ワケあり Extra 5

□ヲトメ心と 冬の空?
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駆け足でやって来た秋に負けじと思うたか、
冬もまた、結構な加速でやって来て。
こうまで早い豪雪となったは、
まだ準備前だったところへ
寒気が南下して来たため、
海水温が高く、水蒸気が満ちてた大気が
急に凍らされたせいだとかどうとか、

 “ヘイさんが言うておったが。”

前世ではさして歳も違わぬ同士だったのが、
今はずんと年下なお嬢さん。
だのに、色々と御存知なものだから、
偉い偉いと褒めつつも
ついつい
微妙な懐かしさを覚えてしまう五郎兵衛で。
今日も昼間ひなかからずんと冷えていて、
ここ甘味処“八百萬屋”でも
温かいメニューの
オーダーばかりが出ておいで。
旅先で見つけた古い民家を移設したそれ、
頼もしいまでの柱や梁も黒々としていて、
そこは塗り直したしっくい壁が
落ち着いたコントラストとなって
いい味の出たお店へ、

 「こんにちは。」
 「おや。」

ひょいと顔を出したのが、
五郎兵衛の側からも顔見知りの
スーツ姿の男性だ。

 「こんな陽の高いうちからお越しとは、
  お珍しいの、佐伯殿。」

いかにも背広を着ならした感のある、
勤め人風な彼だったが、
実は実は警視庁勤務の刑事さんという
知人であり。
不規則なお勤めなのは重々承知だが、
ならばならで、こんな昼間の明るいうちから、
管轄外もいいところのこの辺りへ
姿を見せるなんてと、
そこは率直に思ったことを口にしたまで。
いかついお顔だが 気安い性根の、
誰へも朗らかな店主様だったのへ、
いやまあと言葉を濁しつつ、
コーヒーを注文し、
カウンター席へ腰を落ち着かせる。
奥のほうには框で段差をとった
畳敷きの座敷席が設けられているが、
入り口近くには
ごくごく普通のテーブル席も壁沿いに並び。
それらを背にした格好となる、
なかなか立派な
ケヤキの一枚板の大カウンターから、
くるんと店内を見回した佐伯さん。
やや鋭角的なお顔を、
だが今はちょっぴり間延びさせ、
何かお探しの気配を示してから、
どうぞと
ブレンドコーヒーを差し出すマスター殿へ、

 「時に林田さんは どうされましたか?」
 「はい?」

こちらへ下宿しておいでのお嬢さんを、
この刑事さんも御存知で。
御存知どころか、
まだ女子高生だというに
コンピュータ操作や
特殊ウェポンとしての小道具作りの
天災、もとえ天才だということや、
実は…特殊な前世の記憶を持つ
“転生人”だということまで、
そちらは
お仲間のようなものだからではあるが、
重々知っておいでだし、
職業柄(?)振り回されてもいる間柄。
そんな彼だというのを
それこそ知っているだけに、
五郎兵衛の側でも、ほのかに苦笑をし、

 「何も いつもいつも
  店を手伝ってくれておる訳でも
  ないのでな。」

ましてや、
もう冬休みも同然という身だしと
続けかかれば、

 「そこなんですよね。」

佐伯刑事のお顔が
五郎兵衛と同じような苦笑に染まり、
淹れていただいたコーヒーを、
芳香ごとまずはと堪能してから、

 「御存知ないですか?
  この近辺で
  イルミネーションを壊して回ってる
  良からぬ輩が出ている話。」

 「ああ、らしいですな。」

ここいらは静かな住宅街で、
殊にこうまで奥まった辺りは
ちょいと格式も高い
“お屋敷町”と呼ばれるような閑静さだが、
駅に近い辺りは住人も新しめなせいだろか、
この時期には自宅の壁やバルコニー、
はたまたお庭や門扉などへと
イルミネーションや
照明を仕込んだディスプレイを配して
クリスマスらしい装飾を
なさっているご家庭もある。
ところが、
それがボチボチ始まったかな
という頃合いから、
丹精なさった庭先へ踏み込んでまでして、
LEDのカーテンのような
イルミネーションを引き千切ったり、
サンタやトナカイをかたどった人形を
壊したりする
心ない輩が出没する騒ぎが勃発。
しかも数件ほど続いたとあって、
住人たちの間でも
由々しきことよと
取り沙汰されて…いるにはいるが、

 「だが、そやつは物を壊して回るだけで、
  泥棒だったり放火魔だったり
  という気配はないとか。」

 「らしいんですが。」

ディスプレイに手を掛けるだけで
住居へ近づいた気配はなし、
ましてやボヤが出たとかいう話と
セットになっているでなし。
何が気に入らないのか、
クリスマスを楽しむ気分へ
水を差して回ってる
いやらしい輩なようだということで。
何より、月初めの数日に立て続いて以降は
不気味ながら鳴りを潜めてもいるがため。
一応の警戒をというお知らせが回っており、
町内会でも
夜回りの当番を増やしているそうなと、
そこはそれこそ五郎兵衛も住人の一人ゆえ、
ようよう承知の顛末。
むしろ、それを
この佐伯刑事が知っていたことの方が
何とも意外というところ。
そんな感慨を持たれている気配は、
ご本人にもピンと来ているようで、

 「はっきり言って管轄外なんですがね。」

都内じゃあってもそうそう日頃から
他県で言えば県警に当たる警視庁が
此処まで広くまんべんなく
住民の皆様の近辺をフォローしてはいない。
都内における広域事件や重大案件へと
捜査本部を立ち上げ、
それっと動き出すのであって、
今の段階では
所轄の署が初動捜査をしているところで、
そこは佐伯さんとて重々承知。ただ、

 「この区域で何事かあると、
  ついつい見回ってしまう習慣が
  身についてしまってて。」

所轄署のお人たちやら、
何事か起こしそうと
目串を刺されておいでの誰か様がたやら、
該当の相手が聞いたら
怒り出しそうながら、(笑)
こちらは“そこは判る”と、
五郎兵衛もうんうんと頷いたのを
見やってから

 「訊き込みをしている警官とは別口、
  ところどこで
  おシチちゃんや
  三木さんを見かけましてね。」

 「…おや。」



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