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□たぶん、好きだった(お題)
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(……あ)
あけましておめでとう。
たった一言、そう年賀状の端っこに書いてあった。
たった一言しか書いてないけれど、その文字はとても丁寧で、とても鮮やかな龍が天へと昇る絵が手書きで描かれていた。
ふ、と笑みをもらして年賀状を裏返す。
思った通り、それは二年ぶりに送られてきた、彼女からのものだった。
(……今どうしてんのかなあ)
綺麗に書かれた彼女の名前を見ながら、ふとそんなことを思う。
大して話したことはない。ただの中学のクラスメートだった。
唯一接点があったとすれば、テストの時、出席番号の関係で隣の席になるだけ。
かといって何か話すわけでもなく、挨拶を交わす程度だった。
彼女は美術部で、よく絵を描いていた。
目立つ性格でもなく、休み時間も自分からは動かない。
誰にも話しかけられなければ、静かに一人で絵を描いていた。
(……やっぱ綺麗だなあ)
年賀状をしばらく見つめて、心の中で呟く。
よくコンクールで賞を取っていた彼女の絵は、その度に廊下に飾られていた。
その絵があまりにも綺麗で、何度も立ち止まってしまったのを覚えている。
中学1年の冬、皆が住所を聞いて回るから、それに便乗して彼女の住所を聞いた。
年賀状を送りたいから、という僕の理由を聞いて、彼女は何も言わずに住所を教えてくれた。
別に絵を描くのが好きな訳でもないのに、何故か一生懸命手書きで年賀状を書いた。
年が明けて暫くして、彼女から返事の年賀状が送られてきた。
彼女からの初めての年賀状は、手書きの色鮮やかな鼠だった。
それから中学を卒業するまで、年賀状を送った。
クラスが変わってしまったから彼女が送ってくれるか分からなかったけれど、毎年一生懸命手書きで書いた。
彼女からも毎年、手書きの色鮮やかな年賀状が送られてきた。
その度に年賀状を暫く眺めて、それから大切にしまった。
大して話したことはない。
たった一年、おんなじ教室の中にいて。
たった三年、時々廊下ですれ違う程度だったけれど。
僕は、彼女の絵が大好きで。
彼女のことが、たぶん、好きだったんだと思う。
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