ワケあり Extra 6

□寒に入ってもお元気元気?
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1月も半ばを過ぎ、
さすがにもうお正月とか新年とかいう空気は取り払われた時分。
ひところだったらば、この頃合いには成人の日が設けられ、
はたまた小正月といって、
お正月飾りや書初やを焼く“どんど焼き”が行われたりもしたものだが。

「成人の日はハッピーマンデーでズレましたからね。」
「ずらしていい日とも思えないんですがねぇ。」

結構大事な儀礼の日じゃないのかなぁと、
七郎次がう〜むなんて可愛らしい口許をとがらせるのへ、

「というか、連休にした方が故郷へ戻りやすいからかもしれませんよ?」
「あ、そっか。」

まだ十代で、しかもアメリカ育ちなのに、
七郎次以上に日本のあれやこれやに通じている平八がそうと言い、
それで初めて“あ・そっか”と、祭日移動の合理性に気がついたらしい白百合さんで。
そんなこんなと話す今はというと、1月のカレンダーがちょうど半分まで進んでいて、
鏡開きも過ぎたし彼女らの学校でも三学期がとうに始まっているワケで。
暦の上では のほほんと通常運転へ入っているものの、
その背景…というか、気候、お天気がなんともイケてはいない。
先週末からこっち、この冬一番という大寒気がシベリアから南下し、
あちらこちらで雪や吹雪による被害が出まくり、
しかもしかも今年のはセンター試験にもろに降りかかり、
国公立受験生らが大迷惑をこうむった。

「成人式とかバレンタインデーに引っ掛かるのは毎年のことながら、
 受験に引っ掛かるのはどうしたもんでしょかね。」
「つか、そろそろ日程の変更を考える時期なんじゃないのでしょうかね。」

アメリカなど欧米の大学は、
申請書を出して合否判定を待つというタイプが主で、基本 受験はない。
その代わりというか当然というか、進級と卒業が死ぬほど難しく、
なので、学費を稼ぎながら卒業というのは日本の大学の比ではないほど大変だそうで。
でも、入ったらあとは就職に専念出来るほどという日本の方が、
格付けだけ与えるようで、学府としてはおかしいのかもしれませんが。
ままそれはともかく、

「毎年こんな極寒の時期が入試だなんて、どんな我慢大会ですか。」

寒さという試練だけじゃなく、交通機関も止まるやも知れないだなんて何かおかしい、
そのうち自衛隊が災害出動かけられませんかねと。
今日も先週末とさほど変わりはない寒さの中、
随分と早起きしたらしい女子高生二人が
話をしつつ緩やかな坂を上っておいで。
随分と明るい中でも吐く息は白く、
ボアに縁どられたお揃いの耳当ての下、
おくれ毛がポアポアと揺れて何とも愛らしい様子のお嬢様がたは、
誰あろう某女学園の三華の一角、
白百合様こと草野七郎次さんと、
ひなげし様こと林田平八さんのお二人だ。
平日ではあるが学校へ向かっているのじゃあなくて、
朝も早よからお友達のお家へ向かっているところだったりする。
名代のお嬢様学校であるから…というわけじゃあないけれど、
話題に上らせたセンター試験かかわりの3年生が少ない学校なせいか、
この時期なのでという特別な授業編成にはならないその上、
二年生らはスキー合宿に出かけるというからのんびりしたもの。
その合宿組に該当する二年生の三華様がた、
きょう出発の予定が だがだがあちこちで降りすぎた雪のため日程順延となり、
登校して来ても気もそぞろとなろうからと休校になったのをいいことに、
早起きしたそのまま、お友達の一人を急襲しに来たという暇人たちで。
きっと寝坊したくっているのだろ、
ならばいきなり訪れてビックリさせてやろう…とまではさすがに思ってない。
一応、それなりのお嬢様がたなので、ちゃんと先方へは“伺いますよ”という連絡もしてある。
ただ、日頃の…見かけによらず鬼のような頑健さが何で発揮されないものか、
実は低血圧な紅バラ様こと三木さんちの久蔵さんなので、
せっかく一日空いたお休み日、寄り合ってお喋りしましょというその合流先を、
彼女のおウチにしたまでのこと。
出発日となる明日はこちらから登校してもいいくらいの心持ちでもあり。
ちなみに、合宿先へ持ってく各自の荷物は、
もうすでに逗留先のホテルへ宅配で送ってあるところが、
箸より重いものは持ち慣れないお嬢様揃いな学園ならではの手配なのは余談であるが…。(笑)

「センター試験だの受験だのの真っ最中に滑りに行く私たちってのもどうなんですかね。」

どうせなら暖かい南国で水泳合宿とかの方が縁起もいいかもなんて、
ちゃっかりしたことを言い出す七郎次だったのへ、

「まあまあ、ウチの諸先輩たちは大半が付属の短大へそのまま進学なさるのだし。」

縁起が悪いと語呂合わせを気にする人もいなかろうし、
よって不敬ってことにはならないと思いますよと、
日本ならではの事情やタブー、ちゃんと把握して平八がいなしたそのまま、
だが、おやと何かに気付いたような雰囲気で前方を見やる。
ベージュ色のダッフルコートの袖から覗く手首周りを
ファーで縁どられたチャコールのミトンという、何とも愛らしい冬装備のその手にて。
前髪辺りへ庇のようにかざしたのは、芝居がかってのことじゃなく
時折身をすくめたくなるような鋭い風が吹かないでもないからだったが。
そんな大仰な態度で見やった先への“おや”という一言だったのへ、
こちらはサックスブルーのそれ
シンプルながらフェミニンなコート姿の七郎次も
視線を同じ方へと合わせてから“あら”と表情を弾ませた。

「久蔵殿、待ちくたびれたのかな。」

もしかして二度寝してないか、
今朝も寒いから愛猫のくうちゃんにお膝を占拠されてないかなどと、
親しいお友達なればこそのこき下ろしもしていた本人様が、
待つのに飽いたか、ゴシック風の門扉のところまでわざわざ出て来ておいでなのが見える。
お屋敷から門柱までというアプローチも結構な距離のあるお宅なのでか、
ツィードらしきワイドパンツに、
ハイネックの襟元は細編みだが 胸元はざっくりした網目がざっかけないバルキーセーター、
その上へやはりツィードらしきカーディガン風のコート、
ロング丈のゆったりしたコーディガンを羽織るという
そのまま出かけてもいいようないでたちで、
坂の下りの側と、逆方向だけれど念のためか、逆方向側も見まわしておいで。
そちら様も何とも麗しい風貌をなさっていて、
淡い金の髪がようよう映える白い肌に、
玻璃玉のような薄色の双眸は、時に赤みの強さが際立っていて華麗。
線が細く、どちらかというと鋭角な造作のお顔で、しかも表情がそれほど豊かではないものだから、
初対面だと神経質そうな、ある意味で恐持てに映るやも知れないが、何の何の。
実は世間知らずなその延長、朴訥なまでに素直だし、覚束ないところも多々あって。
甘えるのにやや恥じらいが邪魔をし、含羞みながら口許をうにむにと噛みしめる様子なぞ、
あまりの初々しさに“どこの幼子ですか”と白百合さんをキュンキュンさせているほどというから。

 “怒らせた時とのギャップが凄いったら。”

もうもうしょうがないなぁと、
平八もまたそのギャップ萌えに苦笑が絶えないそのまんま、
くすくす笑って足を速めかかったのだけど。

 「「……え?」」



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