ワケあり Extra 6

□明けました
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年が明けてから初めて会う人には、
とりあえず“明けましておめでとう”と言っときゃいいのだと、
習慣のような格好で身に付いちゃったのは、結構早い時期からだったと思う。
親戚づきあいは本家の方へ赴く側だが、
そうでないお付き合いも広い父や母の知人には
年賀のご挨拶にと家へまでお越しになる顔ぶれが結構いたためで。
父からの溺愛の賜物、そりゃあ綺麗に着飾ったその上で、
そういった客人らの前へ必ず引っ張り出されていたものだから、
おしゃまなご挨拶の仕方も早くに身に付くというもので。

「じゃあ、それが松の内だとしても
 二度目三度目に逢う人には普通のこんにちはやごきげんようでいいの?」
「ええ。」

そうなんだ、と
今更ながら誰にも訊けなんだのか、
みかん色の髪をしたトランジスタグラマーなお友達さんが
手編みだろうアイボリーのセーターの襟元へ小さな顎をうずめつつ、
感心するよにふぅんという声を出す。
アメリカ生まれでアメリカ育ちの彼女は だが、
その割には日本の文化や風習も詳しくて、
例えばお大晦日の晩は、遅くまで起きているだけ長生きできるとされ、
なので幼い子供も夜更かししていいのだという風俗にも通じており。

『アレですね、ハロウィンの晩みたいなもんです。』

日本の大みそかの場合は
お社に籠って新年の神様をお迎えするとかお寺で除夜の鐘を撞くとか、
大人たちが夜通し起きてるじゃないですか。
そんなバタバタしているのに子供だって寝てなんかいられないでしょうし、
いっそ起きてて大人の傍に居た方が安全でしょうしね、なんて。
金髪に淡い玻璃玉のような双眸という、何とも綺羅らかな風貌に反して
生粋の日本人である七郎次や久蔵へ説いては、
へぇえ そうなんだと感心させるのも毎度のことで。

 「あああ、来週からは学校ですよね。」

クリスマスもお正月も仲の良い3人であれこれ盛り上がった冬休みは
あっという間に通り過ぎてってそろそろお終い。

 大晦日の晩は恒例の神社巡りをしましたね
 ……。(頷、そうそう)
 途中で、大通りを占拠するバカ騒ぎして子供連れを引き倒した男どもを叩き伏せたら、
 誰がどこへ通報したやら、征樹さんがすっとんで来て
 ああああ、あれは、ちょっとやりすぎたかも。////////

東京の大みそかに、うっすらながらも積もるほどの雪が降ったのは130年ぶりだったとか。
そのくらい冷え込んだ日の夜半、
相変わらずにお転婆なお嬢様がたにおかれましては、
寒さ除けだろうか、相変わらずの大暴れを披露したようで。
乱暴狼藉を見かねてだったとはいえ、
特殊警棒やら長いポール状の得物やらを鮮やかに振り抜いて、
日付けと年が変わったばっかなQ街の大通りを舞台に、
やんちゃをしたには違いないと。
表向きには迷惑行為の喧嘩両成敗という形、
悪ガキたちとは別の車両ながら、お嬢さんたちもパトカーに乗せられたが、
そちらの運転担当は、お髭の似合う島田警部補殿であり。
本来なら後部座席なところ、一人だけ助手席に座らされた白百合さんが、
思わぬお年玉だと嬉しかったくせに、
その話をするたび真っ赤になってしまうのが何とも微笑ましいったら。

「あああ、それにしても新学期かぁ。」

何度目かの堂々巡りを、ついつい平八が口にするのは、
3学期には魔のカリキュラムが潜んでいるからに他ならず。

「マラソン大会こそ済んだけど、
 体育ではトラック5周とか持久走が始まりますものね。」
「???」

居たんですよの紅ばらさんが、
それがどうしたのだと、カックリコと小首を傾げる。
膝までどころか腹まで、いやいや、いっそ肩まで浸っているおこたの布団に顎をつけ、
キョトンとしている細おもては何とも言えずの繊細無邪気で、

「特殊警棒で道路標識ぶった切った剛の者とは思えませんよね。」
「文豪何とかの宮沢某くんみたいに、標識ぶん回すキャラだったとは。」

よく知らないけど、でゅららにもそういうキャラがいたそうで。(笑)
というか、結構な重さのあれを振り回すのは、さすがの紅ばらさんでも無理。
支柱を恐らくは超振動を発動させて素早くぶった切り、
パトカーの接近に気づいて逃げを打ってた輩の背後から、
“倒れるぞ〜”と直撃させてやっただけの話。

「………?」
「マラソン大会では、ちゃんと上位だったくせにですって?」
「それはそうですけどぉ。」

相変わらずの以心伝心。
キョトンとしたまま二人のお友達を交互に見やるという
結構 表情豊かな所作にてそんな意を伝えた久蔵殿だったのへ、
話の流れから、そうと訊いているのだろうとあっさり察した七郎次と、
そうに決まっていると疑わないまま、
彼女の言をまんま受け取って話を続ける平八で。
キャッキャと弾むお声は、
いかにも十代のお嬢様がたが楽しい話題にはしゃいでいるとしか聞こえぬが、

 “油断して聞き逃すと、どえらい相談だったりするからおっかない。”

お湯の御用はないものかと、
茶葉を新しく詰めた急須やポット、新作の生菓子を抱え、
いいつやの出た板張り廊下を歩みつつ、
当家の主人にして、平八の居候保証人の五郎兵衛さんが
ちょっぴり困り顔で苦笑した、睦月最初の週末だった。




   〜Fine〜  18.01.05.





 *明けましておめでとうございます。
  相変わらずに、ただのお喋りにまで物騒な回想が入ってしまう、
  ただならない武勇伝製造機のお嬢様がたで。
  彼女らの活躍を知ってるお嬢様がたもいないじゃないので、
  そのうち、学園内に特攻部隊とか遊撃隊とか作りそうで
  それもおっかないです。(こらこら)




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