立海夢
□letter
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「雅治、ちょっといい?」
私の彼氏は学校でかなり有名。
「なんじゃ?」
テニスが上手い、そんなことではない。
「れみちゃんって誰?」
浮気性なことで有名なのだ。
私が今持っているのは、可愛らしい花柄模様のメモ用紙。
さらにピンク色の可愛らしい字でこう書いてある。
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まさはるくんへ![](/img/emoji/54.gif)
昨日は楽しかったね^^
まさはるくんが取って
くれたぬいぐるみ、
大切にするからね![](/img/emoji/54.gif)
またつれてってね![](/img/emoji/54.gif)
だいすき![](/img/emoji/54.gif)
れみより
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なんなのこの手紙!!
ハートマークありすぎ!
ぬいぐるみって何!
昨日は部活だったんじゃないの!?
てか、れみって誰!
「あ…バレてしもたか」
「今の世の中、携帯電話という便利なものがあるにも関わらず、文通するなんてね…どうして手紙交換してるのかな?」
「ケータイだとすぐばれるじゃろう?」
「そんなこと聞いてんじゃないよ!なんで女子とやりとりしてんだって聞いてんだよ!ホントにおつむが弱いね!この流れ、空気、私の雰囲気から読み取ってよ!誰もやりとりの手段なんか聞いてないの!どうしてやりとりしてるのかを聞いてるの!」
「わかっとるからそんなに声を張り上げるんじゃなか…」
「わかってる!?わかってない!全然身体に染み込んでない!私が言いたいのは…!」
そこでハッとした。
この前もこんな風に怒って、ストレス感じた雅治が浮気しまくったんだ。
こいつのストレス解消法は浮気なのを忘れてた。
なのに浮気しないでって言おうとして…。もう手遅れかも、と雅治を見てみれば、
「?言いたいのって何じゃ?言わんのか?」
セーーーフ!
あほで良かったああ!
「い、言いたいことは、ね…。私も雅治と文通したいなーなんて、…」
「…へぇ?」
やばいやばいやばいよ!
咄嗟に考えて言ってみたけど、きついよこれ!雅治も戸惑ってるし!しかも前の態度と全然違うじゃん私!
「あー…ゴメン気にしないで。ちょっと精神科行ってくるわ」
「たまこ…?」
呼び出して悪かったね、と言って自分の教室に戻った。
いろいろショック。
雅治はまだ浮気の重大性がよくわかってないし、何度言っても繰り返す。バカ犬かてめえは。
これで浮気何回目?あー数えたくないや。
私ってちょろい女なの?勘鈍い?そもそも本命なのかな…?
それでも雅治を好きな私って、何なの?
次の日。
朝玄関で下駄箱から紙が落ちた。
委員会の連絡かと読んでみれば、雅治からだった。
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たまこへ
文通したいとかいきなり
言うから書いてみた。
昼休み、一緒に飯食おう
奥上で待ってる。
仁王
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雅治から初めて手紙もらった!!嬉しい!
私の言ってたこと本気にしてくれたんだね!
