海軍鳩
□01 月夜同舟
1ページ/2ページ
ルッチさんとくっついてから早2ヶ月、結婚はまだしてない。
最初は応援してくれていた周りの皆は私達のイチャイチャっぷりに嫌気がさしていて、バカップル吹っ飛べと言われた。
あれだ、この世界にはリア充爆発しろってのがないもんね。
「で、話ってなんですか?
なんかものすごく改まってますケド」
今日はいつもと違って、長官の部屋での全員の空気が重い。
なんですか、長官がついに左遷か?
「明日から長期任務になる、一年はここに帰って来れないだろう」
ルッチさんの言葉で、私はこの空気の重さを実感した。
長期任務で一年帰って来ない…
一年も彼と離れ離れって事か。
だから結婚しなかったのか?
「……我慢します…待ってます…」
彼はずっと待ってたんだから、私だって頑張る。
そう意気込んだが、彼は私も行くんだと告げた。
「任務でしょ?
私一般人より弱いかも知れないってのにどうして?」
そう訊くと、長官が嫌そうにコーヒーを啜って愚痴ってくる。
「ルッチに脅されたんだよ、美久里が一緒じゃないとお前を殺すって…」
そう本人の目の前でそれを言う長官、カッコイイです。
でもルッチさんの睨みでビビリ、コーヒーを落とした。
今回はカップが割れなかった、良かったね。
「離れる気は毛頭ない。
任務の内容さえ教えなければ、任務に支障はないだろう」
「で、何処に行くんですか?」
「W7だ」
あら随分近いのね。
「でもしばらく帰って来れないってことは、皆さんともしばしお別れってことですね」
それは寂しいなと思っていたが、カリファさんが少し任務の話をしてくれてた。
「任務はルッチ、カク、ブルーノ、そして私の4人で行くの。
しばらく会えないのはジャブラ、クマドリ、フクロウね」
「チャパー、美久里と会えないのは少し寂しいな」
「それは同感だ。
化け猫はどうでもいいが、美久里はいい話し相手だしよ」
「あァ、しばーしのぉぉ!
あ、別れにゃぁ〜涙が―――」
「明日にはもうW7に向かうぞ、美久里は荷物をまとめて来るといいじゃろう」
毎回だけど、クマドリさんの言葉はいつも遮られます。
まぁ、長いしそれでイイんだけどさ。
「じゃあ荷物まとめて来ます」
「オレも行く」
一人で行こうとしたが、ルッチさんはついてくる。
皆の顔をみたら、またイチャつきやがってと言った表情を浮かべていて少し笑えた。
「住処はどうするんです?
あと仕事も。
潜伏ってことはドコかに紛れるんでしょうし」
歩きながら質問すると、彼は喉で笑ってから口を開く。
「ガレーラカンパニーと言う船大工の会社に潜伏する。
お前と離れる気はないんでな、お前もそこの一員になってもらう」
「うひゃー強引ですね。
でもやれるのは雑用くらいですが」
「丁度食堂に求人が出ていたからそこにしておいた、問題ないだろう」
まー、人の意見も聞かずにやってしまうなー。
別にいいんだけどさ、どうせ拒否権なんか無いし。
「食堂かー、良かった、少しはご飯作れるし」
「家は無論、一緒だ」
「うは、たまんない」
2人っきりで毎日一緒…
ここだと人が居たり、やって来たりとそうも行かなかったから正直嬉しい。
それから荷物を整理していたら、あっという間に次の日になってしまう。
早いなー、時間って。
「じゃあ、皆さんしばらくの間ですが、お元気でー!」
海列車の窓から顔だけ出して手を振ると、残った皆が手を振り返す。
「帰ったら色々情報やるからなー」
「ありがとフクロウさん!」
「泣くーんじゃァねぇーーぞ!
