ジパング

□29 繋がる吐息
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熱を出した次の日、私は十分に回復していた。

それと同時に草加さんはマリアナ諸島へと行く事が決まる。

その話で私は会議室らしき部屋で、草加さんと滝さんと共に居た。


「美瑠璃はどうする。
ついてくるか?」


草加さんは正直来てほしそうな顔をしている。

でも、ただの小娘がそんなトコに行っていいものなのか。

…いや、まぁ…大和や武蔵に行ってるから今更ですけど。


「正直行っても邪魔なだけだとは思いますが……
個人的理由で女連れ回していると色々マズイとも思いますし」


「美瑠璃は未来が見える、理由はそれで十分だろう」


そう言う草加さんに対して滝さんも何も言わないのが変な感じ。


「じゃあ、行きます」


チラッと滝さんを見たら、滝さんは特に何とも思ってないような表情をしていた。

未来が見えるって結構使えるもんね。


「じゃあ荷物をまとめてきます。
期間はどれくらいですか?」


「約2週間だ」


滝さんは腕を組んで息を吐く。
ここ暑いよね。


「長いですね…
みらいにスマホとか取りに行きたいんですけど」


「分かった、手配してやろう」


と、言うことで私はみらいに戻ってきた。


「ただいまー」


ワンピースを風にはためかせながら外に居た麻生さんに手を振って中に入る。

でも、中は少し空気が変な気がした。

何だか…少し空気が刺さるというか…なんだろう。


「よ、やっと戻ったか」


その声と同時に尻を撫でられ、私はちょっと飛び上がった。


「ぅひゃあ!
何ですか尾栗さん!いきなりセクハラとかダメでしょうよ!!」


「長い間可愛い子がいなくて寂しかったんだよ。
楽しかったか?」


悪びれもせず彼は笑い、私も悪い気はしなかったので笑った。


「楽しかったですよ、結構」


と、その時角松さんも通りかかり、彼にもただいまと挨拶した。


「元気そうだな、良かった。
……その怪我は手紙にあった怪我か?」


角松さんは私の腕の包帯に気付き、私はあぁ、と声を零す。


「それです。
いやぁ、米兵に撃たれちゃってー」


その瞬間二人の顔が強張るから私は大きく声を出して笑った。

本当のことだったんだが、私が笑ったことでそれが冗談だと捉えられたようだ。


「枝が刺さったんだろう?」


「えぇ、よそ見してたらコケました。
そしたら運悪くぶっすりと…」


そしたら2人は笑って不運だったなと言う。

ごめん、撃たれたのはホントなんだ。
マジごめん。


「楽しかったですよ。
滝さんがラムネ買ってくれたり、小船から私を蹴落としたり、桟橋から投げ捨てたり」


「お前そんなことされたのかよ」


「滝さんをからかったらやられました。
滝さん結構面白いです」


ニヒヒと笑ってここに来た用件を伝える。

修理が終わったら、またこの艦は沖に出るのを知っていたので、私は艦には乗らないとも伝えた。


「ヘタしたらまた戦闘でしょうから、私は陸で皆さんを待ってますよ。
まぁ、大まかに視えている未来読みでも、潜水艦やらと戦闘になる未来は視えてませんけどね」


内側での戦闘はあるだろうけど。



「だから大丈夫です」


そしたら尾栗さんは私の頭を優しく撫で、彼を見たら何だか少し哀愁を帯びている。

………そうか、皆の心がバラバラだから不安なんだと思う。


「そうだな、お前は陸に居たほうが良い。
また艦の中で缶詰になるのは辛いだろうしな」


「そうだな。
美瑠璃は乗らないほうがいいだろう」


きっと彼等は、このゴタゴタに巻き込まないように配慮しているんんだろう。

私は未来読みできる、利用しないわけがない。


「こっちに戻ってきたらまた顔出しますよ。
んじゃ、荷物を取りに行って参ります」


さっさと荷物を回収し、枕元に置いていた血塗れのコートに目が行く。

……もう、大丈夫だね。


それをぎゅっと抱き締め、彼とちゃんと別れる覚悟をした。

一馬さんも、こんなものを持ったままな私に…悲しんでいたと思う。

だから、ちゃんと前を向いたという意思を見せるよ。


ニッと微笑んで私は部屋を出る。

まだ通路に居た角松さんと尾栗さんにタックルするように後ろからぶつかれば、2人は笑った。


「じゃ、行ってきます!」


「おう!行って来い」


尾栗さんはそう言って私の尻をポンと叩き、私も対抗して彼の尻を叩いてあげた。

そんな私の頭を角松さんは後ろから撫でて「もう怪我するなよ」と微笑む。


「ありがと、角松さん」


彼との別れも間近で、胸がギュっと締め付けられる。

そんな私の心情を気付かれるわけにはいかないので、コートを抱き締めて胸を押さえ、精一杯微笑んだ。


「一馬さんとも、ちゃんとお別れしてきます。
そろそろ燃やしてあげないと」


私の精一杯の微笑みに感付かれてしまっていても大丈夫なように、一馬さんで保険をかける。

彼との別れが悲しくて、精一杯微笑んでいると思われるだろうな。

こんな使い方してごめんね、一馬さん。


「今度はお土産忘れないようにしますねー」


小走りで出口に向かいながら振り返って手を振り、尾栗さんが「ヤシもヤシガニもいらねーよ!」と言ったのが笑えた。