そっけない感じだけど、モノクロだけど、屋上の漢字間違ってるけど、すごい嬉しいよ、雅治。
昼休み、ウキウキルンルンで屋上に行った。
「あれいない。まだ来てないのか」
待ってる、と書いてあったからもういるのかなって思ったけど雅治の姿はなかった。
待ってる間に雅治に返事でも書こうかな。
「…雅治へ…返事ありがとう。まさかくれるとは思わなかったから、すごい嬉しい。一つ聞きたいんだけど、私は雅治にとってどんな存在?ちゃんとした彼女になれてる?返事待ってます。よしこれでいこう!」
鞄の中からノートを出して書き込んでいく。花柄とか可愛らしい物は持ってないから回りに赤ペンで花を描いた。
それにしても雅治遅いなー…。先生に捕まってるとか?電話かけてみようかな。
ケータイを取り出しコールするがまったく出ない。
「はあ…」
思わずため息。
来ないと決まったわけじゃないし、落ち込んでてもしょうがないか。雅治には悪いけど、先に弁当食べてよー。
「ねぇ、雅治くんっ。今日は一緒に食べられないんじゃなかったの?」
「んー?なんでじゃ?」
「彼女サンと食べる約束したんじゃないの?」
「…………あー、忘れとった」
「やだもー雅治くん彼女サンとの約束は忘れちゃダメだよぉ。でもれみ嬉しかったりしてーなんてね!会いに行かないの?」
「んー…行った方がいいかもしれんが怒られそうじゃからなー面倒じゃ」
「じゃあれみが代わりに行こうか?雅治くんが先生に捕まっちゃったからって言ってごまかしてくるよっ」
「れみちゃんいい子じゃのう…じゃあお願いするぜよ」
「はあーいっ!」
雅治くんからお願いされちゃった!場所は確か屋上って言ってたから大変〜。
屋上につけば、彼氏にすっぽかされたことも知らないマヌケな彼女サンがいた。頭が下がってるけど寝てるのかな?
「たまこさーん?」
「…ん」
顔を覗けば寝顔。
お弁当を食べながら雅治くんを待っていたけど、寝ちゃったってわけか。
伝える必要もないかな。
「ん?手紙?」
彼女サンの手には二つ折りにされたノートの切れ端。
そっと取って読んでみた。
「…雅治くんに?」
恋人同士なのに手紙交換してるんだー変なの。…あ、そーだっ!
「ちょっとペン借りるねー」
「…はっ!雅治っ、弁当っ!……寝てた?」
目を開ければよだれは出てるし、肌寒くなってるし、空は赤くなってるし、野球部の声は聞こえるし…。
放課後までがっつり寝てたのか、私。
結局、雅治は来たのかな?
てか手紙!ちゃんと握っていたのにない!落ちてもないし…まさか風で飛んでいっちゃった?
…また書き直さなきゃ。雅治が帰る前に渡せたらいいな。
帰ろうと鞄にしまっていると屋上の扉が開いた。
視線を向ければ出てきたのは雅治。
今さら来たって遅いっつーの。
「どうしたの?雅治」
雅治は私に気がつけば深刻な顔つきで近づいてきた。
「たまこ…」
「ど、どした?顔がいつになく真面目だけど」
「…すまん」
「あ、あーいやいや、大した約束じゃないし全然いーよ」
「違う、そうじゃなくて…」
「え?」
「たまこに、別れるほどまで不安にさせてたこと謝りたくて、謝ったんじゃ」
「…え?別れるほどって何?私たちいつ別れたの?」
「たまこが手紙に書いたじゃろう?我慢できない別れようって」
「手紙?読んだの!?…でも待って!私そんな別れようなんて書いてないよ?違う人の何じゃないの?ほら、れみとかいう子がさ…」
「ちゃんとお前からって書いてるぜよ」
ポケットから取り出した紙を見た。確かに私のノートの切れ端で、私の字で私の名前が書いてあった。
「なんで…?私、違う、私書いてないよ!」
「口で言えないから、昨日文通やろうなんて言ったんじゃな」
「違うの聞いて!」
「俺もこれ見てから悪いなって思ったから…いっぱい怒らせて、不安にさせてすまん」
「雅治っ!」
私の声に反応することなく、雅治は屋上から出ていった。
違うのに、手紙嬉しかったのに、まだ我慢できたのに、別れたくなかったのに…大好きなのに
あれから数日。
私は声を張り上げることもなくなった。お昼は友達と食べて、放課後はさっさと家に帰った。
靴箱に紙が入ってるかどうかも見ることはなくなった。
私の生活から「仁王雅治」を取ってしまえば、すごいつまらない。
心もつまらなかった。
どうしてばかりの疑問をうめつくして、すっきりしない。モヤモヤと留まっている感じ。
どうして、別れようなんて書いてあるの?私書いてないのに。もしかして寝ぼけて?無意識に?
そんなはずない。
まだ好きな限りは別れない。だから別れようなんて書かない。書けないよ。
信じて、雅治…
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