□偽(本編)
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第一話


春。
桜が学生たちの視界を幻想的に染めあげるこの季節。
とある高校の正門に立ち尽くしている青年がいた。
他のたくさんの生徒達と同じ姿をしているにも関わらず、その制服は真新しく、皺一つない。
にもかかわらず、その青年は見事なまでにその情景に紛れ込んでいた。
ただ、その皺一つない制服のせいか、少しだけ他の生徒達と違う雰囲気を醸し出している。
あくまでほんの少し、だが。
おそらく元々その青年がとても一般的な顔をしているからだろう。
その青年は目が細いでもなく大きいでもなく、鼻が高いでもなく低いでもなく、口が大きいでもなく小さいでもなく、ただどこにでもいるような顔をしていた。
あまりにも一般的な顔なので初めて目にする人は驚くくらいかもしれない。
そのくらいその青年は「普通」だった。
その青年は何か決意したように軽く頷くと、大股で職員用の昇降口の方へと歩いていった。



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