ワケあり Extra 6

□遅ればせながら…
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この冬はどうやら暖冬らしく、
師走の真ん中あたりにいきなりガクッと冷え込んだ日もあったれど、
北国の豪雪地域は別として、
関東や関西の平野部では、割と温暖、
あんまり着込む必要もない長閑なお日和のままに年も明けて。
某女学園もそれは穏やかに新学期が始まり、
ご近所の系列校にあたる短大や女子大に進まれたお姉さま方が、
成人のお祝いにという式典へ招かれたついで、
後輩たちへもご挨拶くださるのでと、祝日登校となった部がちらほら。

 「ウチも先輩方がお越しになりましたよ。」
 「……。(ウチもという頷き)」

白百合さんと紅ばらさんは、きちんと部活動なさっておいでで、
しかもお嬢様学校という添え書きが後からついてくほどに
結構な実力ありと都下では有名でもあるそうなので、
その勇名に恥じぬよう頑張ってねという激励をされたらしい。

 「……先輩方も毎年大変ですねぇ。」
 「〜〜〜〜。」
 「ヘイさん〜〜〜。」

ぎんなんやタケノコ、鶏肉がどっさりの山菜おこわに、根菜の炊き合わせと、
至ってヘルシー、何よりご本人がお好きな和風のお弁当を召し上がってた紅ばらさんが
珍しくもぷぷっと吹きかけ、
言うと思ったらしき白百合さんが、おいおいと塗り箸を宙で振って一応は咎める。
すいませんね、折り返し地点で毎年振り出しに戻らせてて。
その辺の含みへのひなげしさんからのお言いようはさておいて。
三学期は三年生のお姉さま方の進路関係が優先されるため、
授業も短縮が多く、行事も少なめで。
それでも休むと体がなまる運動系の部活は 基礎だけでもと毎日練習があるそうだし、
紅バラ様が伴奏担当で活動中の斉唱部も、
送別系の行事に付きものの校歌や聖歌などなどの合唱の練習があるらしい。
そんなため、短縮授業で午前だけな日が増えようと、午後に備えて毎日お弁当を食べており。
今日も無人の音楽準備室の窓辺の陽だまりで、
それぞれにお弁当広げて朗らかにお喋りなさっておいで。
彼女らの此処での昼食は他の生徒らにも知られているが、畏れ多くてご一緒になど出来ぬ。
むしろお邪魔してはいけないと誰が言うともなく そんな空気になってるらしく、
結界でも張ってあるかのように皆して避けているがため鉢合わせになったこともなく。
なので、彼女らの側でもあまり取り繕わずにお話を繰り広げていたりする。
例えば、

 「そうそう、あの振袖はどうなりましたか、ヘイさん。」
 「どうもこうも。
  草野刀月さまの筆だってバレたらどんな数寄者がクレクレって殺到するやらですもの。
  仕舞い込んだままですよぉ。」
 「……。(頷)」

素材工学の権威が知り合いにいて、
以前も体温の変化でそれは鮮やかに色が変わるというドレスの発表に
一役買ったことがある平八だったが、
今年はその応用で和装の生地に挑戦し、
何とか染めの工房とコラボしてそれは嫋やか可憐な振袖が完成。
こちらのお三方が着てのお披露目となったのだが、
雪月花というお題目のそれ、意匠を担当したのが
何と七郎次の父上の、日本画の大家・草野刀月さんだったりしたので。
お披露目の場は科学関係、素材工学の畑の方々が主だったせいか、
周囲の明るさに合わせて水墨画調になったり、
室温や体温に合わせ、蕾だった椿の絵が開いたりという不思議の方へ注目が集まったのが、
記事を見た日本画壇関係者の方でも遅ればせながら話題となり、
あの振袖はどうしたと、ちょろちょろ問い合わせがあるらしい。

 「いい気なもんですよ。
  日頃は 派手なことばかりして迷惑なとか言ってる古参の老害ジジイたちが、
  スポンサーだかご贔屓筋だかに突々かれたのか、
  慣れない猫なで声であれはどうなったのかねなんて訊いてくる。」

ぷんぷんとお怒りな白百合さんへ、
まあまあと五郎兵衛さん謹製の栗三笠を進呈しつつ平八が肩をすくめて、

 「日本画と和装って、結構関連がありそうですが、情報遅いんですね。」

はい久蔵殿にもと、ハチミツ入りの生地も甘い真ん丸な三笠を差し出して、
今頃騒がれてもねぇなんて苦笑すれば、

 「ウチは、博士の方へ問い合わせが。」
 「ありゃまあ。」

 素材工学の博士に何訊きたいんですか、ホテルJの関係者の方々が。
 ラウンジの…
 そうですか、各所に天幕やカーテンとして使いたいそうですよ、ヘイさん。
 相変わらずですね、シチさんてば、(笑)

たったあれだけの一言で、
寡黙な紅ばらさんの意をあっさり酌めるおっ母様なのも相変わらずならば、

「大体、あの着物出すと…ねぇ?」
「そうですよ、たすき掛けしてたって判る人には判るでしょうし。」
「それどころか…。」

三人とも途中から裾もたくし上げての小脇で結ぶという、
勇ましいを通り越してなかなか破廉恥だったかもしれないいでたちになり、
学会会場のあちこちに仕掛けられていた爆発物、
片っ端から除去して回った大活躍も、あのそのこっそりやらかしていたので。
謎の人影が暗躍していたというのはギリギリ監視カメラにも映ってたらしく、
犯人サイドは油断しまくり、証拠も残しまくりという体たらくだったが、
謎の美少女振袖隊のほうは、巧妙にカメラフレームの外に居たり、着物の裾しか覗かせて無かったり。

 「…佐伯さんとか、言わずもがなの勘兵衛さまが、
  影に見覚えがあるってだけでは証拠にならないからねぇって
  仄めかすような言いようをするのよね。」

はははと、乾いた笑いようをする七郎次へ、
堤防役を任せている後の二人もごめんごめんと慰め顔。
そう、怪しまれているどころじゃあない、
はっきり言って“またか”というレベルで目星をつけられているものの、
私たちだっていう“証拠”はおあり?とギリギリ言い逃れている事案であり。
正月早々何をやっているものか、
こちらのお嬢様がた、今年も相変わらずらしいですよ、ハイ。


 あけましておめでとうございます
 本年もどうぞよろしくお願いいたします。



   〜Fine〜  19.01.17.





 *お久し振りのお転婆様がたですvv
  そしてやってることは相変わらず。
  振袖着せてもお元気だったようで、
  日の目を見られない、何とも勿体ないお着物たち。
  もっとずっと後に、
  それぞれのお子達のお宮参りでお披露目すればいいですよ。(笑)




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