■小劇場 4

□ツバクロ翔る
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三月の末となっても
なかなか暖かくならず
“春めきはいつ?”と
案じられたものが、
ほぼ1日でというノリで
ぐんと暖かくなったり。
そうかと思えば、
やっぱり上着は手放せない
寒波が戻って来たり。
それが一気に
ソフトクリームが
恋しいほどの陽気で
GWを楽しむ皆様を
踊らせたかと思えば、
すぐさまの今度は、
雹や雷が容赦なく降るような
不安定な天候を続かせたりと。

 「花粉こそ
  少なかったそうですが、
  黄砂もなかなかに
  長く漂って
  いたそうですし。」

体調を崩されたお人も
多かったでしょうねと、
しっとり落ち着いた声で
話しかけられて、

 「………。(頷、頷)」

自分の周囲にも
心当たりがあるものか、
神妙なお顔になって頷きつつ。
はいお待ち遠うと
お店のおかみさんから
手渡された包み、
七郎次を経由したそれを、
こっちで預かろうという
お手々を出すのが。
島田さんチの次男坊こと、
久蔵さんであり。
おっ母様、
もとえ表向きには従兄弟の
七郎次さんとお揃いの
金の髪をしており、
ただ、
手ですくえば
涼やかな金の音さえ立ちそうな、
さらっさらの直毛という
お兄さんと違い、
こちらさんは
ふわふわした綿毛を思わす、
軽やかなくせっ毛なのが
大きく違うところ。

 『今もかわいいですが、
  小さいころは
  もうもう
  天使みたいに可愛らしくて』

……と。
人様から聞かれると
そこまでも
引っ張り出して来ては、
くうぅ〜っなんて
咬みしめ直すことも
多々ある七郎次なので。

 『………。///////』

高校生になって
かわいいもなかろと思いつつ、
でもでも、
シチが嬉しそうなら
まあ・いっかと。
そういう順番で
目許を微妙に
和ませてしまわれる
久蔵さんなのも
相変わらずで。

 「それにしても、
  今日はまた
  いいお天気ですよねぇ。」

五月は結構暑い日も多く、
そのフライングが
嘘のように
陰さえ引っ込めた結果、
肝心な衣替えの当日は
半袖から
鳥肌が立ったなんて話が
例年のことなのに。
今年の六月は、
結構なお日和のまんまで
始まっており。
陰れば袖のあるものが
要るものの、
陽が照れば
たちまち目映い陽が
張り切ってくれて。
帽子や日傘がないと
のぼせてしまうかも
というほどの
大したお天気が続いてる。

 「おお、
  もうスイカが
  出てますか。」

 「そうさ。
  しかも、
  年末や
  クリスマスみたいな
  温室栽培じゃあないよ?」

種類としちゃあ
早生じゃああるが、
それでも南の方じゃあ
もうもう普通に
収穫が始まってると。
八百屋のおじさんが
我がことのように
自慢げにおっしゃって、
とはいえ、
それを遮るように、

 「でもまあ、
  夏場にいやってほど
  食べられるもんでも
  あるからねぇ。」

旬のものや
四季折々の風味、
ちゃんと取り入れなさる
シチさんだったら
焦ることはないと。
小柄な女将さんは
あんまり強引には薦めない。
今時の旬なら、
そうだねぇ、
アメリカンチェリーや
アンデスメロンに、
そうそうそれからと、

 「びわもそろそろ
  甘いのが出るよ?」

 「あ、そうでしたね。」

ウチにも樹がありますが、
収穫するつもりは
ないものだから
放ったらかしで。
おやそれは勿体ないねぇ、
シチさんだったら
手入れも丁寧だろうから
その気で世話すりゃあ
美味しいのが
収穫出来ように、と。
おかみさんとの
そんな会話を聞いていて、
うんうん、
よく判ってらっしゃると、
お母様がほめられたことを
敏感に嗅ぎ取ると、
次男坊が
大きく頷いてしまうのも、
まま毎度のことだったり。(苦笑)




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