ワケあり Extra 6

□今年の春は駆け足なようで
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梅やら沈丁花やらの花が咲いたという便りを訊いては、ああ早く来ないかと待ちわび、
彼岸に入って日和も暖かくなり、早咲きの神津桜の便りも届くようになり、
ああもうすぐだねぇなんてウキウキしておれば、

 「いきなり春分の日が大荒れになったのには参りましたが。」
 「そうそう。何だったの、あの大寒波の逆襲は。」

春の進みはいつだってそう。
上着が荷物になるほどの暖かさが一転、
厚手のコートなんで仕舞っちゃったんだろうなんて
後悔するほどの寒さが舞い戻るのも珍しい話じゃあなくて。
そして、そんなしっぺ返しのせいで用心深くなっておれば、
今度はそれをあざ笑うかのように
まるで初夏のような陽気が1週間も続いている乱脈ぶり。

「そんなせいか、桜がどこのも葉っぱが出て来ておりますよね。」
「そうだねぇ。正門近くのはそろそろ散り始めているし。」
「………。」

花びらが軽いせいか、
ハラハラと横へ浮き上がって宙を遊ぶように散ったりするのが
何とも情緒があって気を引かれる?
そうだよねぇ、桜って咲いてるのも散るところも観てて飽きないよねぇと。
一言も言葉は発してはない金髪のお嬢さんの横顔から
あっさりと思うところを読み取った、やはり金髪碧眼のおっ母様が (註;同級生)
そうよねそうよね、うんうんと、ふわっふわな綿毛を撫でてやりつつ、
なぁんて感受性が豊かなのウチの子と言わんばかりに頷いてたりするのも相変わらず。

 「…相変わらず、物凄い以心伝心ですよねぇ。」
 「やだそんなぁ。////////」
 「…。///////」

あ、今のはさすがに私にも判りますよと、
斜め上へ逸れて“気が合うところが微笑ましい”と言われたつもりか、同時に照れてるお二人へ、
ひなげしさんがアハハと笑う。
紅ばらに白百合にと初夏の花々を冠された三人娘、
いきなり初夏のようになったお日和の中、春休み中だというに学園へ登校してのお勤め中で。

「週末の入学式まではもたないかもですね。」
「ですよねぇ。」

その入学式への準備あれこれへ、
手際の良さを買われて進行担当の放送部や、
生徒らをお迎えする段取り担当の執行部などから、
要になるところを担当してほしいと請われてのこと、
今年もまた(…笑) 助っ人としてあれこれお手伝いに手を貸しているお三方なのであり。
新入生たちへの祝いの花飾りはそろっているか、
父兄の方々に待機していただく部屋は掃除や椅子の設置等手配がちゃんと運んでいるか。
当日の配布物は印刷が終わっているのか、来賓の方々の出席状況は確認できているかと、
最後のほうは職員の方々のお役目までも、きっちりと眼目に入れている頼もしさ。
そんな来賓の方々などなど
様々な後援の方々から様々に季節の花々や木々も贈られていて、
桜も珍しい種のそれがあちこちに散らばっているため、

「確か講堂の傍のは八重桜だったから遅咲きですよ?」
「あ・それじゃあ、式にはちょうどの満開になっているわね。」

卒業式にはいくらなんでも間に合わない桜、
せめて入学式には咲いててほしいと、アメリカ育ちの自分でも思えるから不思議だ、と。
ひなげしさんが ふふーと微笑み、

「それだけ日本通なんだもの、当然でしょう。」

式次第を書き出したの筒にした模造紙やら、養生用のテープを詰めた段ボール箱やら、
当日の準備室として開放していただいた警備員さんたちの詰め所の一室まで、
軽やかな足取りで運んでいらしたお嬢さんたち。

「わ。」
「きゃ。」

悪戯な風が吹き、お揃いのセーラー服のスカートがひらりたなびいて。
裾が腰近くまで舞い上がりかかったのを押さえた拍子、
抱えていた段ボールから、接着テープが一本、
逃げるよに飛び出したそのまま ころころりと転がってしまう。

「あ、待て待て。」

てんてんてんと、ところどころで弾んですばしっこく逃げる輪っかを
三人でまろぶように はしゃぎつつも追えば、
正門の際で誰かの足元にあたって止まる。
何だこの生きの良さはと苦笑交じり、
でもでもスラックス穿いてるお人なので通りすがりの誰かかなと、
下を向いてたお顔のにやにや笑いを正し、

