ワケあり Extra 6

□秋の訪のいは 何とも気まぐれ
1ページ/1ページ





もう随分と過去の話のようだが、
実質は40日ほどしか経ってはない頃合いのこと。
そう、今年の夏を覚えておいでだろうか。
それはもう記録的な酷暑で、
テレビは連日のように“熱中症に用心を”というテロップを流しまくり、
それでも倒れては救急車で運ばれる人が後を絶たず。
観測史上最高気温とやらを弾き出しもし、
それどころか その40度以上という途轍もないはずな数値自体、
各所で何日も何回も目にしたものだから、
猛暑日のはずな35度にやや足りない 33度、32度という数字を
“やや、少しは涼しいのかな?”なんて感じるようになってた、
何とも奇天烈な夏だったはずだけど。

 『何ででしょうかね、雨の印象が強くって。』
 『……。(頷)』

酷暑は主に前半で、後半は途轍もない豪雨が多く。
ゲリラ豪雨はもはや常連、南岸低気圧も頻繁に発生。
台風までもが 逆巻きの西進したり、
史上何位とされよう威力のが駆け抜けてったり。
確かに夏台風は迷走するとは言うけれど、
それにしたって頻度がおかしいというほど、毎週のように大暴れしてってくれたものだから。
炎暑だったのも記憶にはあるが、
こう、冬季五輪のそりゃあ華々しかった日本選手の躍進の記憶が
それはハンサムだった小平奈緒様の雄姿が、
アジア大会の日本選手団の大活躍のせいで随分と向こうへ追いやられたような?
大阪でも地震はあったのに、すぐさま西日本豪雨が襲い、
そのすぐ後に東から西へ駆け抜けた変則台風が襲いと。
結構大変なことが起きたはずが、次々に大変級の災害が襲ったものだから、
同じ夏の出来事ではないかのような “思い出”と化してしまうの早すぎなような?
そうまでも色んな事が“これでもか”と詰まってた、妙に充実していた夏でもあって。

 「こんな方向で充実してなんて言い方も嫌なもんですが。」

まったくもってまったくだ。(おいおい)
九月に入って学校が始まっても、何だかまだまだ蒸し暑いものだから、
スイーツやコスメ、秋の何とかと言われてもピンとこないねぇなんて言ってたが。
流石にその九月も半ば近こうになれば、
雨が降るごと地表の熱も奪われるものか、朝晩は半袖一枚だと肌寒く、
アイスもまだまだ美味しくいただいてはいるものの、
かき氷よりはアイスクリームと、いろいろ少しずつシフトして来ていた。
今年は秋めくの早いねぇ、早く衣替えにならないかなぁなんて、
近年には珍しくも待ち遠しかったはずが。
10月に入った途端、やはり週末は台風に翻弄されたものの、
今度は何と夏並みの暑さがやって来たからたまらない。
朝方は肌を晒しているとくさめが出そうじゃああるものの、
昼間の気温は下手すると30度にまで跳ね上がり。
昨日まで羽織っていたコートがお荷物となっての
半袖シャツ出してよお母さん、母さん今日は夏のシャツ着て行くからという、
言うだけで済まされる子らや夫やの身勝手さに
主婦ばかりが振り回されて ぶっちんキレそうな、
はた迷惑なレベルでの気温の乱高下がまたもや襲い来ている都内だったりし。

 「ホント、朝のうちはまだ何とか我慢も利きますが。」

最寄りの駅から学舎までの道を埋めているのは、
衣替えが済んだばかりの聖女らで。
ほんの先々週まではセーラー服はまだ白基調の夏服姿だったものが、
今やすっかりと合服に入れ替わり。
濃色の襟が可憐な肩や背を覆う、袖の長い制服姿と相成って、
それは淑やかに“ごきげんよう”との挨拶を交わしておいでなのだが、

