*clap file

□桜の時
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―――全く、私とした事が…。



小さな溜め息を吐くと


『石神さん?』


心配そうに私の名前を呼ぶ彼女。


総理のご令嬢。





―――カッコ悪い。


彼女の為に、桂木さんとの疑似結婚式のケーキを買ってくれば、広末に「空気読めねぇ」とか言われ。


彼女に少しでもいいところを見せたくて、滅多に歌わないカラオケで歌ったり。


よりによって、一番いいところを見せられるはずのゲーム大会でも、藤咲に負けて。


しかも罰ゲームで、タラコ唇を付けられている。


そもそも、この連中とこんなくだらない場所にいるのは、彼女がいるからであって…。




―――私としたことが。




警察内で一、二を争う出世コース間違いなしのエリートのこの私が。


21才の女の子に振り回されるとは…。


あまりの自分のバカさ加減を考えると、どうしても視点が定まらない。


そんな俺を見て心配そうに、顔を覗きこんだ彼女は―――。


猫耳を付けていた。


「っ……!!」


持っていた缶を思わず離してしまうと、薄い金色の液体が缶の口から溢れでた。


『ぁあっ!!』


『石神さん、何をやってるんですか?!』


慌てて缶をお越し、溢れた液体をハンカチで拭いてくれる猫耳姿の彼女。


「…すまない。」


そう言って、ズレた眼鏡を人差し指で上げながら、恐らく真っ赤になっているだろう顔を背ける。


『…どういたしまして。』


ふわっと桜が咲いたように微笑む彼女の顔を横目でチラッと見て。


これがお花見か…と思う私は、まだまだ彼女にバカな姿をさらけ出すのかと、自分自身に飽々する。


だが、それもいいかもしれない。


見せる相手が彼女なら。


それで彼女が笑ってくれるなら―――。





end



 

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