ジパング

□20 パラオ
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滝さんに起こされて、我々はパラオに向かうために再び飛行艇に乗り込むことになる。

如月さんはついて行く意味はないとのことで、台湾でお別れのようだ。


「ちょっとお別れの挨拶行ってきます」


「あぁ、手短にな」


滝さんは腕を組みながら顔だけこちらに向け、私も同じく顔だけ向ける。

それから見送ろうと立ってる如月さんへ視線を移して「えぇ、出来たら」と言い、私は彼の元へ向かった。


「どうも、早くもお別れですね」


「河本兵曹長が居るからな、オレはパラオには行かん」


朝、顔を洗いながら色々考えてみたら、如月さんと会うのはこれで最後になる。

角松さんがクーデターで艦を降り、そして戻ってくる時には、きっと私はいない。


草加さんと滝さんが一緒に艦に乗っている…しかもあれは空母だ。

あんなに甲板が広いのは空母だからだ。


その艦に乗るときは、角松さんが艦を降りた後のことなんだと思う。

そうなると、如月さんとはもう会えない。

凄く寂しい。


「これから先も、角松さんの味方で居てください」


「何だ、急に」


如月さんはあまり表情を変えずに言う。


「如月さんとは、もう会わないから言っとくんです。
角松さんは頼れるケド、無理しすぎるから心配なんです。
だから、お願い」


「…………分かった」



彼は私の眼を見て何かを悟ったのかそう応え、私は安心して微笑んだ。


「……未来で、何か良くないことが起きるんだな」


「…えぇ。
彼等はがんじがらめになってしまうようなことが起きます。
でも、私じゃ助けられない。
それは回避できない出来事なんです」


それはなければならないこと。


「短い間でしたが、楽しかったです」


さよならの代わりに手を差し出すと、彼は黙ってその手を取ってくれた。


「この手に殺されかけたと思うと怖いですね」


「そうだな。
今は良い思い出だ」


「え、それいい思い出なんですか?」


「なんとなくな」



それから私は笑い、彼の手を離す。

もう行こう、別れは済んだ。


「さよなら、如月さん」


「あぁ、お前もな」


彼に背を向け、私は飛行艇へと向かう。


それが飛び立ってからも窓から彼を見詰めたら、彼は私に微笑んで敬礼した。




------



それから数時間でパラオについた。

パラオは暑く、冬装備の格好で居るのがおかしいと感じる。


「あっつい!!
何ですか全く!台湾は寒かったのにここはジワジワと!!」


暑さに文句を言いながら脱いだコートを抱いているけど、この抱いているコートでさえ暑くて気持ち悪い。

暑いの嫌い!

しかもこの時代はクーラーがない!!

