ワケあり Extra 6

□春嵐に翻弄されて…
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気がつけば桜もあちこちで満開を迎え、
新学期が始まったらバタバタお忙しいから、
早めにお花見に行かなくちゃと。
親しいお友達やお仲間たちと都合を合わせ、
先週末にお気に入りの河川敷の桜並木を観に行った。
お天気もまずまずのいい陽気だったので、
お弁当を広げ、ソフトドリンクで乾杯し、
小型のハンディカラオケで周囲に迷惑にならぬ程度に盛り上がり。
それは楽しいひと時を過ごして。

「そいや、五月祭の女王の投票、始まってるんですよね。」

今日は入学式で明日は始業式というスケジュール。
それからそれから3週間後には、
当女学園で最大のイベントたる“五月祭”が催されるということで、

「早いなぁ、日にちが経つのって。」

歴史も古くて由緒正しく、
現在も著名な名士の令嬢たちが通うことで有名な、
M区のお屋敷町の丘の上に鎮座まします某女学園。
幼稚舎から四年制大学までの一貫教育を謳っているが、
一番最初の学舎がこちらの高等部で、
ミッションスクールならではの行事が多数ある中、
イースターがなかなか浸透しなかったころに、
ではと設けられたらしいのがその“五月祭”だといわれており。(諸説あり)
学園祭ほどあれこれ演目があるわけでなし、
何より外部からもOGや招待客以外は入れないという、
ただただ身内だけで盛り上がるそれなのだが。
新緑瑞々しい中、純白のドレスに身を包み、随身の乙女二人を従えて、
野外音楽堂にて綺羅らかなティアラを授かる戴冠式の真似ごとを披露した後に、
学園内のあちこちを御幸するという、
ちょっとしたおままごとのようなセレモニーにこそ憧れて、
入学してくるお嬢様が今も少なくはないと言われているくらい。
そんな催しが五月の頭に控えているため、
四月は本当にあっという間に駆け抜ける印象が否めない…とするのは、
そういった華々しい行事となると
出る側だったり企画統括や進捗管理の側だったりへ
引っ張りだこな身の上となるからなんだろうなぁと。
今年も早速、入学式の受付当番の最終組を担当中の三華様方が、
花曇りと呼ぶのだろうか少し雲の多い空の下、
もうやって来る人も居なかろう正門脇で、
早めのお片づけに手をつけつつ顔を見合わせての苦笑中。
別に先陣切ってあれもこれもと引き受ける性分じゃあない。
楽しいのは好きだが面倒臭いことは苦手だし、
令嬢らしくと猫をかぶっている手前、一応は楚々と振る舞っているものの、
こういった格式ある学園に付きものな、古式ゆかしき式次第とか習わしとか、
省略できないの?とついつい思ってしまう方だし。
とはいえ、
物慣れないお嬢様たちが何かと手間取っているのを見ていると、
だあもう貸してごらんと、
(表向きには、あらあら大変、お手伝いさせてくださいますか?と)
ついつい手が出てしまうのだ。
何につけ動じないところもあって頼られてしまいやすく、
気がついたら長の付く仕事を担当させられていることのなんと多かりしか。

「アタシ来世はもっと地味な人に転生したい。」
「言えてますね。」
「……。(頷)」

今世が そうな人に殴られそうな言いようをしておれば、
もう式自体が始まってだいぶ経つというに、受付の長テーブル前に立つ人影があって。

「あの…。」

遅刻しちゃったのかな? 講堂の場所は判りますか?
付き添いの御父兄には、手荷物をお預かりするクロークもある控室をご案内しますよ?と。
ここまででもずっと口にしてきた雛形が、ついのこととして飛び出しそうになった3人のお嬢様。
紅ばら様こと久蔵殿はやや口が重かったが、
その代わり胸へつけて差し上げる、カーネーションだろか造花のリボンを手にするのは素早くて。
その手をお相手の胸元、定位置へと伸べたまではよかったが、

「???」

その手をかざした先の色味が違うと手が止まる。
こちらの女学園の伝統のセーラー服ではなく、
紺とまではいかぬ濃い青のブレザーに、ニットのベストと紺のネクタイ。
淡い水色のブラウスに青基調のチェックのひだスカートという、
どちらかといや今時の型の制服をまとっておいでであり。
新入生本人じゃなくて父兄の人かな? でも、年恰好は自分たちと大差なさそうなんだけど。
そんな心持ちで紅ばらさんが躊躇しておれば、

「もしかして、失礼ですが
 制服が間に合わなかった…とか、ご事情がおありでしょうか?」

一応はそれが身分証の代わりでもあるいでたち。
とはいえ、人によっちゃあいろいろなご事情もあろう。
予約した先の洋品店が椿事にあってお手元まで届いてないとか、
配達業者の車が以下同文とか。
なので、そうであるなら、受験票もお持ちくださいと知らせてあるため、
そちらを見せてくだされば名簿と照合できますよと、
続けかかった七郎次の声が聞こえているのかどうか。
どこか呆然とした表情で一点を見つめて動かないままな彼女であり。

「…?」

じいと見つめられている対象はといや、
お花のリボンを手にしたまんま、そちらも固まって動かずにいる。
そう、久蔵殿を真っ向から見つめるばかりのお嬢様なのであり。

「…久蔵様?」

ぽつりとつぶやいた声は、だがだが、
間違ってはないのにどこか信じられないというお顔なのが妙な印象。
こんなところにあなたがいるとはと驚いているのだろうか、それとも…

「…。(頷)」

とりあえず、呼びかけられた名前は間違ってないぞと頷いたところ、

「何で…スカート、セーラー服なんですか?」

何か妙なことを聞いてくる。
か細いお声は茫然自失な様子であり、
ふざけているとも思えぬが、何とも要領を得ない人で。
シスターを呼んでこようかとひなげしさんが立ち上がりかかったその時だ、

「シマダ、久蔵様ですよね?」

そうと重ねて呟いた彼女であったため、

「……。(怒)」
「これ、久蔵殿、そんな鬼瓦みたいなお顔はおよしなさい。」
「…これって鬼瓦級なんですか。」

どの辺がいつもの“ちょっと不機嫌”と違うのか、まだまだ修行が足らぬか見分けがつかぬと
ひなげしさんが小首を傾げてしまったそうである。(笑)


 to be continued. (17.04.13.〜)





 *あまりにお久し振りですが、のっけから波乱の模様です。
  ウチに長らくお越しの方へはある意味“出オチ”なネタではありますが、
  少しずつまとめておりますお話でして、
  あれこれ忙しいこともあり、一気には更新できなさそうです。
  気長にお待ちいただけると幸いです。



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