■小劇場 4

□ちょっぴり切ない思い出も
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 *シチさんの幼少時代が
  ちらと出てきます。
  痛いお話がダメな方は
  自己判断でお避けください。




今年の梅雨も
何だか妙な按配で。
いつまでも上天気な
ご陽気を引き継いでの、
そのまま真夏に突入かという
暑さのまんま始まったのに。
いきなり
春時分へ逆行かという
梅雨寒が続いたり、
そうかと思えば、
台風が早々と襲来し、
とんでもない豪雨に
なったりもし。

 「さすがに
  上着は早めに
  しまいましたが、
  時々は
  くしゃみが止まらぬ朝も
  ありましたものねぇ。」

 「……。///////」

誰がとは言わぬ
七郎次だったが、
覚えが重々あるらしい
連れの高校生が、
ありゃりゃあと
首をすくめたので、
それで答えが
出たようなもの。
羞恥みつつ
ほんのちょっぴり俯いたのへ、
あらあらと
こちらはまろやかに笑った
七郎次。
綺麗な白い手で、
前髪を直して差し上げて、
早う治まってよかったと、
こそり囁いてくれたのへ、
うにむに、
ますます照れてしまう
久蔵殿だったりし。
相変わらずな
やり取りをするご兄弟、
同じ商店街へと
向かうのだろ、
やはりお買い物にと
お急ぎのお母様方が、
このご町内では
すっかりお馴染みの顔ながら、
いつ見てもお綺麗で
垢抜けたその姿に気がつくと。
あら今日は
久蔵さんもご一緒なのねぇと、
思わぬご褒美を
授かったかのように、
ついつい頬を
微笑みに
ほころばせておいでのお人が
多いこと多いこと。
ちょっぴり長身の
お兄さんの方の七郎次さんは、
島田さんちの
いわば専業主夫なので、
商店街へも
毎日のようにお越しだ、
タイミングさえ合えば
当たり前のように
姿も見られるが。
ふんわり綿毛が
なかなかノーブルな、
久蔵坊っちゃんの方は
高校生なので。
こんな昼日中には
なかなかお顔を
見られぬのだが、

 「ああそうか、
  期末テストなので。」

 「そうよ、
  ウチの娘も
  夜中遅くまで起きていて。
  ラジオか何か聞いてか、
  不気味に笑ってるし。」

  覚えのある人
  手を上げて。(苦笑)

本来はお勉強なさいという
意味合いでの
お昼までなのだが、
こちらの坊っちゃんの場合、
これ幸いと
おっ母様のお手伝いに
精を出すという
変わり者…もとえ、
今時には珍しい孝行息子で。
みそに醤油に、
あと、あずきともち米と。
ああすみません、久蔵殿。
今日は特売日なもんで、
重いものばかり
なんですよと、
何も全部を
任せるつもりは
ないらしいのに、
お勘定が済んだ荷から
次々と、
自分が先にと
手を伸ばす坊っちゃんなので。
七郎次は
ほぼ空のトートバッグと
これも特売の玉子しか
提げさせてもらえていない。
やたら恐縮する
金髪美形のお兄様へ、

 「……。(否)」

何でもないことだから平気と、
かぶりを振った久蔵に、
そのまま視線で促され、
次はと向かったのは
お肉屋さんで。
丁度お昼時分だからだろう、
コロッケや揚げ物の
いい香りが
随分と先から感じられ、

 「…あ。」

店頭には
ショーケースの邪魔にならない
端っこながら、
七夕の笹飾りが立ててあり。

 「そうだった。
  七夕でしたねぇ。」

さわさわ揺れる
笹の葉に触れたおっ母様。
今時の…セロファンだろうか、
キラキラした飾り物が
にぎやかだなぁと
眺めておれば、

 「平八も。」

 「え? ヘイさんとこも
  飾ってましたか?」

久蔵の手短な一言に、
ありゃ
それは気がつかなんだと、
眉を下げた七郎次だったのへ、

 「仕方がない。」

ちょっぴり俯いた次男坊。
だってシチは忙しい。
特にこの何日かは、
自分がテストの勉強にと
夜更かしをしているため、
お夜食だの果物だのと
届けてくれては、
息抜きしなさいと
付き合ってくれており。

 “島田の会社務めも
  連日遅いから、
  というのもあろうが。”

彼の勤める商社クラスでは、
節電の夏も関係ないものか、
それとも、
夕涼みという格好で
エコ接待と
しゃれ込んでいるのか。
このところ、
妙に帰宅が遅い
御主様でもあって。
このまま続くようならば、
先に夏休みに入る自分が、
避暑にと
シチを木曽へ連れてくぞと、
半ば脅迫めいたメールを、
明日にも勘兵衛へ送る所存の
次男坊だったが、

 「笹飾りとコロッケというと、
  懐かしい取り合わせ
  なんですよね。」



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