけなので練習に集中してください』とか。ないのかよ、なにかさ。
また話してんのかよ。俺に内緒の二人だけの秘密ってのをさ。




















しばらくしてまたたまこの方を見てみるとまた仁王先輩がいた。なんで叱られねぇの?

そろそろ真田副部長にチクろうかと歩き出したら仁王先輩がたまこの腕を引っ張ってフェンスの中に入れた。入ってもいいのかと焦りながらも嫌な顔せず仁王先輩について行ってる。そして二人が向かった先は部室。

は?何あれ何あれ。意味わかんねぇし。なんで入れてんの?てか腕掴むなし。
たまこも着いて行くなよ。少しは嫌がれよ。嫌じゃないのかよ。
それよりもなんで部室に?てか部室って今、誰もいないんじゃ?
…まさか?

嫌な予感がして部室に一目散に走り向かった。ドアなんか壊してやる勢いで開けて、わずかな距離しかないはずなのに息が切れてる。
二人を見れば、あちらは呆然として見ていた。たまこはソファーに座って片足だけ靴下を脱いで、仁王先輩は棚の前にいた。


「なに…してんだよ…っ」

「何って手当てしようとしたんじゃが」



は?手当て?



仁王先輩もたまこも、息を切らして入ってきた俺を、キョトンとした顔で見てきた。



「来る途中にね、草で脚切っちゃって…大丈夫って言ったんだけど脚に傷痕が残ったら赤也が泣くからって仁王くんが言って…」

「草…脚、あ、そう…」

なんだそっか。ちょっと安心して拍子抜けした。
てか、俺が泣くからって人を脚フェチみたいに言うなよ。

「じゃ、俺は戻る。あとは頼んだぜよ」

棚から救急箱を取り出し俺に渡すと、仁王先輩は部室から出て行った。





部室には俺と好きなやつ。

普通なら告白のチャンスなんだろうけど、今の俺には正直そんな気分じゃない。
仕方なく、たまこの前にしゃがみ手当てをする。


「脚見せろよ」

「うわ、スケベー」

「いいから」

「はーい」

細い切り傷から赤い血が見えて、まだ垂れてはいないけど、触ったら溢れそうだった。そこに消毒液を染み込ませた脱脂綿を宛てる。
そうすると染みるのかたまこの脚が小さく跳ねた。

黙って堪えていたたまこが口を開いた。


「仁王くんっていい人だね」


だけどその口から出たのは、他のやつのことだった。


「いろいろ話してくれるし、優しいし」


どこ見てんだよ、俺を見てたんじゃないのかよ。


「赤也もあんな先輩がいて、幸せでしょ?」


手当てが終わると立ち上がり、笑顔で見上げるたまこを見下ろした。

「うっせー。他校まできて男探しかよ。…ずいぶんと飢えてんだな」


自分でも、ひどいことを言ったと思ってる。本心ではないし、言って後悔した。
違うんだ、と言ったことを訂正しようと口を開いたが、もう遅かった。


「そういう意味で来たんじゃないんだけどな…赤也にはそう見えてたのか、そっか…ごめんね」


顔を隠すように俯いて立ち上がると駆け足で出て行った。
口元は笑ってたけど、笑ってなかった。声が震えてたからきっと、泣いてた。
これはきっと、傷つけた。
だよな、言った俺でさえ言い過ぎたって思うし、ひどいと思った。傷ついて当然だよな。

救急箱をしまって部室から出てたまこの姿を探すけど、たまこはいなかった。

















どうやって謝ろう。
頭の中はそのことでいっぱいだった。
今まで、ケンカしたときどうやって仲直りしたか思い出せない。ただごめんって一言だけで済むようなことじゃないし、言ったとしても前のような関係には戻れないかもしれない。

俺の部屋で毎日笑いあってるのが普通だと思ってたけど、今こうして一人になってみると寂しい。部屋もなんだか広く感じる。
この60cm先はたまこがいる。近いけどすごく遠い。すぐ行けるのに…。
いろいろ悩んでいるとたまこからメールが来た。



開くと『消毒ありがとう。言い忘れてた。』ってあった。



なんか嬉しいとかごめんとかそういう気持ちより先に怒りが込み上げてきた。
いつもはこのくらい窓から覗いて言ってくれるくせに。なんでメールなんだよ。顔合わせたくないならありがとうとか送ってくんな。

…期待、するだろ。





我慢できずに窓を開けてたまこの部屋の窓も開けた。鍵が掛かってないのが意外だった。
そのままひょいっ、と壁と壁の間を飛び越えてたまこの部屋に侵入した。



たまこはケータイの画面から俺の方に振り向き目を見開いた。
そのままずかずかとたまこに詰め寄る。

「え…なんで、赤也…?」

目一杯開いた目は潤んでて涙が溜まってた。頬にも一筋濡れていた。

「ありがとうとか、送ってくんなよ!」

「えっ…?」

「大体、お前が立海に来なきゃ良かったんだよ!そうすればこんなにイライラしないし、ケンカもしなかったのに!」

口を開けば次々と責め立てる言葉が出てくる。止めようと思っても止まらない。

「だって…部活頑張ってる赤也が見たくて」

「だったら俺だけ見てろよ!なんで仁王先輩なんかと話してんの?秘密なんか作ってさ!腹立つんだよ!転んだなら俺に言えよ!仁王先輩なんかに触らせてんじゃねぇ!!!」

溜めていたものを全部言ったら、少しすっきりした。でも、まだ言ってない…。


「…赤也、ヤキモチしてたの?」

「そうだよ…」

認めたらたまこがちいさく笑った。

「…、嫉妬してたよ!格好悪いって思ってるけど、イライラすんだよ!悪いかよ…」

「嬉しいよ、赤也」


にこって俺の大好きな笑顔を見せると抱き着いてきた。まさかの展開で頭が真っ白になっているとたまこがさらに強く抱き着いてきた。


「…抱きしめてくれないの?」

「えっ、あ…あ!うん」

焦ってたまこを抱きしめたけど、感覚がない感じ。頭の中がぐるぐる回って何が起こってんのかわからない。
抱き着いてきただけで混乱するなんて、笑える。
でも、混乱なんかしてる場合じゃない。言わなきゃ。



