立海夢

□嘘つき
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ペテン師、って呼ばれてるのは知ってる。そんな仁王くんに惚れたんだから間違いない。
だけど…今では嫌いになっちゃったよ。







「あ、仁王くん、おはよう」

朝、玄関で靴を履き変えていると前方に猫背の彼が見え声をかける。
私の声を聞いた彼は、赤い紐で結った銀色の髪を揺らしながら振り返る。


「おはよう」


にっこりと笑い手を挙げる仁王くん。そばに寄るといつものようにその手を差し伸ばしてきた。その手を握って仁王くんの顔を覗けばまた笑顔。
私はこの笑顔が苦手。


「ねぇ仁王くん、今日って一緒に帰れるかな?」

「…ああ、帰れるぜよ」

「なら一緒に帰ろう」

「わかったなり」


本当は優しい仁王くん。
最初はその優しさが嬉しくって幸せだった。
だけどその優しさがだんだんと嘘なんだってわかった。




「うん、じゃあ、帰りね…」

「帰りって…昼休みにも会うじゃろう?」

「そうだね」

仁王くんがクラスに入っていくのを見て私も自分のクラスに向かった。
仁王くんとはクラスが違う。だから会える時間も少ない。だから私といるときの仁王くんの態度が違うことに気づいたのは早かった。








気づいたのはつい最近。昼休み。仁王くんに会いに行ったときだった。
クラスの友達と親しげに話していた。普通なら変に思わないだろうけど、私は気にかかった。

仁王くんの笑った顔が、あからさまに私に向けていた笑顔と違うからだった。それに喋り方もなんだか違う。雰囲気とかも。
きっと友達だからなんだろうって思った。だけどそんな思いも虚しく、他の人でも態度が違った。
私に向ける笑顔はなんだか作り物って感じ。笑顔だけじゃない、物腰も、無理してるように思えた。

それからだった。仁王くんといても心から笑えなくなったのは。無理してる、って思えば思うほどそんなふうに見えてきて、自分が惨めに思えてきた。
一度だけ、無理してない?って聞いてみたことがある。仁王くんは一瞬止まって「いいや」とあの笑顔を浮かべて言っただけだった。

たぶん仁王くんは私に飽きたんだと思う。

仁王くんの好きなタイプは駆け引き上手な人。私は駆け引き上手でもなく直球でもなければ回りくどいわけでもない。ただ相手に合わせるような性格なだけ。だから、飽きたんだと思う。それか元々、本気じゃなかったか。
その方がいい。
嫌われるよりはマシだから。




















「仁王くん」

昼休み。
仁王くんの教室に行って昼食に誘った。

「すまん」

だけど断られた。
仁王くんが断るなんて珍しい。
まさか、もう?

「ブン太との賭けに負けてしもぉての…今日はずっとブン太の言いなりなんじゃ。だから、帰りも…」

「あ、うん、大丈夫。大変だね」

大丈夫じゃない。ほんとは違うんじゃないかって疑っちゃう。


「ごめんなー?たまこちゃんの彼氏ちょっと借りるぜぃ」

すまん、と頭を下げてる仁王くんの後ろからブン太くんがひょい、と顔を出し無邪気な顔で謝ってきた。

「あ、うん…気にしないで」

作り笑いで手を振ると自分の教室に帰った。


なんかモヤモヤする。
仁王くんと、どうなりたいんだろう。
仁王くんにとって私が辛いなら別れてもいいと思ってた。だけど、突き放されると、寂しいし泣きたくなる。
なんだろう。これ…。



モヤモヤしたまま午後の授業を受け、放課後になった。
いつもの癖で仁王くんの教室に来ちゃった。やっぱり仁王くんの姿はない。

「今ごろ、ゲーセンかな…」

遊んでる風景を思い浮かべながら学校を後にした。

それにしても、今回みたいなことは初めてだ。仁王くん、部活以外で私の誘いを断ったことなんてなかった気がする。
別に、友達を優先しないでほしいなんて思わない。私も友達を優先するときだってある。それに友情って大切だし。
でも、今、だから困る。仁王くんを疑ってる今だから、不安になる。
私のことを…。

その続きの言葉を思うと、悲しくなってきた。今まで我慢してたけど、もう限界っぽい。
涙が出てきた…。
視界がぼやける中、早く帰ってしまおうと早足になるけれど、道を進むに連れて仁王くんとの思い出が溢れてきて、さらに視界がぼやける。



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