立海夢

□雨と傘と君
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ザーっと、激しい音を立てて途切れなく落ちてくる雨。
今日は最悪の日だ。






学校が終わり自宅へと戻ろうと帰路を歩いていたらポツポツと雨が降ってきたのだった。生憎、傘は持っておらず、しっかり天気予報を見ておけばよかったと、朝の自分の行いに後悔をした。
少し濡れてもいいからと思って走っていたのだが、すぐに雨足が激しくなってきて頭に落ちてくる雨粒が痛いと感じるほどに。仕方ないから近くの店のひさしに隠れて雨宿りをしていた。

「いつ止むのかな…これ」

雨宿りしてから20分が経とうとしている。いつも帰宅時間になると人通りが多いこの道だけど、今では誰ひとり通っていない。
普通なら今頃部屋でごろごろしている時間だなぁ…。

下を向いていたら横を通った車が水たまりの上を思い切り走り、水しぶきが私の体にかかった。まだ肩ぐらいしか濡れていなかったのに、今のせいで全身濡れてしまった。ところどころに泥もついており、明日はジャージ登校になるなとさらに憂鬱になり、今日何度目かわからないため息をついた。










車から水をかけられてからしばらくすると、私が来た方向から傘を差した男子生徒が歩いてきた。濡れずに帰れるなんて羨ましいなと思いながら、その姿をずっと見ていたら、その生徒がこちらに向かってきた。

「…?」

「よっ!傘忘れてきたのかよ?」

明るい声と一緒に傘をくいっと上げて話しかけてきたのは、クラスメイトの切原赤也くんだった。教室でも挨拶とか必要なことくらいしか話さなかったから、こうやって声をかけてきたことに驚いた。実は私がずっと想いを寄せている人なのだ。

「う、うん!天気予報見てなくってさ…」

「俺も俺も!でも母ちゃんが傘持ってけってうるさくてさー!言うこときいて正解だったわ〜。てか家ってこの辺り?近く?」

「ちょっと遠いかな?ここから30分くらい」

「げっ!?30分!?遠いなーそれ…」

「あはは…もう慣れちゃったよ」

彼の話に頷きながら、どうしてここから去らないんだろうと不思議に思いつつも、まだこうやって話していたいと思っていた。

「雨もいつ止むかわからないから、そろそろ帰ろうかなって思ってるんだ」

「え?でも…ってすっげー濡れてるじゃん!!」

でも、と言って私の体を見た彼は驚いたように言った。

「あー…これはさっき通った車に水かけられて…あはは」

「あははってあんた…。このままだったら風邪引いちゃうじゃん!俺の家ここからすぐだから一旦来いよ!」

「え?…ええ!?切原くんの家に!?」

急な提案に目を見開いて言った。彼からしてみれば私はただのクラスメイトなのに、申し訳ないと思ってしまって断ろうとしたが、彼がそれを制するように言い続けた。

「このままでも風邪引くし、そうしよう!ほら入って入って!」

「えっ、ちょ、ちょっと!」

彼が強引に私の手を掴んで自分の傘の中に招き入れた。そのまま私が雨宿りしていた場所を離れて道路を歩き始めた。

「あの、切原くん…ほんとに家に行ってもいいの…?」

「俺ん家、いらない傘いっぱいあるからそれ差して帰ってもいいし、雨止むまで待っててもいいしさ!だからとりあえず一緒に帰ろうぜ?…な?」

「…じゃあ、傘貸してもらおうかな」

彼がそこまで言うならいいかなと思って頷いた。
彼の傘は二人が入るには少し小さくて、お互い近づかないと肩が濡れてしまうくらいだった。これはいわゆる相合傘。でもクラスメイトっていう関係だし、変に近づいたら彼に迷惑かけると思って肩が濡れてもいいから少し体を離した。
傘を握り締める彼の手は私よりも骨ばっていて、腕まくりしてる袖から覗く腕の筋肉筋に男の人だということを強く印象づけられる。

「…俺の腕に何かついてる?」

「えっ!?い、いや!何もついてないよ」

「…?そう…。ていうかさ、俺の汗臭いジャージで悪いんだけど、これ着てくれない?」

彼が立ち止まり、鞄からジャージの上着を取り出して渡してきた。私はなんで急に着てくれと頼まれたのかわからなくて首をかしげた。すると、言いにくそうに彼がぽつりと言った。

「シャツから肌とか下着…透けてるから」

彼の言葉を聞いてハッとして自分の胸元を見ると濡れたシャツがへばりついて微かに下着の形や色が透けていたのであった。

「ごめん!気づかなくて!」

全く気づかず空かしたままずっと切原くんと話してたってこと!?恥ずかしい!何しちゃってるんだよ私〜〜〜!

とりあえず彼のジャージを着て隠した。

「別にいいけどさ。いいもん見れたことにするし」

「もう何言ってるの」

「ごめんごめん!」

彼は冗談っぽくアハハッと笑って前を向いて、お互い歩き始めた。そこからお互い何も話さず傘や道路に落ちる雨粒の音だけを聞いてしばらく歩いた。
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