隣の人

□第一話 猫
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「ありがとうございました」

そう言って私は丁寧に頭を下げた。
顔を上げて相手を見ると、満面の笑みと共に向こうもお礼の言葉を述べて、くるりと背を向けて駆け出していった。
私は暫くの間、その背中の黒猫を見つめていたが、冷たい風が吹いて、寒さを感じたので、扉を閉めた。
居間までの短い廊下を埋め尽くす白いダンボールを押し退け、一番最初に運び込んで貰った座卓に辿り着いた。
傍らにあるダンボールに手を伸ばし、その口を閉じさせているガムテープをビリリと剥がす。
蓋を開け、中に入っているものを見てほくそ笑んだ私は、嬉々としてそれを取り出した。
ふかふかした触感と、温かい温度。

「やっぱり冬はこれだよね」

と誰に言うでもなく嬉しそうに呟くと、それを早速先程の座卓にセッティングした。
セットし終えたらスイッチオン。
私は中が暖まるのも待ちきれずに、まだ冷たいそれに潜り込んだ。
暫くして足元からぽかぽかとした温度を感じ、眠気がゆっくりと襲ってきた。
この家に引っ越して初めての訪問者が訪れたのは、そんな長閑な時であった。



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