ワケあり Extra 6

□紫陽花のような…
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日本の雨季とさえ称されている梅雨ではあるが、
年によって地域によって、空振りならぬ空梅雨となる場合もあり。
しとしとと朝から降り続くよな雨催いはあんまり嬉しいお日和じゃあないけれど
そうかといって全く降らぬまま夏になってもそれはそれでちと困る。
それでなくとも昨今の夏の暑さは一方ならぬ代物、暴虐としか呼べない酷暑が多く。
ゲリラ豪雨とやらいう災害級の雨が降らないでもないけれど、
一極集中で限られたところにだけ
1日2日勢い良く降るという極端な雨では作物への恵みにはならぬ。
災害にあった地域は大変な生活を強いられるし、
それ以外の地でも秋の実りが危ぶまれ。
夏も夏で水が足りない地域が続出し、
プールや噴水なんてもってのほかと、暑いのにそれを鎮める娯楽にも封をされ、
食中毒の懸念も増してと、

 「適度に降るのって大切なんですねぇ。」
 「なんて言いましたっけ、ほらあれ。」
 「五風十雨。」

わあ、さすがです久蔵殿と、七郎次から軽くハグをされ、
杏の匂いのするおっ母様の懐ろに頬を付けちょっと赤くなってるところがまた可愛い。
ちなみに、この“五風十雨”というのは、世の中が平穏無事であるたとえ。
五日ごとに風が吹き、十日ごとに雨が降る意から、
気候が穏やかで順調なことで 豊作の兆しとされる言い回しなのを、
平和だねぇなんて折の枕詞なんかに使われており、
ウチの別のお部屋のタイトルに使っている「千紫万紅、柳緑花紅」みたいなもの。
雨や風は過ぎると厄介だが、全く無くても問題で、適度にやって来るのが丁度いい。

 「そうそう、」

ふと、何やら思い起こしたものか、
懐の金の綿毛頭へ思う存分頬擦りしつつ、白百合さんが顔を上げ、
何かしらを言い出す前にまず自分でちょっと吹き出しつつ、。

「私たちが随分と大人しいこと、佐伯さんが落ち着けないらしくって。」
「はいぃ?」

 勘兵衛さまが呆れてるみたい。何もないのだな?ってわざわざメールしてこられてね。
 何ですか、そりゃあ。

日頃、何でもないことを怪しんでは首を突っ込み、
結果として、不良高校生…今で言う半グレどもの悪さや嫌がらせから、
地回りの企み、どっかの反社会組織の取り引きに至るような大事へまで、
半端じゃあない大暴れをしでかすお嬢様がたであるがため。
身内で、しかも警察関係者なればこそ、
出来るだけ穏便に処理してやろうと その発端からを警戒しているのは判らんでもないけれど。
何もしてなくても落ち着けないとはねぇと、
七郎次は笑っているが、平八は呆れたし、久蔵は むむうとやや膨れておいで。

 たまには危ない相手だったりもしますけど、
 警察に行っても
 その程度じゃあねとか言われたり、友達同士の揉めごと扱いされるから
 判った、じゃあ自力更生しようじゃないかって流れなんですのにね、と

ひなげしさんが憤慨し、紅ばらさんがそうだそうだと頷くのへ、

 「まあまあ、
  そんなにご希望なら何かやらかしましょうかって、言ったげときましたから。」

ふふーとほんわか笑った白百合さんなの見上げつつ、

 “結婚屋が 紫陽花みたいなお嬢さん方だと言ってたが…。”

ああそっか、そういう意味かと、今頃気付いた ヒサコ様こと久蔵さんだったりする。
今時分に瑞々しい緑の葉と共に柔らかい瓊花をたわわに咲かせる紫陽花が
見た目ほど可憐な花ではないことは、
くうと鬼ごっこする傍らで、庭師のおじさんたちから蘊蓄を聞いていて知っている。
花とされているのは実は額、花はその中心の小さな粒の方だとか、
色が変わる特性から“七変化”という花言葉があることや、
土の性質(ph)で色の変化が赤か青か違ってくる。
イマドキはそういうのが関係ない品種もあるらしい…という一般的なネタは勿論のこと。
実は葉に毒性があるので悪食とされる山羊でさえ遠慮することや、
冬枯れするが、根はしぶとく初夏にはするすると復活するほど逞しく、
なのでか、線路の のり面へ植えられることが多いなんてこと、
ちゃんと知ってたヒサコ様。

 「あじさい。」
 「え? 何のことですか? 久蔵殿」
 「私たちがしっとり華やかだって意味ですか?」

教室の窓際、そよぐ風にたわむカーテンに載せて、
結構お気楽にフフフと微笑い合う、年齢相応な少女らの声がそよいだ、
とある雨上がりの昼下がりだった。



   〜Fine〜  19.06.25.





 *関西地方はまだ梅雨入りしてません。
  たまに1日降るものの、翌日は晴れるので蒸し暑いばかりです。
  水不足とかごめんですよ。
  須磨の海が近いとはいえ、小さい子いるのでプールにも行きたがるだろうしさ。





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