立海夢

□60cm
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ピコンピコン、バキュンバキュン

ここは俺の部屋。
俺の握ってる小型ゲーム機からなんともゲームらしい音が出ている。
その横で俺の部活のアルバムを見ながらお菓子を食べているのが、幼なじみのたまこ。

家は隣同士。向こうの部屋からこっちの部屋まで簡単に行き来できるようなほど、隣同士。つまり隣の家との感覚がわずか60cm。そんなこともあってか今ではすんげー仲良し。

てか、俺はたまこのことが好き。もちろん、そーゆー意味で。

幼稚園、小学校って一緒だっから中学校も同じかと思ったけど、たまこは学区の違う隣の中学に通ってる。俺は一緒が良かったんだけど、たまこがどうしてもやりたいことがあるらしく、向こうの学校に行った。それでも、昔からの交友関係は途絶えずこうして遊びに来ている。



「赤也、聞いて聞いて!あのね、英語のテストで31点とったんだよ!頑張ったと思わない!?」

あっ、と言って何か思い出したような声を上げたと思ったら自慢話だった。
てか自慢するような点じゃねぇし。

「は?31点?ダサいっつーの。赤点ギリギリじゃん」

ゲームをやりながらも、返してやった。

「それでも前の12点よりマシじゃーん!そういう赤也はどうだったのさ!」

そう言えば褒められると思っていたのか、口を尖らせて言ってきた。ちょ、その顔可愛いし。

「え…、お、俺のところはまだテストやってねぇよ…!

なーんて、実はやってる。答案も返ってきた。え?結果?壊滅的に決まってんじゃん…。
そんなかっこ悪いことは、いくら幼なじみだからといって好きなやつには言いたくない。




「ねぇ、この人だれ?」

しばらくアルバムを眺めていたたまこがある人物を指していた。
たまこの見ていた写真はいつだったかに撮った集合写真。
ゲームやってるからチラッとだけ見て答えてやった。

「ああ…仁王先輩だよ」

「すごい色白いね。ちゃんと部活に出てんの?この人?え、てか茶黒いやつ隣じゃん!なにこれ、いじめじゃない?」

色白いって…まぁ、白いけどさ。だったら幸村部長はどうなんだよ。てか茶黒いやつって、ジャッカル先輩だし。いじめってどんなだよ!

「出てるよ。この人は厄介だぜー?すぐいじめてくるし…」

途端にゲームオーバーになり、色々な意味ではぁっ、と深いため息を吐くとたまこが笑った。
何笑ってんだとたまこに視線を向けると写真を眺めたまま言った。

「ふふっ、きっと赤也が可愛いんだよ」

「は!?か、可愛い!?なら可愛がれよ…」

自分で言っておきながら、仁王先輩が俺を可愛がっているのを想像したら、おえってなった。

「顧問もユニフォーム着てるんだー…すごいね」

「は?顧問…?どれ?だれ?」

そんなやついたっけ?と写真を覗き込む。

「この人。なんか厳しそう」

たまこの指の先にいたのは…

真田弦一郎。

いやいやいや!定番過ぎるだろ!

「ぶはっ!お前さいきょー!」

「えっ、なになに!?」

「そいつは副部長!顧問じゃねぇよ!」

笑いすぎて絶え絶えながら本当のことを教えるとたまこはさらにテンパり始めた。

「えっ!えぇえ!?え、なに、うそ!?老けすぎじゃない?」

「おまっ!そんなこと言ったら殺されるぞ!」

まじおもしれぇ。腹抱えて笑った。まだひーひー言ってる。
やべぇ、爆笑したら腹筋割れるんじゃね?

その日はずっとレギュラーの人たちについていろいろ話して、笑った。
だけど次の日、写真なんか見せるんじゃなかったって後悔するんだ。



















次の日、いつも通り授業に寝て放課後になって起きて、部活していた。いつも通り、黄色い声を浴びながら。


「っしゃあ!ランニング終わりぃ!」

部活と言ってもグラウンドを走らされていた。一人だけ。
理由はまぁ、授業中ずっと居眠りしていたのが真田副部長にばれたからなんだけど。
こういう姿はたまこには見られたくないなぁ。ま、学校違うからそんな心配もねぇけどー……っん?

タオルで額に流れる汗を拭きながらコートに戻っていると、馴染み深い顔が視界に一瞬だけ映った。




「赤也ー!」

うじゃうじゃといる女子の中に一人だけ違う制服で、俺を呼び捨てで呼ぶやつ。そんなやつ、一人しか許してない。
たまこだ。

「赤也、だっさーい!」

フェンスの向こう側で周りの女子に睨まれながら、そんなのお構いないような笑顔でこちらに手を振っている。

「赤也、だっさーい!」

「うっ、うっせーよ!2回も言うな!てかなんでいるんだよ!!」

声を張りながらフェンス越しに近寄る。
なんだか、いつもはいない場所に好きなやつがいるって新鮮でちょっと…照れる。

「えへ、来ちゃった」

悪びれる様子もなく言うのが可愛くて、ちょっと許してしまう。


「来ちゃったじゃねーって…」

「だってさー、赤也があんなに部員のこと楽しそうに話すんだもん。見てみたいって思うじゃん?」

口を尖らせながら言うその顔も可愛くて許してしまうそんな甘い俺って何。
さらには見上げられてドキッときてムラッとした俺って何。

「別に見てるだけならいいけど、邪魔すんなよ?」

「うん!わかった!あ!この人が鬼さん!?」

わかった、と言ってこくこく頷いてるのを見て安心していると、俺の後ろを指差して笑った。

「は?副部長がどうかし…―――「赤也、授業も怠けて部活も怠ける気か?たるんどるぞ!」


振り向くともう、鬼ってほどじゃない顔で立ってる真田副部長がいて、反論する隙も与えず制裁された。

赤也くんかわいそう…、とかいろいろ同情の言葉を漏らす女子たちがいる中、一人、腹抱えて笑っていた。
たまこだった。



「ぶははははっ!ださっ、ださ!かわいそー!ぶははっ!」



もう俺、何。


















また走らされていながら遠目でたまこを見ていたら、仁王先輩がたまこに話しかけていた。

なんだよあれ。てかなんで仁王先輩は叱られないんだよ。話し掛けてんじゃねーよ。























「だから、嫌だったのに…」

帰りは念願のたまこと。だけど気分は超下がってる。

「なにが?」

それとは裏腹に明るい調子の声で聞いてくる。なんか腹立つ。

「お前が」

「えっ?」

「なんで来たんだよ、来んな」

「なんで?」

わかっていないような顔がまた腹立つ。こっちはこんなに不安なのに。

「なんでも」


それ以降、会話がなかった。ただ同じ早さで歩いてるだった。ばいばい、とも、また明日ね、とも、後で部屋に行くね、ともなかった。
家に入る前にチラ見したとき、たまこの表情がなんか元気なかった
。やっぱ自分のせいかなって思うけど、謝ってなんかやんないし。悪いのはあっち。人の気も知らないでいるのが悪い。俺は被害者。
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