そして余所見をしていたせいで、私は扉の横の壁に激突するのであった。


……それからラッタルを降り、再びみらいを見上げたら菊池さんが外に出ていた。

彼はジッと私を見ていて、私もジッと見詰め返す。

私達はお互いに何か言う訳でもないので、にらめっこをしているような気分だ。

とりあえず、彼の望んでいる結果になるのかを知りたそうだから、ニコッと微笑んであげると、数秒それを見詰めた後に彼はメガネのズレを直して艦内に引っ込んで姿を消す。

ふぅ、と息を吐いてから待たせている車に乗り込んで再び草加さんの元へと戻って行った。



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「ただいまーです」


戻ったら草加さんが出迎え、明日の朝にマリアナ諸島へと向かうと言われた。

早ーい。


「それじゃあ今日は身支度を整えるということですね」


「そういう事だ。
出かけるぞ」


ギュっと私の手を取って彼は車へ向かう。

でも私はそれに待ったをかけた。


「荷物を置いてきてないです。
先においてきますね」


「あぁ、そうだったな。
………そのコート…」


私の鞄から少し出ているコートに彼は気付き、私は焼くことを伝える。


「私には、あなたがいますから」


その言葉がとても嬉しかったのか彼はニヤけ、私は荷物を置きに部屋に行く。

テーブルにそっとコートを置いて、小さく行ってきますと呟いてから彼のもとに戻り、車に乗り込んだ。


「で、どこに行くんですか?」


「美味しいものを食べたいといっただろう?」


彼は私の隣に座り、私はちょっと寄って距離を近くした。


「あー、そんなこと言いましたね」


「あと、キミから私のどこに惹かれているのか聞いていないぞ」


「うわー何のことでしょうか、記憶にございません」


いつかの流行語を織り交ぜてシラを切ると彼は少しムッとしたのか、見たこと無い表情をする。

少し眉間にシワを寄せて若干いつもよりも目が閉じ気味で、そして目が据わっていた。


「嘘ですよ、後でちゃんと言います。
だって人居ますし」


運転手の兵士がリア充にイラッとしてしまうじゃないか。

そしたら草加さんは少し笑って「そうだな」と言って前を向き、私も同じくその方向を向いた。



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目的の場所に着き、車を降りて辺りを見回す。

ここは日本人街なのか店も日本人も多い。

よく考えてみると、パラオにずっと居たのに施設周辺しかうろつけなかったのでコッチに来たことがなかった。


「何か欲しいものはあるかな」


「えー、簡易型の充電器と電子機器を充電できるコンセント、平和な日常とみらいの皆と居られる時間と一馬さんと草加さん」


「一つしか用意できそうにないな」


「じゃあそれで十分ですよ」


遠回しにあなたが居れば良いと言ったら、彼は嬉しそうに笑って帽子を少し深めにかぶる。

照れ隠しですね、そういうトコがなんだか面白くてフフっと笑った。


「照れてるんですか?
草加さん可愛い」


「可愛い?
それは心外だな」


大の男が可愛いと言われたら、誰だって嫌な顔をするのは分かっている。

だから一馬さんには言ったことはない。

でも、彼ならきっと許してくれると思ったからその言葉を口にしたんだ。


「そのニヤけた顔のドコがかっこいいんですか」


「うぅむ…………」


ニヤけている自身を抑えようとするから、更に笑えてしまった。

彼もそんな自分自身に笑い、私は彼の手を取る。


「私はそんなあなたの笑った顔が好きです」


不意を突くように惹かれた理由を答えたら、彼はちょっと驚いて目を丸くしてから微笑んで、手を引いて歩き出した。


「で、どこに向かっているんでしょうか」


「まずは食事だ。
何がいいか」


「米と味噌汁と沢庵、梅干し。
あ…サバの味噌煮が食べたいです」


「ははは、分かった」


ちょっと道を引き返して小さな定食屋のような店に入ると、人はある程度いて、何だか賑わっていた。

サバの味噌煮は無かったが、焼き魚の定食を頼む。

席が座敷だったせいで私は正座を余儀なくされていたんだが、段々痺れ始めて表情が強張る。

いいい、痛いっ!!

正座に慣れてない椅子生活の私にゃただの苦行だぜ!


「足を崩しても構わないんだぞ?」


自分自身との戦いをしていたが、草加さんの一言で私は戦いをやめた。

正座から胡座に変えて、痺れが開放される感覚でちょっと幸せになる。


「…まさかとは思うが、胡座をかいているのか?」


テーブルで見えていないようだが、私が胡座をかいている事は予想できたようだ。


「はしたないのは重々承知しておりますが、コレが一番楽なのです」


そしたら草加さんは立ち上がって、上着を脱ぎ私の膝にかけて正面に戻ったので礼を言う。

それから食事が運ばれ、見慣れない魚だったが、とても美味しかった。

やっぱり日本人は米と味噌に帰るんだろうな。



 
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