ワケあり Extra 6

□そろそろ師走ですね
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ちょっぴり茜の染みた秋空を背にして、
色づく木々がはらはらと、涙か溜息のよに枯葉を落とす。
そんなメランコリックな風が吹く中で、
学園祭も無事に幕を下ろし、
十代半ばの女子には恐怖とトラウマの学内マラソン大会も何とか終了。
となると、あとは学期末考査の脅威を透かし見つつ、
クリスマスの予定なんぞが話題の中心となる頃合いで。

「先のお休みは 外延のいちょう祭りへスケッチに参りました。」
「欅坂のイルミネーションも始まりましたわね。」
「クリスマスマーケットとやらが横浜の赤レンガ倉庫で催されるそうですよ。」
「横浜と言ったら三溪園の紅葉でしょう。」

さすがにやんごとないお家のお嬢様がたは
流行のコーデだの秋限定のスイーツだの目当てに繁華街へ繰り出したり、
ましてや日没後に夜歩きしたりなぞは基本なさらないが。
親御かかわりのサロンや各種 夜会への行き来に
車で通られる範囲での情報はお持ちなため、
この時期の華やかなスポット情報には結構明るかったりもする。

「横浜云々は、ここ最近のもーりんさんの趣味の偏りからでしょうが。」
「だろうねぇ。」

ほほ、放っておいてくださいませ。(焦)
秋の行事もそろそろ終盤、暦の上ではしっかと冬がやって来てもおり、

 「12月に入ればすぐにもテストですよね。」
 「数学と地学の範囲が凶悪ですよぅ。」

丸襟にAラインのシルエットが可愛らしい、
学園指定の濃色のコートに身を包んだ、
三華様がたこと いつもの仲良し三人娘らも、
ご多分に漏れずというか、相変わらず苦手な教科には青色吐息であるらしく。
押しくらまんじゅうのように くっつきっこしつつの帰路の最中にあって、
話題に上るのは冬休みの前に立ちふさがる憂鬱な艱難への不平であり。

「地学はほら、千葉何とかっていう地層が注目されて」
「え? あれって地質年代に千葉時代ってのが加わるって話じゃなかったっけ?」
「たしか、チバニアンだったかな?」

何かポメラニアンみたい
いやいや ニアンしか合ってないでしょ、それ
ベジタリアンの方がフィーリング的には似てない?
むしろジバニャンの方が
え?何なにそれ、ひこにゃんなら知ってるけど?…などなどと。
会話に乗っける言葉遣いやお題目は、普通一般の女子高生と大して変わりはしないのだが、

 “何で久蔵殿、ジバニャンなんか知ってたんだろう。”

シチさんでさえ “なんですか それ?”だったってのにねと、
吹き出しかかったのを誤魔化すように、

 「そうだ。昨夜、ゴロさんのところへ町内会の人が来たんですがね。」

不意にそんな何かを思い起こしたらしいのが ひなげしさんで。
正確に言うと、五郎兵衛が営む 甘味&お食事処 “八百萬屋”で、
町内会の方々が親睦会を催したのだが、

 「駅の向こうっ側のちょっと寂れてるところがあるじゃないですか。
  最近、あのあたりで通り魔が出るらしいって。」
 「…?」
 「え? 何それ。」

JRの駅を挟む格好で、
なだらかな坂に沿った駅のこちら側はお屋敷町だが、
向こう側はというと、
商店街が途切れた先の、場末に辺りなるにしたがって、
地主さんの趣味から結構な面積で閑静な竹林があったりする関係か、
住宅地も有りはするが微妙に人通りが少なめで。
冗談抜きに小学生以下の子供たちは夕方になったら近寄らないようにとされ、
宵の口辺りは PTAのパトロールが見回っていたりもするほどで。

「ところがそんな空き地の向こう側に、
 先だってちょっとしたお店の並びが出来たようで。」

何にもないから寂れたままなのであって、
にぎやかになれば人通りも増えて、健全安全な地域になるのじゃあないか、
それでなくとも古顔の人ばかりで逼塞した地域だ。
このままでは買い物困難者しかいないよな困った地域になりかねぬと。
どれほどかの長いこと、空き店舗となってた数件ほどの並びを改造して、
郊外カフェのような飲食店や雑貨屋と、衣料品店らしいのがちょこりと商いを始めたそうで。
カフェでは持ち帰りできる焼きたてパンも並べていて、それが通の間でなかなか好評。
なので、それを目玉として商店街の小さめのへ発展させたい、
あわよくば、こちらにはないデイリースーパーを誘致したいという流れになっていたのだが、

「せっかくいい雰囲気になって来たっていうのに、
 そこへ通う夕方あたりのお客人の中に
 “服を着られた”って人が出始めたらしくって。」

近隣の人じゃなく、隣町とかから来る人は、
JRまでを竹林抜けて通らなきゃならないでしょう?
その途中でやられるらしくて、
自転車で通り過ぎざまにって人もいれば、
気がつかないうちにコートの袖をって人もいる。

「何それ、ひどい。」
「……。(頷、怒)」

そのエリアがにぎわったら困るというよな
そんな人がいるのかってくらい可能性の薄い
“商売敵”の嫌がらせ…なんて遠回りな話じゃあなくて。
被害者のほとんどが女子高生とか中学生らしいんで、
反撃して来れない層へのちょっかい掛けらしいって、所轄の人とかも踏んでてね。
今のところは陽が落ちないうちに帰りなさいって注意喚起と、
パトロールを増やすって対処でいるんだって
…と、ひなげしさんが詳細を説明すれば。
あとの二人が“うぬぬ”と綺麗な眉を寄せて真剣なお顔になった。

 「だったら尚更、許しちゃおけませんよねぇ?」

 ……あ、これアカンやつやと思った人、手を挙げて。(笑)



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