攫われた時も、途中や日本が辛かったよ。


「ここは南国だからな」


滝さんも暑いのか、額に汗を浮かべていた。


「クーラー欲しい……
あつい…」


文句を言いながら進み、草加さんは独房に入れられる為に私達とは別な方へと向かう。

河本さんともう一人兵が付いている彼に、私は駆け寄った。


「たまには顔を出しに来ますよ」


「いいのか?」


その時の顔がとても嬉しそうで、私もなんだか嬉しい。

ただ側に居るというだけなのに。


「えぇ。
草加さんが寂しいって泣いたら嫌ですもの」


からかうように言うと、彼は私の頭を撫でて微笑んだ。

私も、一緒に居られるのは嬉しいんです。


「カップの女王」


彼はいきなりそう言って、私は意味が分かって顔が熱くなった。

カップの女王は、愛情の意味が強い。

大切な関係を育てたい、そして深く愛されたいという意味もある。


「キミは?」


人前で『好きだ』なんて言えないから、彼はタロットの意味でそう言ったんだろう。

周りは意味がわからないので眉を寄せている最中、草加さんはその返答を待っていたので、私はとても戸惑った。


言って良いんだろうか

これから離れてしまうというのに


「美瑠璃」


彼は急かすように私の名を呼ぶ。


「…カップの6、逆位置」


「…………」


私の答えに、草加さんは黙ってしまう。


その意味は、過去を乗り越える、辛い記憶が薄れるなど、未来へ進む意味を持つ。

まだ、愛情の言葉は言わない。


なんだか恥ずかしくて、くすぐったくて言えないんだ。


「…では、そろそろ御同行願います」



河本さんがそう言うと、草加さんは黙ったままついて行く。

きっと、彼は愛情のカードを言って欲しかったんだろう。

でも、もうちょっと待って欲しいんだ。


きっと言ってしまったら、離れた私が辛くなるんだもの。


「お前はこっちだ。
夕刻頃に大和へ向かう、それまで休んでいろ」


滝さんは私を置いて施設の中に入りながらそう言い、私が慌てて追い掛けたら途中で転けた。

す、スカートに草と土がくっついた…


「何をやっているんだ全く。
鈍くさい女だ」


「す、すいません」


待ってよ、置いて行かれるのはイヤんです。

そのまま滝さんを追いかけていたが、途中で滝さんに腕を引かれて部屋に入れられた。

なんだ?なんて思っていたら、ここは滝さんの部屋らしい。


「お前の部屋はないからな、ここでその格好をどうにかしろ。
私は他の部屋に居る、用があったら来い」


そして滝さんは出ていった。

わー、デレたよ。


そして土の付いたワンピースを脱いで、今ある服は制服なのでその格好になる。

これ、よく考えたら約半年ぶりだ!!

久々の自分の服に、かなり嬉しくなった。

ここなら私が未来人だと言っても良いしね、滝さんもいるし。

て言うか今もうこの服しかないんだよね…

洗いたいんだけど、どうすればいいかな…

部屋の真ん中でウーンと悩み、滝さんに聞きに行くことにした。


部屋を出て、そしてそこから動けない。


他の部屋って、どこだよ。

説明が足らんぞ!例えば出て一番左の部屋とかそういうの言って欲しかったんですが!!


仕方なくトボトボと廊下を歩いていると、とある部屋の扉が開かれて誰か出てきた。

将校で、結構お年なおじさまだった。


「なんだキミは。
……その格好は何だ」


まずい、これはまずい。

この人は怖い人だ。きっとそんな感じ。


「その、
わっわたくし、巡洋艦みらいに乗っていた、白樺美瑠璃と申します…っ
その、滝中佐とここへやって参りまして……っ」


緊張で心臓が潰れそう。
そしてゲロ吐きそう。


そんでもって、巡洋艦で合っているのか不明。

誰か…いや、滝さん助けて。


「みらいの…?
ではキミは未来人か。
…未来の女はそんな格好をするのか」


非っっ常にヤバイ状況です。

破廉恥だの、はしたないだの言われそうです!こわいよおおおおおおお!!


「は、はぃっ!その、コレが流行です!
今はコレしか着るものがなくて…!
あ、あの、滝中佐は、今どちらに……」


怖がりながら滝の居場所を訊くと、おじ様は側の窓から外を指差し、目の前の建物に居るといってくれた。

ここの建物にさえいなかったのかよ!!


「あ、ありがとうございます。
失礼します!」



逃げるように建物に向かうと、滝さんがそこから出てきた。

こわかったよおおおおおおお!!


「何か用か?」


「あの、服を洗いたいんですが」


「洗い場はこっちだ」


彼は私を案内すると同時に、滝さんはさっきのおじ様と目を合わせる。

私は2人を交互に見てから、ちょっと眉間にシワを寄せた。

なんか、アイコンタクトしてた気がする。


「宇垣さんと話していたのか」


どうやら、あのおじ様は宇垣という方のようです。


「えぇ、話したというか…この格好だから呼び止められたというか」


そう言うとようやく彼は私の格好に気付いた。


「………なんだその短さは」


「…未来の流行」


「………靴下も妙な長さだな」


「それが流行です。
私はこれ好きなんですけどね」


滝さんは少し納得いかない表情を浮かべながら洗い場に案内してくれた。

鞄に詰めた服を取り出し、桶に入れる。

洗濯板、初めて使う…

ヨーロッパでは風呂でもみ洗いだったからなー

まぁイメージで洗えるはずだ。


「暑い時に水に触れると気持ちがいいですよねー」


桶に水と洗剤を入れ、ゴシゴシと洗濯板で洗うと、ちょっと手を擦って痛かった。

慣れればどうにかなるはず!
くぅうう!


「下手だな」


「…すいません、慣れて無くて。
未来だと洗濯機一つで、脱水、挙句に乾燥までしてくれたもので」


「乾燥までするのか」


「します。
未来は便利ですから」


さっきのワンピースは汚れが落ち、とても綺麗になった。

やはり洗濯板は違うな。


「あ。
洗ったものはどこに干していいですか?
正直下着は見られたくないんですが」


ワンピースを絞りながら言うと、滝さんは自分の部屋に干していいという。


「下着は隠せないでしょうか」


「知るか、そこまで面倒見られん」



ですよねー。


「どっか見られない場所に干しちゃダメですかね」


「盗られても知らんぞ」


「ぎゃー、それは困ります、っと」


固く絞るが、握力が足らないのかまた水が滴っている。

脱水機だけでも欲しい所。




 
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