「すみません。お召し物が汚れてはいませんか?」

先頭切ってた平八がそうと言い、二番手だった久蔵が、

 「…っ。」

ハッとして居住まい正し、その後ろ、一番最後に相手を見やった七郎次が、

 「あら、島田くんじゃないですか。」
 「シチさん〜〜〜〜。」

何でそんな、あっさりした挨拶が出来ますか。
だってあたし、あんまり接点ないしと。
昨年の今頃に奇しくもこの辺りにて大騒ぎになったのを
それぞれ違った温度で体感したのが浮き彫りになった、そんな事態の象徴たる存在が。
男子禁制の苑ゆえにそこから先へは入れぬからか、今は鉄扉が開放中の門前に立っておられる。
一見すると都内の高校のそれ、青が基調の制服姿の男子高生だが、
金色の綿毛といい、冴えた印象の細面といい、強かに鍛えられた痩躯といい、
色んな意味から彼女らには深い深いご縁のある存在が立っており。

 「しまだ。」
 「久蔵殿、そんな憎々しげにそうと呼ぶのは辞めて。」

  しかも自分に瓜二つな相手だってのに。
  久蔵殿は滅多にご自分の素顔を鏡で見ない人ですからねぇ。
  そっか、舞台用のメイクしたときに確認で見るくらい…って、

暢気なノリツッコミをやってる場合じゃあないと、
我に返った七郎次が手を伸べたがやや遅く、

 「…っ。」

疾風の如くという瞬発力で加速つけ、
素人には消えたように思えただろう常人ならざる俊足で翔っての、
一瞬で相手へ掴みかかったように見えたものの、

 「相変わらず。」
 「…っ#」

瓜二つといってもいいほどに酷似した、
久蔵殿と久蔵くん、一年ぶりの邂逅の図で。
人の話を聞かない、真っ直ぐ真っ直ぐなお嬢さんだと認識されていたらしい
紅ばらさんへ“相変わらずだ”と呟くと。
拾い上げた接着テープにて受け止めた、特殊警棒ごとやんわりと押し返す。

 「…大した腕だねぇ、相変わらず。」

そこは武道をかじっている身、鬼百合さんが苦笑交じりに感心し、
自分の懐までを押し返された紅ばらさんを捕まえて、

 「久蔵殿、メッですよ?」

誰彼構わず喧嘩吹っかけてどうしますかと叱咤したが、

 「…シチさん、それちょっと違う。」

叱る方向が微妙だというツッコミをひなげしさんが入れたところまでがワンセット。
昨年の春先に、この学園にてこっそり繰り広げられたとんでもない活劇、
その主軸だった三人娘の前へ現れたのが、相手方の微妙な関係筋だった此方の青年なのだけれど。

「何ですか?」
「もしかしてまた同じような騒動が起きそうだという警告とか?」

確か、極秘ながら政府筋の御庭番のようなお務めをこなす一族の人だという説明を聞いている。
なので、あの騒ぎもオフレコ扱いだし、
しれっと高校総体に出ていた彼だったが、何があっての知り合いかはちゃんと口をつむって通したこちらで。
そんな風に義理を通していたのだ、よほど特別なようでもなけりゃか来なかろに、と。
此処でやっと三人娘らが表情を真摯なそれへと引き締めて、
すらりとしなう背条も頼もしい、冴えた美貌の青年へ、真摯に訊いてみたところ。

 「…俺も話の都合上 留年扱いになったので挨拶に。」

 「う…。」
 「な…。」

俺もの“も”がポイントで、
言わずもがな、こちらのお嬢様がたも。

「てぇ〜いっ、暇なのかあんたっ!」

何をわざわざ本人が通知しに来たのかと、羞恥心とともに爆発しちゃったシチさんだったり、

「春休みだってのに他にすることないんですか。」

やや呆れたヘイさんだったのは言うまでもなく。
どうか今年度もお転婆さんたちをよろしくと、
この時期恒例の、年度進行なしですよという告知を兼ねたお話でした。


   〜Fine〜  18.04.04.





 *本当はエイプリルフールにでもUPしたかったんですが、
  ちょっとバタバタしていたので。(笑)
  また今年も女子高生です、お三人。
  特別ゲストの久蔵くんも同じくです。

 *そして後日談を少々。
  あの、物に動じない三華様がたが
  見惚れて固まってしまったほどだったのだ、
  どれほど麗しき殿方だったのだろうかと噂になったらしかったが。

  「…。」
  「そうですね、訂正して回る気力も沸きませんわ。」
  「同意です。ただ、そうともなると、
   恋煩いかしらという第二の困った噂が飛び交うかもですが。」
  「う…。」

  女の子って面倒くさいと、
  しみじみ思ったお嬢さんたちだったそうです。(笑)





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