 「授業が始まれば、
  すぐにも蒸し暑くてたまらない昨日今日ですものね。」

困ったもんだとお顔の傍で手のひらをパタパタと扇のように振って見せる平八へ、
うんうんと何度も頷いてから、

 「学園祭。」

授業中はまだいいがと、やや小首を傾げるような項垂れようで、
久蔵殿がぼそりと呟く。
台風の合間を掻い潜って敢行された体育祭は
ギリギリさして暑くもない中で催されたので、
ブラスバンド奏者のような、
モールや肩章つき軍服もどきの上衣にミニスカートという衣装をまとい、
お嬢様がたが大きなフラッグぶん回す、
伝統のマスゲームも成功したほどセーフだったものの。
その直後からのこの蒸し暑さには、
近づきつつある学園祭へ向けてのラストスパート、
展示物の設営準備やら、舞台ものへの練習やらに勤しむお嬢様がたへの
苦行めいた攻撃になっており。
設営や大道具作りなんぞの各種作業はトレパン姿になって手掛けられるとしても、

 「舞台上演関係の演目の練習はねぇ。」
 「……。(頷)」

久蔵殿もそういや斉唱楽部の発表があるんですよね、講堂のステージで。
3曲歌いますか、中の1つは聖母子の寸劇付き?
それはまた、ピアノの伴奏だって大変でしょうし、
担当の子たちは衣装着たら暑いでしょうねぇ、と。
手振りも交えて何とか会話が成り立つようになった辺りは、
ひなげしさんもさすがにそろそろ慣れたもの。
とはいえ、

 「……っ?」
 「? どうかなさいましたか?」

会話の流れを飛び越えるよな唐突さ、
不意にお顔を上げた様は、
わんこや仔猫が何かしら目に見えない気配を察知したかのような鋭さで。
相変わらず一等鋭敏な感覚をしておいでの紅バラ様の反応へ、
表面上は“一体何へ気づいたの?”と穏便なセリフで訊きつつも、
すわ、何かしらの一大事かと、
周囲を見回し、手元へは防犯カメラからの警報確認、
スマホから情報を呼び出せる手鏡サイズの液晶ツールを
制服の袖口から滑り出させと、ひなげしさんが準備万端に構えたものの。
そんな緊張感を打ち破ったのが、

 「おっはようございます、久蔵殿、ヘイさんvv」
 「…シチさん?」

電車通学組のお仲間、白百合様こと七郎次が、
1本後ので到着したか、坂道の後から追いついて来たらしく。
ぱふ〜んと抱き着く格好で、
二人のお友達の肩を広げた両腕の中に捕まえてしまわれる。
こちら様もまた色白可憐な風貌のお嬢様だが、
これで剣道部の鬼部長でもあって。
インターハイでは連続王者の記録更新中。(…何年物かは訊かないように) 笑
鬼百合との異名持つ身とは思えない、
楚々とした聖女振りで人気者の彼女だが、

 「…あ、シチさんいい匂いするね。」
 「えー、そうかな。」

別にいつもと変わったことはしてないよと、
自分の鼻先を懐辺りへくっつける素振りをするものの、
思い当たりがないものか“何のお話?”と不思議がっているばかり。
そんな彼女へ、

 「…vv」

もしもあったら鞭でも振り切るほどの勢いで
その尾っぽを振ってるのだろう上機嫌。
紅ばらさんが繰りぐりぐりとお姉さまの肩口へおでこを擦りつけており。

 「あんず。」
 「ああそっか。ボディソープの匂いだ。」

久蔵殿の懐きようにてひなげしさんも気が付いた。

「そっか、さては朝シャンしてきましたね。」
「うん。だって朝練して来たし。」

部活の朝練は、試合が近い場合以外は授業中の居眠りを誘うので原則厳禁。
なので、自宅の広大な庭で朝一番に竹刀を振っておいでの鬼百合様だそうで。

「汗かいてべったべただったからねぇ。」
「朝のうちからそうまで励むからですよお。」

これからまたぞろ蒸し暑くなるのかなぁって話していたのにと、
一足お先に汗かいてきた豪傑へ、何やってますかとの笑いがこぼれる。
清かな朝の風の中、金木犀の匂いもそのうち香って来るのだろう、そんな秋の朝一景。


   〜Fine〜  18.10.09.





 *落ち着きのない天候続きで、何という平成最後の年なんでしょうか。
  台風だってまだ1個か2個は来るかもしれないなんて言われてますしね。
  もうちょっと落ち着いて秋を堪能させてほしいものです。





[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