■小劇場 4

□少しずつ秋めく
2ページ/2ページ



  ◇ おまけ ◇


 「そうそう、勘兵衛様。」

湯がいた枝豆と、
トウモロコシと
タマネギのかき揚げとを、
お酒のあてにと並べ。
運んで来たトレイを
テーブルのわきへ置いた
手が止まり、
何をか思い出したらしい
七郎次が、
だが、
すぐ傍らにいる久蔵へ
ちらと視線をやったのは、
彼にまつわる話だからだろう。
そして、

 「〜〜〜〜。/////」

おや、
七郎次の持ち出す
話だというに、
少々
不平を鳴らしたいかのような
空気を醸したとは
珍しいことよと、
勘兵衛としては
そちらが気になっておれば。
玻璃のような水色の瞳が
座った目許を細めて
楽しそうに微笑った女房殿、
ふふと微笑ったそのままに
語り始めたのが、

 「いえね、
  今日はちょっと遠出をして
  Q街まで運んだのですが。」

秋になれば、
お彼岸もあるということで、
そちらでのご挨拶へ添える
お届けものを
揃える事情があってのこと、
盆が過ぎての
秋物を用意し始める、
老舗のあちこちを
覗きに行ったのだけれども。

 「それへと
  ついて来てくれた久蔵殿へ、
  そりゃあ可愛らしい
  娘さんたちが
  声を掛けて来たのですよ。」

 「おや。」

まだ夏休みですから
私服姿じゃありましたが、
髪が明るい色合いなのは
自毛のようで、
どちら様も
品のいいお嬢さんでと。
そうそう
人を悪く言う彼じゃあないが、
それでも
随分と持ち上げた挙句に、

 「久蔵殿に
  お手紙を差し出して、
  秋にでも会える機会が
  作れればというような
  お言葉、
  きっぱりと
  仰せだったのですもの。
  さては これは
  恋文かと
  思うじゃありませんか。」

ますますのこと
お顔をほころばせ、
軽やかに笑うところといい、
こういう話はこびで
あることといい、
そうではないらしいというのが
もう見えており。
だがまあ、
久蔵が落ち着けない
様子でいるのは、
肩透かしだったからじゃなく、
選りにもよって
七郎次から
そういう誤解を
されたことへだろうと
そこは勘兵衛にも
察しがついた。
果たして、

 「ほら、昨年でしたか、
  久蔵殿が
  ゴロさんをお手伝いした
  タコ焼きの夜店が
  あったでしょう?」

あの折の
途轍もない売り上げを聞いて、
今年の夏祭りでそれを抜くぞと
意気込んでらしたらしい
お嬢さんたちだったみたいで。

 「ところが、
  今年はいつものおじさんが
  来てくれましたから。」

久蔵どころか
五郎兵衛さんも、
お客さんのほうへ
落ち着いていたがため、
こそりと同時対決を
狙ってでもいたか、
そんな彼女らとしては
勝ち逃げされたくらいの
感覚になってしまったようで。

 「それでのこと、
  秋のお祭りかどこかで、
  再戦出来ればという
  果たし状を
  もらってしまったのだとか。」

 「それはまた、
  勇ましい話だの。」

本当に可愛らしい
お嬢さんたちでしたもの、
少しでも縁が出来たら
よかったのにと、
七郎次としては、
そちらこそが
残念だという口ぶりで。
そして…そんな誤解を抱えた
おっ母様だと、
ピピンと来ている
久蔵の勘のよさ、
他では働かぬ分も
掻き集められている
鋭敏さなのだろなと。

 「〜〜〜〜〜。」

仄かに不満げ、
視線が揺らぐ久蔵を
和んだ視線で眺めつつ。
こちらもこちらで、
微妙に的を外したことへ、
苦笑が絶えなかった
勘兵衛だったりしたそうな。






   〜Fine〜  12.08.18.





何だかなぁな、
お話ですいません。
おっ母様のそばで
過ごせた夏休みは、
次男坊には
至福のそれだったに違いなく。
緑したたる庭先で
微笑っているシチさんとか、
小汗をかいた額を拭う
白い手がきれいな
シチさんとか、
勘兵衛様には とんとお見限りの
昼間のシチさんの色々を
胸のうちのファイルへ
たんと収納なさったことと
思われます。

アダルトな勘兵衛さまには
夜更の
お熱いショットの方が
いいですか?
含羞みつつも
その手を拒まない恋女房の
潤んだ瞳とか
……野暮なこと
訊いてすいません。
お仕置きされるのは怖いです。
もうしません。


おまけは
先日の仔猫と
女子高生コラボの
続きみたいなもんです。
彼女らの奮闘も
結構な売り上げを
たたき出したようですが、
さすがに
二晩で千箱には
敵わなかったようで。
しかも一夜限りの
“勝ち逃げ”されたのへ
納得行かぬと思ったか。
Q街でたまたま見かけたのを
追っかけつつ、
果たし状もどきをしたためるとは、
尋常じゃあない
女子高生には
違いないと思います。
七郎次さんも
ツッコむ方向が違うぞ、
お〜い。(笑)


前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