ワケあり Extra 6

□夏が始まるよvv
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なかなか梅雨入りしないと、蒸し暑さへ不平を垂れ流しておれば、
一転して今度は雨雨雨の日々だった関東にもようやっと夏らしいお日和が

 「ぬぁんて暢気な言いようでは追っつかないですが。」
 「ホント。
  大川の花火大会の開催が危ぶまれてたのは どういう冗談だったやらですわよね。」

肩越しに振り返った片山家の中庭には、フヨウアオイの茂みがお元気に繁茂中。
頭上には軒に吊るされたガラスの風鈴が、今は風がないせいでか ちょっぴり力ない顔でいるばかり。
一学期の期末考査も終え、
夏の3連休は あんまりお天気には恵まれない中、
日傘や夏の装いのお買い物と、ついでにバカンスの予定を立てることへ費やして。
日本へ近づいてから台風に化けた大嵐も微妙に他人ごとのように眺めやり、
ミッション系女学校ならではの催し、終業式のミサへと出席してののち、
学園の最寄り駅の手前に位置するひなげしさんの下宿先、八百萬屋に寄り道中。

 「今年のインターハイは南部九州開催だそうですが、」
 「剣道は熊本会場だそうですよ。」

 じゃあくまモンがお出迎えしてくれたりして?
 あ、写真撮ってきてほしいvv

一応は女子高生なのでと、ほんわかした話題を取り上げてから、

 「ああでも、この夏もさほど落ち着いてはいられないのでしょうね。」
 「そうでしょうねぇ。」
 「……。(頷)」

涼やかなグラスにそそがれたアイスティーを ストローで氷ごとくるくると掻き回し、
はぁあと遣る瀬無い溜息をつく三華様がた。
勘違いしないでいただきたいのが、
間違っても “騒動が私たちを呼んでいる”という格好で
緊急事態が降って来るに違いない…とかいう方向での言ではない。
彼女らだとて学習はする。
多少ほど腕が立つからと言って
刃物構えた存在へ突っ込むというような危ない真似を、十代の婦女子がするものじゃあない。
ましてや、その後ろに隠れていた半グレの集まりによる言語道断な恐喝騒動の存在とか、
もっと厄介だろう怪しい集団による非合法取引とか、余計な騒ぎへ首を突っ込むから叱られるのであり、

 「……だから反省してますってば。」
 「他の子が手を出そうというなら無茶しちゃいかんって止めてますって。」
 「??」

もしもし久蔵殿ぉと、
ひとり小首をかしげる紅ばらさんへ“おいおいおい”というツッコミを入れてから、

 「そういう要らんことをするから、
  せっかく二人きりになれても叱られてからって順番になっているのですし。」
 「シチさんは特に切実ですよね。」
 「…☆」

白百合さんとひなげしさんの言いようへ
やっとのこと合点がいったか 金髪綿毛のお嬢様がぽんと手を打つが、
でもでもと その愛らしい小顔がかっくりこと傾いたのは、

 「ええ、ええ。先週の花火大会ではお会い出来ましたよ。////////」

平仄が合わないから自分もピンと来なかった久蔵殿だったのへ、
謝りついでにそうとこぼした七郎次。
途端に、今度は平八が小首をかしげてしまい、

 「あ、それアタシ知らなかった。久蔵殿は知ってたの?」
 「結婚屋が…。」

そっかぁ丹羽さんから訊いたのか。
というか、佐伯さんは何も言ってなかったけどな、ウチの屋台にも見回りに来たけど。
シチさんと久蔵殿のお手伝いの時間をさりげなく調べに来てたのかな、あれ。

 「…そうかもしれない。////////」

応じるお声が紅ばらさんから出ないので独り言みたいになってしまった
ひなげしさんの推理めいた言い回しへ、
やや真っ赤になった白百合さんが“申し訳ない”とばかりに こそりと応じる。
大川の花火大会というと
お盆の後に川沿いの市街地である大町主催のが随分と昔からのものとしてあるのだが、
それより前になろう七月中にも、別の商店街主催のが近年になって始まっていて。
協賛してくれる人募集という段階で 八百萬屋の五郎兵衛も快く援助に参加しただけじゃなく、
当日の川辺に休憩所が発展したものという感じで甘味処の出店も出している。
看板娘として平八が手伝うという話を聞き、
ならばと七郎次も久蔵も、浴衣姿で数時間ほどお手伝いするのが もはや恒例となっていて、
今や看板娘扱いでもあるのだが。
至って健全なファミリー向けの催しで、
酒に酔って大声出したり羽目を外すような輩が 全くの全然出ないわけでもないけれど、
微妙にどこの派遣か聞きたくなるよな黒服さんも入り混じる“自警団”の皆様に片っ端から排除されており、
お嬢様がそういう場で お運びさんをしていても問題なく務まっている。

 『あの警護の方々って三木さんちの…?』
 『〜〜〜。(頷)』
 『だけじゃないらしいでげすよ。』

孫可愛やで福耳の麻呂様が直属の優秀なガードマンさんたちを配備しているらしいその上、
ヘイさんの顔つなぎで ○○大学の研究員の方々も混ざってるそうだし、
ウチの父様の知り合いの武道家の方々も
若い人を募って駆り出されているとか聞いてますし…とは白百合さんの付け足しで。

 「アタシたち、結構 過保護されていたんですねぇ。」
 「知らぬは本人たちばかり、だったんでしょうかねぇ。」

ちょっと正義感が強かっただけ、
困ってる人に手を伸べてみただけ、
大事な知己への横暴へ黙ってられなくなっただけなのにねぇと。
自分体には大した非はないように言ってのけ、ねえと相槌打ちあってから、

 「でもまあ、浴衣姿のシチさんを堪能できて、
  警部補殿も満足なされたんじゃあvv」

ここ数日はさすがに 何って騒ぎを起こしちゃいないし、
勿論のこと、当日もと。
平穏安寧な私たちなのだから、叱られちゃあいないのでしょう?と
ひなげしさんが話をまとめようとしたけれど、

 「何の。あの人たちは、
  水着なんて軽快且つ みだらな格好でアタシたちが暴れるより
  不慣れで不自由な浴衣姿の方がましだろうって思ってるだけですよ」

この夏の水着を買いそろえてた話もどこからか聞きつけてたみたいですしなんて、
ちょっとむっかり来たからか、余計な話をちょろりとこぼした白百合さん。

 え? 水着の話なんてしたんですか?
 島田、許さん#
 あ、いやあのその、今年の流行はというのをこっちから言い出しちゃっただけで…っ。

恋するヲトメたちのきゃっきゃとはしゃぐ声に圧されたか、
軒先の風鈴がひらんと短冊揺らして、かすかにちりんと鳴った昼下がりでした。




   〜Fine〜  19.07.31.





 *明日から8月なんですね。
  早い…というか、いろいろと目巡るしい7月だったなぁ。
  なかなか梅雨入りしないねぇとか言ってたはずが豪雨になりのしてたその上、
  これでもかと次々に事故や事件も勃発で、
  土曜の丑の日の話題なんて超特急で通過していきましたものね。
  ウナギが高値だって話より、
  出自の怪しいのが市場に出回ってて
  出荷と売れたのとの計算が合わなかったの放置してた責任者出て来いという話が
  今更取り沙汰されてたのに呆れましたよ。
  某K国が輸出優遇取り消されたのへ 微妙に斜めないちゃもんつけてる現状を笑えない。
  (例えが三段跳びしていてすいません。)





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