■小劇場 4

□いちにぃの…
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このところは
途轍もない夏ばかりが
襲い来るものだから、
秋と言ったら…なんてな
話題を持ち出すにしても、
残暑を引きずってる内は
相当に無理があって。
少なくとも九月の内は
そういう話をするのは
まだ早いようだと、
諦める感覚になった方が
いいのかも知れぬ、
様々な企業の広報のお歴々。

 *化粧品業界は
  さすが鋭いというか、
  乾燥肌ケアの出足が
  今年は遅いようだが。
  食品会社は
  フライングで
  シチューやグラタンの
  CMを観た…と思ったら、
  そそくさと引っ込めた
  ような気配がしたんですが。
  (気のせい?)

冗談はさておき。
本来ならば、
暑さも和らぎ
過ごしやすい気候に
なるがため、
行楽にも向いているし、
猛暑から
やっと逃れて迎える夜長は、
涼しくて
過ごしやすいとあって、
ついつい
夜更かしをしてしまうせいで、
読書や
DVD鑑賞には打ってつけ。
(ちょっと順番が違う…?)

  そしてそして、

何と言っても収穫の秋、
結実の秋であり、
美味しいものを
皆で収穫しましょうの
名残りか、
皆で集う行事も
たくさんあって。

 『神社で催される
  秋祭りは そのまま、
  収穫を氏神様へ奉納して、
  豊作を感謝するお祭りですし。
  文化祭系統の
  発表会にしても、
  こういう時期に
  催すところからして、
  そういう奉納祭の
  変化したもの
  なのかも知れませんよね。』

春から始めた
習いごと芸ごとの
お浚いの会なぞは、
一見 根っこは
違うようにも思えますが、
この時期に
重なってるなんて、
やっぱり関係が
あるんですってと。
さては根拠までは
裏どりしてないらしい
お言いようながら、

 「久蔵殿は、
  今年の文化祭、
  どういう演目を
  なさるのですか?」

剣道部の方は
いつもの屋台ですか?
クラスの方では
演劇ですか?
特撮ドラマを
少しずつ撮影していた?
久蔵殿は…あらまあ、
それは楽しみですねぇ、と。
あの、大好きな
七郎次おっ母様から、
やさしくも柔らかで
清涼な頬笑みと共に
そうと畳み掛けられては……

 「〜〜〜〜。」

前半の枕部分が
ちと怪しい
言いようなんじゃあ?なんて、
ただでさえ
お慕い申し上げてる
久蔵さんから、
どうして
ツッコムことなぞ
出来ましょうや。(大笑)
聡明透徹、
繊細で優しそうな印象の
美丈夫さん。
上背もあっての、
かっちりと出来上がった
均整のとれた
肢体をしているのに、
涼やかな目許に
すべらかな頬、
品があっての
柔らかな肉づきの口許には、
甘い微笑が絶えなくて。
所作もなめらかで
いちいち卒がなく、
伸びやかなお声は、
内緒ですよと低められると
甘さが増して、

 「栗の甘露煮、
  お弁当に
  入れときましたよ?」

不意打ちで
耳元へこそりと
囁かれた日にゃあ、
内容なんて
一気に吹っ飛んで
しまっての、

 「………っ。/////////」

胸のうち発、
耳朶の端 着という血流が、
一気に
過熱してしまうばかり。
お母様のことばかり言えない、
ご本人だって色白な
その頬をぱあっと
緋色に染めつつ、

 「〜〜って来ます。」

 「はい、
  行ってらっしゃい。」

ドキドキしちゃった
恥ずかしさや含羞みを
これ以上さらすまいと、
そそくさと出掛ける、
毎朝のこの一瞬の
純朴さと朴訥さ。
是非とも
部活の某先輩のケータイへ、
日頃のご苦労への免罪符に、
動画で録っといて
送って差し上げたいくらい。

  ……迷惑ですか?
  そりゃ失礼。(苦笑)

挙動不審なの悟られまいと、
勢いつけて
飛び出しては来たものの、
駅まで向かう道をゆくうち、
気持ちも
すぐさま落ち着いて。

 「…………。」

次に襲うは、
ちょっとしたアンニュイ。
だって
授業はまだ短縮なのだのに、
お弁当持って
出掛けにゃならない身だと、
その遅い帰宅時間を
見越されているのが
何とも不満な次男坊。
まだ気温も高いので、
小難しい講義へは
集中だってしにくかろ。
それより何より、
十月に入って早々
という日程で、
体育祭やら文化祭やらが
控えているので、
その準備に使いなさい
という温情か。
授業は昼までで、
午後は課外授業
という扱いになっている、
某都立高校の
九月のタイムスケジュール
だったりし。

 “………。”

学園祭の準備と言われても。
体育祭のほうでは
応援団の一員にと
抜擢されているが、
そっちの打ち合わせは
もっと日が迫って来てから、
何拍子はこう、
何拍子の振り付けは
こっちというの、
伝えられりゃあ
まず間違いなくこなせる身。
文化祭のほうだって、
部の方では、青空カフェの
当日の
席までの案内役だけ
すればいいと
榊先輩から
言われているし。
クラスの方の出し物だって、
どんな演目を
持って来られようと、
よほどに馴染みのない
分野でもない限り、
破綻なくこなせて
当たり前という身。

 舞踏会シーンのワルツ?

