ワケあり Extra 6

□春隣のころに
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これまでの暖冬傾向をやっとのこと蹴り飛ばすよに、この1週間ほどは冬らしい寒さが訪れており。
さすがに大寒過ぎたからねぇ、雪まつりとか石像が溶け出して崩れて大変らしいってなんて、
この冬がいかに温暖だったかが、そろそろ“過ぎ去る代物”として語られ始めている今日この頃。

「ずっと、暖かだったせいかっ、
 朝晩の寒さが恨めしいですよ、ねっ。」

妙にところどころで弾む言いようをし、
お友達の方を肩越しに振り返る白百合さんなのへ、

「そうですよねっ。
 これがっ、本来っの、気温かもしれませんがっ。」

こちらもところどこで力んでいるよな話しようをし、
ひゃあっと身を縮めたひなげしさんを庇うよに、

「……っ。」

ぶんッと横薙ぎに振るった特殊警棒の一閃で、
掴みかからんとした輩を仰のけざまに引っ繰り返す、そりゃあ勇ましい紅ばらさんだったりし。

  ………………………相変わらずなようです、お嬢様がた。(笑)

白々と明けかかる早朝の町はずれ、
周囲を今は冬枯れした木々に囲まれた、遊具のない公園内にて、
10人でこぼこという頭数の作業着や安っぽい背広姿の男らが、
トレーニングウエア姿の女子高生を何とか取っ捕まえようと駆けずり回っているのだが。
個人技発揮の荒事にしか縁がなかったのだろう、
連携を取らぬままに掴みかかっちゃあすんでのところで交わされてたたらを踏んだり、
そこへ別方向から突っ込んできた仲間と鉢合わせて頭や肩をぶつけたりと、
何とも無様に振り回されているばかり。

 「こんのガキがっ。」
 「いい加減にせんと泣きを見るぜっ、って〜〜〜っ。」

 「…どっちが泣きを見ているのでしょうか。」

今のは いい音がしましたねと、
紅ばらさんに殴り掛かった作業服の輩が
ひなげしさんの腕を取りかかった奴の頬を思い切り殴って伸したのへ、
白百合さんがアハハと笑い飛ばす。
そんな彼女を背後から捕まえようとした手合いの気配を、
振り向きざまに打ち振るった長いポールで貼り倒し、

 「あら、いらっしゃったの? ごめんあそばせ。」

気づかずに振り向いちゃったぁなどと
可憐な口許へ手入れのいい手を添えて
白々しい言いようをするところが小憎らしかったり。

 「もうこいつらなんぞ放っておきましょうよ。」
 「そうは行くかっ!」

一部から泣き言が出るものの、男らの側もそうは行かない背景がある。
誰も居るはずのない場末の公園。しかも未明近い朝早く。
盗品らしいものへ外部から操作できるよう細工したプログラム入りの 偽造SIMカードなんていう
何とも微妙な代物を取引していた連中がいるとも知らず、
スマホでお互いを撮影していた無邪気な女子高生のお嬢さんたちが
それは無警戒なままキャッキャと歩み寄って来ており。
怪しい輩の姿まで映り込んでしまったスナップを何枚か撮ってしまったの、
放置は出来ぬとした連中が引っ捕まえてスマホを取り上げんとしたことから始まった騒動なのだが。

  ……特殊警棒やポールの長柄をちゃんと携帯していた辺り、
  本当にうっかりの無警戒かどうかは怪しいものである。(う〜ん)

しかもしかも、

 「おっとぉ。」
 「あらぁ、ごめんあそばせvv」

そこはさすがに可憐な女子高生たち。
こんなおっかない乱闘になって動転し、前後見ないで逃げ回っているからか、
ついうっかりと相手の待ち受ける方へ駆け出してしまい。
きゃぁあ怖いとしゃにむにぶん回した長いポールの先が、
相手の荷物、よれたバッグに触れてしまって、
裂けちゃったところから、中に入ってた
何だかよく判らない白いチップみたいなのがざらざらざらッとこぼれてしまったり。
背広姿の人ほどマスクなんぞしていたの、

