ワケあり Extra 6

□誰にもナイショの…
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秋と同じくらいに寒暖の差が激しい厳寒を予感させた冬の訪れは、
だが 師走を掻き回した乱高下を一旦引っ込めたものか。
年末から元旦、三が日に掛けての数日を、
いつもの穏やかさな閑かさで満ちた空気により、新しい年を迎えさせてくれて。
女学園が正規の冬休みに入った途端に
大人の世界のせわしさに巻き込まれ。
父上の草野刀月画伯が主催する会派の集まりやら、
贔屓筋の粋筋、数寄者らが集う納会とやらやらへ、
せいぜいお愛想笑いを振りまいて
華やぎを加味するよう参加させられていた七郎次としては、

「え〜、そんな騒動があったのですか?」

さすがに三が日過ぎてまで大人の都合に付き合う気はなく。
今度は新年会とやらで集まりがやっぱり引きも切らないらしいのを、
そんなこと知りませんと振り切って運んだ先。
学校の最寄に位置する『八百萬屋』にて
ヲトメたちによる“新年会もどき”のお喋りに浸ることで、
やっとのこと“お休み”を実感したようなもの。
昔ほどには年越しの何やかやを厳粛に浚わなくなったとはいっても、
この時期は 普通一般のご家庭だとて、
ただただお休みだと手放しで休養できるものじゃないことくらいは判っている。
それでもねと、七郎次がお冠なのは何故かといえば、

『大掃除やおせちの準備や、お年始回りの用意だの、
 しめ飾りの支度、初詣への装いの段取りとかとか、
 普通一般の年越しと新年に向けての忙しさならまだしも。』

そこはさすがに、日本の画壇を代表するよな顔ぶれ揃い、
型通り以上に“文化人”らの集いであり、
泥酔したおじさんを相手に愛想笑いしなきゃいけないほど極端な
無礼講な場じゃなかったとはいえ。
お行儀が良いなら良いで、
ずんと年嵩な皆様な分、ウィットにも深みがありすぎてどこで笑えばいいのやらな会話とか、
こっちは一応高校生なのに、
飴玉が似合いそうな扱いされるのはちょっと…というよな微妙な齟齬を幾つも噛みしめ。
クリスマス以降の1週間ちょっとを一人で頑張ったのだから、

「アタシもそっちへ参加したかったなぁ。
 あ、でも久蔵殿、お怪我はなかったのですか?」

三木コンツェルンの秘蔵っ子、久蔵お嬢様誘拐事件なんていう、
そりゃあおっかない事態に巻き込まれ。
数人がかりの輩たちから掴みかかられ、無理から連れ去られかけた顛末を、
防犯カメラと久蔵本人へ渡しておいたツールとで、見事あっという間に片付けちゃった
紅ばらさんとひなげしさんの年末の武勇伝。(ウィズ 兵庫せんせえ&五郎兵衛さん) 笑
居住ゾーンのお茶の間にて、
和柄のお布団もレトロなやぐら炬燵にあたりつつ、
当事者ならではの裏事情をきっちり付け足されての詳細を
すらすらと語られた側としては。
大事がなかったからこそながら 仲間外れにされちゃったよぉという憤懣をこぼしつつ、
勿論のこと、誘拐されかけた令嬢への気遣いも忘れない。
むうとむくれたものの、いや待てそれどころじゃないと、
お隣に座っておいでの “一見”フランス人形のような風貌のお嬢さんへ声を掛ければ、

「……。//////」
「あ、嬉しそうなお顔になっててどうしますか。」

大好きな七郎次から真摯に案じられたのが嬉しいらしい久蔵なのへ、
肉づきの薄い口許をうにむに噛みしめる様子からあっさりと拾い上げ、
こらこらと水色の双眸をやや眇め、軽く叱ったおっ母様。
とはいえ、けぶるようなくせっけの金の髪をポフポフと撫でつつのことなのだから、
そりゃあさすがに“叱られている”とは言えないかも。
何とも微笑ましいいつもの光景に、
平八が “新学期までの予定は? 良ければQ街へ福袋バーゲンへ出かけませんか?”と話を振って
賛成と手が上がるいつもの調子へ戻ったお嬢様がただったれど…。



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