ワケあり Extra 6

□小さい○○、 見ぃつけた♪
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びこんっと独特な音がして、ラインへの着信を知らせる。
動きやすいようにと機能性繊維製のジャージを着ていた身、
パンツのポケットから掴み出したスマホの液晶画面には、
やけに細長いマンガの吹き出しみたいなメッセージが幾つも連なっており、

 【今どこ?】

短い一文へ、だが返事を打ち込まずにモバイル自体をシャカシャカ振ったところ、

 【判った、すぐ行くね。】

事情が全く分からぬ人には、
何で判るのだとか、どういう冗談だとか思われそうな一コマで。
事情が分かる人ならならで、
彼女らの “以心伝心”は遂にそこまで至ったかと驚かれたかもしれない。
何のことはない、GPS機能をちょちょいといじった特別なアプリが入っており、
声を立ててはヤバいような場面などで、そんな所作一つで “伝言”できるようになってるだけ。
どういう論理かは知らないし、さすがに居場所検索機能は半径1キロ以内限定なので、
ごくごくと範囲を限った鬼ごっこにしか使えない。
とはいえ、3次元仕様で何階の何処にいるかまで伝えられるし、
独自の短波仕様なため、登録してある同士以外には逆探は不可能。
ちなみに、着信音も外へは洩れておらず、
耳元近くへ留めたヘアピン型のインカムで聞けるようになっている。
綿毛のように軽やかな金髪頭のお嬢さん、
ちょっぴり雑然と散らかっている資料室の一角で、
壁に背を預けての床座りになりお迎えが来るのをじっと待つ。
明かりは当然灯していない暗闇の中だが、別段恐怖は感じない。
むしろ感覚が研ぎ澄まされていて、
相変わらずな鉄面皮からは判りづらいがこれでも意気も上がっているほどだ。

 『サバイバルゲームのBB弾が一番手っ取り早いんですけどね。』

本来のゲームでは当たったかどうかは自己申告制ではありますが、
何の、フェンシングの装備みたいに当たったことを感知するシステムをゼッケンに仕込んで、
そこへ当たったらランプがつくとかいくらでも工夫出来る、と。
結構あちこち移動するだろう対象全部への探知機能として、
そんな高度なものを、自前で配備できるとあっさり言ってしまうひなげしさんが、

 『でも、それを持ち出したとて こっちの手勢が断然不利だってのがねぇ。』

特殊警棒にステンレスポールを長いこと得物にしてきた久蔵と七郎次だけに、
そういう近接型の戦闘以外は苦手で、
何か飛んでくる気配は神がかりな感知力で察知できるそうだが、(それもどうかと…)
いかんせん、複雑なシステムは排除されたエアガンであれ扱ったことがなさ過ぎて、
こっちからの攻撃がほぼ素人同然。
操作の手際も命中率も恐らくは最悪になるのがようよう判るために却下となった。
人並外れた動きでもって脾腹を衝いたりとっとと人事不省にしちゃあいるが、
相手からだって手が届くほどの接近戦。
苦し紛れに掴みかかられたらどうすんのという方向で、危険な仕儀には違いない。
遠く離れた位置から当てられよう銃撃戦、
多少は遠慮した威力に設定した小さなBB弾が当たる方が衝撃も消耗も少ないんですがねぇと、
いかにも残念そうに言いつつも、
今のお転婆の下敷きになっているのが、
かつての生を受けていた修羅場にて その手に握った刀でのやっとおで生きてきたその名残り。
元はサムライだったが故の感覚大事としてきたのだという事情もようよう知っているので
平八もそちらはあっさりと却下したのであり。

 『まあ、そもそも女子高生相手に、
  しかも交際権なんてふしだらな条件で勝負を仕掛けてきた阿呆どもなんですから、
  思いっきりぶちのめしてやってもいい話ではありますが。』

ネット上で女学園のお嬢様に絡んできていた馬鹿がいて、
だがだが こっちも世間知らずが災いし、
うっかりとお友達感覚で逢いに行ってしまった一年生がいたのへの助け舟。
別に恥ずかしい写メを撮られただの、蓮っ葉な言動という証拠を掴まれたわけでもないながら、
強く出られて何度も呼び出され、二進も三進もいかなくなったらしいのへ、