 「わあ、こわいい。」

怖いなのか、もしかして乾かした米飯の“こわ飯”なのか、
どう聞いても棒読みの声を上げた金髪綿毛のお嬢さんが、
やはり当てずっぽうに振った警棒の切っ先で
そのマスクを跳ね飛ばしてしまう妙技をたまたま見せて差し上げたりと。
見る人が見れば、白々しいまでの何やかんや満載な鬼ごっこを繰り広げること、
2,30分もあったかどうか。
ふっとお嬢様がたが逃げ回るのをやめ、
ひとところへ背中合わせに集まって、

 「怖ぁい。」
 「何なさるの。」
 「たすけてー。」

急に大人しい構えを取り始める。
さすがに状況が飲み込めて怖くなったか、それとも観念したものか、
どっちにしても
こんなイレギュラーな出来事からとっとと立ち去りたかった面々にすれば
ホッと胸を撫で下ろせた按配であり。

 「やれやれだぜ、エイジ、カード集めな。」
 「へい。」
 「どうしやす、こいつら。」
 「スマホだけ取り上げて放っておけ。」
 「そうさな、こんな時間にうろうろしてんだ、どうせdqnな連中だろうさ。」

お、兄貴 dqnなんてよく知ってましたね。
そのっくらい知ってらぁ、などと、
お気楽な言い合いを交わす顔ぶれの部下だろう、作業着の一人がお嬢さんたちへ近寄ってゆき、

 「ほれ、スマホ貸しな。」

武骨な手を伸べたれど。
そんな彼の後背に音も無く立った別の影ありて。

 「きぃ〜さぁ〜まぁ〜。
  三木コンツェルンの令嬢になぁんて態度だ、覚悟はいいか。」

 「へ?」

覚えのない良いお声へ、はい?と振り返った視野の中、
やはり覚えのないイケメンが立っていて。
やや明るい髪色のくせっ毛を小粋に流した髪型も決まってる、
どこかの劇団の役者のような御仁が、それは鮮やかに手刀を振るって作業着男を薙ぎ払い、
ずでんどうと倒れたのには見向きもしないで、

 「ヒサコお嬢様、お怪我は?」
 「……。(否、否)」
 「それは ようございました。」

白々しいまでのお嬢様と従者というやり取りを、ぽかんと見やる他の輩ども。
ハッとし何だ何だ手前はよと言いかかった残りの面々には、

 「一体何の騒ぎかな、君たち。」
 「は…っ。」

早朝ゆえかサイレン無しで駆け付けたらしいパトカーが数台と、
それで駆け付けたらしい制服組の警官数名。
そんな面々を従えて、スーツ姿の刑事が鋭い目許のまま声をかけて来、
怪しい取引中だった男らはあっさりお縄と相成ったのでありました。




  そしてそして


一応は調書取らないとねぇと
パトカーに乗るよう促されたお嬢様がた。

 「あ。」
 「…っ!」
 「ひゃあっ。」

今回は時間的な余裕があったというか、
彼女らより先んじて警察への通報をしたらしい佐伯さんが
ついでに保護者連にも朝っぱらからのメール爆撃を投下したらしく。
(lineへのスタ爆したらしい…。)
警視庁の敏腕警部補や、某女子高の校医さんや、甘味処の店主様が、
先に乗って待ち受けていた車内だったらしく。
危険な大騒ぎの顛末、
まずは保護者の皆様から問い詰められる運びになったようでございます。





   〜Fine〜  19.02.13.





 *聖バレンタインデーのお話のはずだったんですけどねぇ。(どこがや)
  このお嬢さんたち、一体どういうアンテナ張っているものか、
  もしかして厄介ごとが寄ってくるホイホイ体質なのか、
  警視庁管内の研究施設でいっぺん調べた方がいいのかも知れません。(そんなバナナ…)





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