ワケあり Extra 6

□ついのこととて…
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雪や寒さには耐性があるよな北国の方々でも
こんな級のは初めてだと肩をすくめてしまわれるような
所謂 記録的な豪雪や極寒が襲ったかと思えば、
それっていつの話?と言わんばかり、
何と三月並みだという気温や好天に見舞われ、
用心のためにと着てきたダウンのロングコートが大荷物になっちゃったり。
相変わらずに 翻弄されまくりの厳冬期が絶賛居座り中の睦月もやっと終盤。
聖バレンタインデーと恵方巻のニュースが、
丁度 年末のクリスマスとおせちのニュースのように混在して取り上げられている、
賑やかといや賑やかな頃合いで。
時折吹きすぎる冷たい風にひゃあと身をすくめるものの、今日は幾分かいい日和。
手入れの行き届いた髪、掻き回されたのを細い指先で直しつつ、
愛嬌のある目許を弧に緩めたのはひなげしさんで。

「外部受験のお姉さま方は、
 それどころじゃあなく大変な時期のようですが。」

受験生には入試本番の真っ只中ではありますが、
過剰な“頑張れ”は 人によってはむしろプレッシャーにもなりかねないので
あからさまに話題にしない方が却って親切かも知れぬ。
そういう空気とは縁がないだろ“お嬢様学校”としても名を馳せている某女学園は、
だがだが、近年 少しずつながら外部受験組が増えているそうで。
しかも、なかなかの合格率をひそかに叩き出してもおいで。
そもそも受験する生徒数が少ないからだ、
分母が小さいから率にすると大きな値になってるだけだと、
誰得?な悪態に聞こえなくもないこきおろしをするクチもいないではないが、
それこそこちらには誰か何処かと競争する気なんてさらさらないまま、
当事者である顔ぶれほど、そんな現状であることなんて知らなかったりするのがまた、
余裕というか、おっとり伸び伸びとした環境の功というか…。

「受験かぁ…。」

進級とか年度替わりの話題は出来れば避けてるこのお話ではありますが、(笑)
時期が時期なのでしょうがない。
一応は進学希望の三華のお三方、
電脳小町のひなげしさんが工学部のある大学志望なのは判るとして、
見かけによらず(おいおい) 最も深窓のお嬢様している紅ばらさんが、
実は付属の女子大にはない経済学部志望で外部受験コースを選択なさっていて、

「何なら法学を学ぶというのはいかがです?」
「〜〜〜。(う〜〜)」

法学部四年制を卒業後に こっそり警察大学とか考えている白百合さんから、
何なら一緒に其方へ進むというのもありですよなんて囁かれ、
ちょっぴりぐらついてなくもないらしい今日この頃でもあるらしいのだが。(おいおい)
今も、ようよう見やれば口許がかすかに真横へ引っ張られ、
難しそうな顔になり、半ば本気でむ〜んと唸っているらしい久蔵殿の可愛げへ、
七郎次も平八も うくくと楽しそうに笑ってから、

「…というか、
 やっぱり進学の話とかには当分縁がないんでしょうね、私たち。」
「でしょうねぇ。」
「……。(頷)」

場外の書き手へのスマッシュパンチを送ってきたりして。
…そういうフェイントはなしだぞ、お嬢さんたち。
ともあれ、自身の進学の話にはまだ間があるし、
おそらくは来年の今頃も似たような話をしている自分たちだろうと結論付けて。(おいおい)
すぐそこの二月の頭にまずは実力テストがあり、
そのまま女学園への外部入試があって休みになることとか。
その辺りに聖バレンタインデーへの手作りお菓子教室開きましょうねなんて、
お年頃の女子高生らしい時事ネタで盛り上がりかかった彼女らが、
学園指定の濃色のコート姿で仲良く歩んでいるのは学園周縁の通学路。
三学期でも運動部なぞは春休みのうちに新人戦があったりし、そうそう暇ではないらしいが、
基本は受験がらみで短縮も多く、
そこへ加えて彼女らが属す部活は自主活動をうたっての休みが多い。
卒業式がいよいよ近づけば、予餞会への準備とか慌ただしくもなろうけど、
そこはまだ一月だもの、まだまだ先の話という感慨が強い。
先週スキー合宿があったくらいで、
今日だって授業こそ半分だったが、主には三年からの受験の結果や相談の時間を設けるため。
よって、これと言って予定はない在校生には微妙に間延びした時期でしかないというもの。
少しばかり教室でもお喋りしていたせいか、
同じような境遇の同学年の姿も見えない街路は閑散と静かで、
アスファルトが乾いた陽にさらされた中、やや冷たい風が時折吹き抜けるだけ。
どこか遠い通りを駆けているらしい、
原付バイクのエンジンの音が聞こえたのにかぶさって、

「姉様、」

後背からか細い声でのそんなお声掛けが、パタパタという軽やかな駆け足とともに聞こえて。
どちら様も一人っ子だが、学園内では二年で後輩を持つ身。
よって、下級生からそうと呼ばれることもあるため、
誰を呼んだんだろかと、とりあえず三人がそれぞれ肩越しに振り返れば、

「双葉。」

背中までかかろうほどに伸ばした黒髪は、
ゆるい癖も艶やかに、しっとりとしているが故の重みもあるつややかさ。
童顔だのにちょっぴり甘い魅惑も含んで見えるのは、
人見知りから来る臆病そうな物怖じが、
人によっては庇護欲を、あるいはイケナイ嗜虐心を掻き立てるから。
そんなコケティッシュなお顔立ちをしたところが愛らしい、
今現在はバレー部所属の下級生で。
でもでも久蔵殿とは中等部からのお友達、
もう一人いる妹分と一緒にそれは可愛がっておいでの愛しい存在。
ちょっとした騒動がらみで七郎次や平八とも顔馴染みとなっており、

「どしました? そんなに息せき切って。」

3人ともが体ごと振り返って顔を見合わせ、七郎次がいたわるように声を掛ける。
学園からのここまでを一生懸命駆けって来たらしく、
バレー部所属と言ってもいきなりの無理をしたのがきつかったものか、
小さな肩を上下させ、頬を真っ赤にしてゼイゼイと肩で息をしているところが痛々しい。
人気者ではあるが、あんまり交際の輪を広げない久蔵には、
数少ない、だからこその寵愛の妹御でもあり。
その懸命さには動じたか、
どうしたのだとわざわざそばに寄り、案じるようにお顔を覗き込むまですれば、

「あのっ、一子さまを見かけませんでしたか?」



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