 『そんなお馬鹿、相手にするんじゃありません。』

まずは後輩さんをすっぱり叱ってから、代理として呼び出しの場へと向かい、
終業後のとある事務所を舞台にした風変わりなバトルと相成っている。
相手はまだ若い男で大学生らしくって、
金をせびりたいんじゃあない、あくまでも育ちの良いお嬢さんと遊んでいたいだけと言い、
これまでにもスマホでのゲームで対戦したりして勝ったらまた会ってと持ち掛け、
ズルズルとお付き合いを引き延ばしてたらしく。
何だ、まだ下衆な要求される前だったかと胸をなでおろしつつ、
じゃあ、あの子の代わりにアタシらが相手しようと言い出せば、
向こうさんもお仲間を呼び出してのさて、鬼ごっこと行こうじゃないかなんて言い出した。
知り合いの作業所兼 事務所を足場に、
こっちは君らを捕まえたら勝ち、そっちは逃げ切ればいい。
逃げ切ったら写メとか消去してもう関わらない…なんて言ってたが、
出入り口は全部施錠されているし、窓にはどこぞかのセコム特製、音の出るセンサー付き。
逃がす気がないのは判ってたけど、
こうまで徹底していて、しかも
相手の陣営が最初の顔合わせの場に居た 四,五人どころじゃないのも判っており。

 “こういう手筈になってたとはね。”

現状は違ったが、本来なら たった一人の女の子相手に此処までやるつもりだったとはなぁと呆れつつ、

 “もうすでに半分は叩きのめしたけどね。”

紅ばらさんの待つ資料室を前に、
白百合さんが 形のいい口許をくすすとほころばせる。
ひなげしさんが赤外線スキャンなどなどで探知した位置情報をもとに、
20人ちょいいたのを地道に削って開始十数分で半分にした。
明かり無しの屋内の暗さはそのまま隠れ蓑になってくれるので、
物陰にひそむ必要もないと思っているのだろ
自分たちはペンライトや何やを手にしていて何処にいるのか判りやすい面々を
最後尾から順番に
足を出してつまずかせたり引き寄せてはガツンと殴り倒して狩ってゆくだけ。

 “なんか必殺シリーズを彷彿とさせてるよねぇ。”

…幾つですか白百合さん。再放送ですか?ほんとかなぁ。
声出しちゃいけないからって、口許押さえて うくくと笑う無邪気さがなんか罪だなぁ。
怒号や悲鳴を出させては残りの面子に気づかれるので、(何に? 実は手ごわいことに?)
此処までは瞬殺仕様で各個撃破で詰めたけど、
残りは時短だ一気に墜とすぞと、各所に散ってた3人が一か所へ集まることにした模様。
相手がやらかしてる施錠を逆手にとって、
あちこちの非常用のドアやシャッターを社内独立系のインフラネット操作で順次勝手に降ろしており。
無人なはずなのにそんなことが起きていることへも、飛び上がって震えてる顔ぶれがいるようで。

 何だ何だ、誰か社員とか いんのか?だの、
 まさか幽霊が…とか、
 やめろよそういうの、無責任だぞいや俺は怖くなんかないけどな…とか、

何か妙な方向へ揉めているのを盗聴器に拾わせたひなげしさんが
うっかり吹き出しそうになっては頑張ってこらえているくらいだから、
このままチェックメイトという感ですが。
特別仕様の暗視ゴーグル越しなので視界もスッキリというお嬢さん方、
無事に合流したそのまま、タブレットで残党の所在地を確かめて。
シャッターを降ろしたり窓のセンサーをわざとに作動させて鳴らしたり、
そうやって足止めと確認に行かせることを重ねての
相手を一か所へと集めつつある手綱さばきもお見事で。

 では、仕上げと参りましょうかと

それぞれの得物を手に手に視線を見合わせ、深々と頷き合う。
夜中の運動会もほどほどにね。
怪我しないようにね。
相手を舐めちゃあいない、そこはホント。だってだって。

 こんな連中よりも、
 後で出てこよう お叱り役の大人たちの方が面倒だしおっかない。× 3




   〜Fine〜  19.11.05.





 *夜更けにサバゲ―です、お嬢様がた。(違)
  相変わらずですよ、三華様がたったら。
  いくら嫁入り先は固定枠になってるとはいえ、
  はしたない真似はそろそろ控えた方が…。(そういうレベルじゃあない?) 笑





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