   柔道のすり足に
   置き換えれば楽勝。

 特撮ヒーローの
 見得切りポーズ?

  大極拳の型に
  置き換えれば以下同文。

伊達に 先々で
“一発本番 後戻りなし”
という
苛酷な任務を
こなさにゃならない
身の上なんじゃあない。
指示や指令は
復唱なしで
頭と体へたたき込むのが
基本、
相手や周囲に合わせる
必要のあることだって
お手のもの。

  木曽支家の次期惣領、
  島田一門の
  東の総代候補筆頭を
  舐めてもらっては
  困ります。
   (談;東北、
     北海道方面
     支家総代一同)

今年の演目は
ビデオ撮影した
ミニドラマの上映で、
しかも監督を担当したのが、
やたら計画性のある人物で、
夏休み中の登校日とか、
部活の練習日に
出てくるメンツの分を
その時々に
少しずつ撮りだめしていた
グッジョブが功を奏し。
二学期の今は、
大人数が
逃げ回ったりするシーンの
撮影と、
編集を残すのみだとか。

 「…そりゃあなあ。
  かんしゃく玉鳴らしたり、
  後でコンピュータで
  削除処理するとはいえ、
  黒子が大挙して
  人垣作っちゃあ
  ヒーローや怪人が
  吹っ飛ぶのを
  受け止めたりした、
  かなり大胆な
  活劇シーンもあったから。」

夏休みで
校庭が空いてなきゃ、
撮影出来ないってという
お声もちらほらり。
…大丈夫ですか、
木曽の次代様。
そんなところで
目立って
お顔売っちゃっても。

 「………….」

  え?
  活劇シーンは殆ど
  けったいな仮面
  つけてたから判るまい?
  …話の前後ってもんが
  あるでしょう。


  「……っ。…あ。」


おいおい話を逸らすか、
じゃあなくて。
そろそろお屋敷町の通りから、
車の通行も増える
大通りへ出ようか
という辺りにて。
目の前の足元を
“たたたたっ”と
風のように駆け抜けた
影があったのへ、
反射神経のいいこちら様、
考え事も吹っ飛ぶ反応で、
ひたりと足を
止めたのだけれど。

 「あ……。」

少し白っぽく乾いた
アスファルトの道の上、
右側の塀の上から
飛び降りて来て、
数歩も駆けぬうち、
やはり素早い瞬発力で
対面の塀へと飛びつくと、
そのまま頂上までを
駆け上がり、
去ってしまった
一瞬の存在は、だが。

 “こねこ……。”

大人猫なら
あの身のこなしも
判らいではないけれど、
淡い茶色の
それはそれは小さな
仔猫だったの、
久蔵殿には
きっちり見て取れた。
お顔の造作が
キュッと小鼻の回りへ
愛らしくも詰まった
バランスといい、
四肢のか細さ、
総身の均整といい。
ちょちょいっとじゃらせば
勢い余ってコテンとこけて、
その様子だけで
“かぁわいぃ〜いvv”と
嬌声を招くよな。
そんな
年端も行かぬ仔猫だったし、

 “あの猫は……。”

自分が飼ってるものならば、
それが犬猫であろうが、
インコや金魚、
昆虫や亀や
トカゲであろうが、
同じ種類のが大挙して来ても
見分けがつくとはよく聞くが。
飼ってもないのに
何故だか見分けのつく仔猫。
赤い首輪に金のプレート、
キャラメル色の
メインクーンの姿の上へ、
時折 幼い坊やの姿が
二重写しになって見える。
そんな不思議な
“あの猫”だったなぁと、
素晴らしき動態視力で
そこまで見極めておいでの、
島田さんチの次男坊様。

 「…………。」

まま、
くだくだと嘆いてたって
何も変わるものじゃあなし。
毎日の役割を
きっちりと勤め上げ、
出来るだけ早く帰れるよに
持ってきゃあいいのだと。
姿勢をあらため、
背条も伸ばして。
最寄りのJR目指して
歩み始めることで、
遠巻きながら
護衛についていた
“草”の皆様を
ほっとさせたのでありました。


 ― そういや、
  秋恒例の“逃避行”へと
  なだれ込むのも、
  久蔵様の
  ほぼ思いつきって
  行動だそうだしねぇ……。


  続く


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