「たまこ…、あのな」

「うん?」


少し身体を離してたまこを見つめながら真剣な顔で言う。
ちゃんと想いが伝わるように。




「好き、だ」



まっすぐ見つめながら言ってみたけど、照れが入って噛みそうになった。だけどちゃんと伝えた。
あとはたまこの返事を待つのみ。
俯いて黙るたまこを見つめる。


「……遅いよ」


「…え?」



遅い?
なにが?言うのが?
じゃあ、なに。たまこ、もしかして…もう、できたのか?
まさか仁王先輩?いや、ないだろないだろ。だったらさっきのやり取りは何だったんだよ。
じゃあ…何が遅いんだ?




「たまこ…?」

「遅い!遅すぎるよ!ずっと待ってたんだから!小学校の頃から…赤也のこと、好きだったの!毎年バレンタインでチョコあげてるのにちっとも気づいてくれないしさ、クリスマスとかお正月とかも一緒に過ごしたじゃん!ちょっといい雰囲気になったじゃん!しかも中学に入ったら学校違うから、赤也となかなか会えなくなっちゃうのに赤也は平気でいるしさ、彼女とかできたらどうしようってずっと悩んでたんだからね!いつも一緒にいたのに…気づいてくれなくって諦めたんだからね…。ばか。なんで今になって言うのさ。遅いよ!もっと早くが良かったよおおお!」


バッと顔を上げたと思ったら睨みつけられて、口を開いたと思ったら愚痴を言われて、また俯いたと思ったら、泣かれた。
こんなことを言ったら怒られるかもしれないけど、そっちの"遅い"で良かった。
たまこが誰のものでもなくて、そんなに前から俺のことを想って見てて悩んでいてくれたのが嬉しかった。嬉しくて嬉しくて、ついつい男の力で強く抱きしめた。


「痛いよばか!ばか!ばかやぁあ!」


悪態をつきながらもちゃんと背中に手を回してくれた。


「嫌い?」

「今も、前と変わらないよ…」

「ということは?」

「…………好き」

















「ほら、いいかげん泣き止めよ」

しばらくたまこを宥めていてもたまこは涙が止まらなかった。

「もう泣き止んだよ、鼻水が止まらなくなったの」

ちーん、とティッシュで鼻をかみ。ごみ箱に投げつけるたまこ。
俺はふと、ずっと気になっていたことを思い出した。

「なぁ、仁王先輩との秘密ってなに?」

「……赤也の話」

前はなかなか話してくれなかったから、今回もかなって思ったけど、意外にあっさりと答えてくれた。

「は?俺?」


「仁王さんにね赤也のこと好きなの、って言ったらね手伝ってあげるって協力してくれたの」

「協力…?」

俺にとっては邪魔だったけど?

「赤也と学校違うから中学での赤也のことをいろいろ教えてくれたんだ…いつも居眠りしてるとか、試合中にキレて周りに迷惑かけてるとか、この前の英語のテストで3点取ったこととか、夏の思い出って言って副部長の鞄の中にセミの死骸を入れたりとか…」

いや、俺的にマイナスなことしかないんだけど。
提供する情報間違ってません?

「これは赤也に内緒で教えてるから二人だけの秘密にすること、って仁王先輩が言ったから、赤也には内緒にしてたんだ。ばれて赤也にも怒られたくなかったし」

「…じゃあ、俺は…」

「自分のことを噂されてるとも知らずに嫉妬してたんだよ、かーわうぃー」

「…っ!うっせー!うっせー!だって嫌だったんだよ、仁王先輩と仲よさ気だったし、二人の秘密とか言って俺なんかのけ者みたいな感じで寂しかったし…!」

「うん、ごめんね。でも、もう行かないよ。行ったら赤也、嫌だもんね?」

「…べつに、俺だけ見てるならいいけど」

「…ぶ、ウケる」

「何笑ってんだよ!」

「可愛いなぁーって。うん、じゃあ行く。行って赤也だけガン見してる。赤也も、ファンの子達じゃなくて私だけに手振ってね?」

「手なんか振ったことねぇよ!でも、まぁ、たまこにだけ特別に振ってやるよ」

「うん、鬼の副部長に見つからない程度にねっ」

「ぜってー見つかんねぇって!」

「その自信はどこから湧いてくるの?」

「たまこへの愛かな?」

「うっわ…寒気が…」

「は?ひどくね?」

「嘘嘘、嬉しいよ」

「たまこ、好きだからな」

「うん、知ってる。私も好きだよ」




end.



( ゚∀゚)

遅くなってごめそ(´;ω;)
変に設定に力入れすぎてこんがらがった!←
やっぱり切甘は苦手だorz
由稀ちゃん、さんくす(^O^)
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