これーーは、あ、永遠のー別れーーーーじゃねえのさぁ!!」
「うん。また」
ごめんクマドリさん、途中長くて何か分からなかった。
「化け猫に嫌気が差したらカクに乗り換えろよー!」
「ワシなら大歓迎じゃ!」
「殺すぞお前ら」
そこで皆で笑い、海列車は動き始める。
私はまだ窓から顔を出して、最後にジャブラさんへ大声で言葉を投げた。
「ギャサリンちゃんに告りなよーーー!!」
「大声で言うなァー!!!!」
そしてエニエス・ロビーから離れていった。
------
海列車で走って数分、少しだけどこれからの話をされる。
少しくらい知っておきたかったから良かった。
「ルッチ、カクはガレーラの船大工。
ブルーノは酒場の店主。
そして私はガレーラの秘書よ。
全員が顔見知りというのはマズイので、知らないフリをしてもらうわ。
取り敢えず、ガレーラにはルッチとカクが最初に入り、次に私、
そして最後に美久里の順番よ。
私達はW7の地理を知っているけど、美久里は知らないわよね。
ガレーラに入るまで観光をしているといいわ」
「はい!」
知らないふりをしろってのはちょっと難しいかもとは思ったけど、足を引っ張っちゃいけない。
それに、結婚してると旧姓名乗りたくないしね。
それからしばらく揺られて、ようやくW7が見えてきた。
「まずは住処ね」
カリファさんがそう言えば、ルッチさんは隠していた包を私に渡す。
中を開けてみると、ボーイッシュな服だった。
「何があるか分からん、外を歩く時は男装してろ」
「わー、なんかスパイって感じ。
着替えてきます」
そう言って座席の影に行くと、ルッチさんが背後に立つ。
見張りをしてくれるようだ。
「見張っててくれるのは嬉しいんですが、後ろ向いてて下さいよ」
「いつも見てるだろうが」
「こう集中して見られると着替え辛いですって。
ほら、向こうむく!!」
背中を押して後ろを向かせ、私は着替える。
顔が隠れる深い帽子にダボダボの水色のつなぎそしてスニーカー……
逆に清掃員に見えるんですど。
「あら、可愛いわね。
清掃員みたい」
「私もそう思いました。
でもコッチのほうが女性に見えないから確かに安全かもです」
女性を狙ってひったくりとかありますし。
「モップ持ってこようか?」
「本当に清掃員にしたいんですかブルーノさん。
カクさんどっから雑巾持ってきたんですか、置いてきて下さい」
カクさんとブルーノさんが笑い、私も一緒に笑った。
一方ルッチさんは私の服を自分の荷物の中にしまってくれていた。
「さ、降りたらもう別行動よ。
数日後に会いましょ」
カリファさんはそう言い、ブルーノさんの『空気開扉』で先にW7へと降りていった。
「次はワシが行くかの、またな」
今度はカクさんが降り、次は私達だった。
「じゃ、また数日後に会いましょう」
「あぁ、夜は頑張れよ」
その言葉に私が赤面すると、ルッチさんはニヤリと笑って私の手を引いた。
降りてみるとそこはドコかの路地で、カクさんやカリファさんの姿は無かった。
「オレ達の家はこっちだ」
またも手を引かれ、着いたのはブル屋でそれに乗ってどんどん街を登る。
何回か乗ってるけど、やっぱり面白い。
「ニー」
「え、お腹空いたの?」
途中でヤガラがコッチに向いて鳴いてきたので、ポケットのチョコをひとつあげるとヤガラはとても喜んだ。
大概生き物って飯欲しがるよね。
「そろそろ着くぞ」
「あら、早いね」
あっという間に家に到着したみたいで、一旦ヤガラを降りる。
少し高いところのマンションに歩いて行き、彼が鍵を開けた。
「うっはー!広ーい!!」
広々としたリビングに、オシャレな玄関。
広いキッチンや大きなお風呂。
部屋も同じく広くて逆に落ち着かない。