ワケあり Extra 6

□秋に一閃
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暦の上では…なんて言い方は、春先によく使われている気がする。
早く来い来いと思うからか、
待ち遠しい季節なんだろうなというのがそこはかとなく滲み出していて、
いっそ微笑ましくもあるのだけれど。
それに反して気づかぬうちうちにやって来て慌てさせられるのが秋で、
夏休みが終わっても残暑は厳しかったりするものの、
ああそれでも草むらから虫の声がしているよ、
そういやいつの間にかセミの声はしなくなったねなんて気が付くもので。
夕方になるのが早くなり、あれ、もう暗いんだねと昼間との気温差にぶるると震えたり、
廻りを見回せば、葉が色づくのはさすがにまだだが、
どこからか金木犀のあのはなやかで甘い香りがしてきたり。

 「そうそう、あのいい匂いがすると衣替えなんですよね。」
 「暖かいものが恋しくなるのも秋の兆しですよね。」

おでんは夏場からありますが、
シチューや具沢山スープのCMが始まりますし、
あ、そういえば前倒しの極みでハロウィンのあれやこれやでも賑わいますよね。
極みはやっぱりお節料理の予約でしょう、クリスマスケーキより先なんですもの。

  ……なんて

暢気な会話で始まるとロクな展開じゃあない。
とんでも背景を負いつつ、それでもお暢気というのが定番になりつつあるこのお話で。(おいおい)



今時は其処も男女雇用機会均等法に準じて、もとえ、
男女差というか振り分けみたいなものがボーダーレス化しつつあるものか、
それとも、ただ単に女性が強くなってきただけなのか。
男衆の偉そうなのが 単なる空威張りばっかでモラハラっぽかったり見えてしまうのは、
もーりんがネットの書き込みものばっか読んでいるからだろか。
(そうかもしれない…)
物々しいまでの武装というか、そこいらにあったものだろう廃材の角材やら塩ビパイプの切れ端やらを手に手に、
やられたらやり返すぞ、倍返しじゃあとばかり、半分ほどやけくそ気味に立ち向かって来る馬鹿どもに
やれやれと得物のステンレスのポールを手に呆れていた白百合さんだったが、

 「総員退避、総員退避っ!!
  シチさん、渡しといた防塵マスクとゴーグルの用意はいいですか?」
 「えええっっ。なになに?」

そっちは後背から不意に沸き立った大声にギョッとし、何だ何だと振り返れば。
今回の大暴れの現場は、
日没が早くなったけど人通りの少ない物騒なところはないかい?との見回りの延長戦で
ちょっと遠出して見つけていたシャッター商店街の慣れの果て。
ほぼ無人状態らしい通りの天蓋として
ところどころに空いた穴からやや暮れなずむ空が覗いていたそれ、
古びたアーケードが“ぱぁッ”と得も言われぬ光りようをしたかと思ったら、
ぴきぱきと硬質な音を立て、その上にいつの間にか駆け上がってたらしい、
お仲間の紅ばらさんが仁王立ちしたのを乗っけたまんまで支柱ごと崩れてくる様相じゃあありませんか。

 「久蔵殿、超振動使いましたね。」
 「らしいです。」

自身の体内のチャクラとかいう体螺旋を練り上げて生み出す振動波を
得物にまとわせ、えいやっと振るえば、
無機質に限り、分子レベルで粉砕してしまう恐ろしい大技で。
なので人に向かって仕掛けても、
機械の体でもない限りはさほど…バックルとか弾け飛ぶかもという程度なのだが、
鉄骨やコンクリを容赦なくのここまで粉砕するのはなかなかに派手だろう。

 そういや某 水かけたら女の子になっちゃうるーみっくマンガに、
 獅子咆哮弾ってのが出て来ましたよね。
 ネタバレになっちゃうけど
 途轍もない威力でありながら あれも無機物にしか効かないんじゃあなかったか。

 アタシは某 けものの槍が人には効かなくて突いても切っても通り抜けるって設定が、
 でもボカンと殴れはするから 徹底されてないぞ フジタせんせえとか思ったもんですが。

そうこう語らい合いながら、それでも駆け出す足は止まってない。
大慌てで逃げてくる有象無象のチンピラ予備軍を掻き分けるよに逆行して突き進む。
ブルジョア学校に通うおしとやかなお嬢様たちだと勝手に決めつけて、
小遣いくれねぇ?と絡んで来たのを、
こちとら体育祭の準備で奔走していて忙しいんじゃ、
今も買い出しに来たところなんだよ、邪魔すんじゃねと、
あんまり分厚くはないオブラートに包んで言い返しつつあしらったら、
顔を潰されたのどうのと食って掛かってきた。
いやいやそれは元からじゃないのほほほvvと笑ってやって煽ったのがまずかったか、
んだと手前と肩を掴まれたのが七郎次さんだったのへ紅ばらさんが一気に爆発。
ざっとそれは素早く足を擦ってすべり込ませ、パンッと其奴の足を払ってすっころばし、
ひなげしさんが静電気発生器でさりげなく突いて手を離させたあったので、ものの見事に一人でこけた。
そんな対処の見事さと、お買い物に出て来たらしい誰かの人声に居たたまれなくなったか、
覚えてろというお決まりの捨て台詞吐いて逃げたそのまま諦めればよかったものを。
お買い物済ませたところへ自転車で強襲を仕掛け、その荷をかっぱらって逃げたものだから、
今度はお嬢さん方が“容赦しませんことよ”と燃えてしまったようで。
それで巧妙に誘い込むように追い込みをかけて、
周囲への被害は出まいと選んだ喧嘩場、もとえ戦場だったのだが、
奔放にふるまえるという“制約なし”が ちょっとばかし思わぬ方向へ向かったようで。

 「久蔵殿っ。」

与太者らが繰り出す安物の塩ビパイプやベルトへのアクセサリーのチェーンなんぞ、
丁々発止と弾き飛ばしたり蹴飛ばしたり、それは余裕で薙ぎ倒していたのだが、
思いの外、頭数が集まっていたので、下手を打つと日が暮れる。
いっしょに居残りしているお友達が学園で案じてないかと思ったものか
一気に片を付けようと思ったらしい紅ばらさん。
どういう足がかりを伝って登ったやら、
古びてはいたがさほど傷んではなかったはずのそれへ、奥の手の一閃をかましたらしく。
今やぐらんぐらんになってるアーケードの鉄骨の上で、
絶妙にバランスとって立っておいでの女丈夫さんへ向けて、
ひなげしさんが胸元に構えたのは、
がっちりした作りのかなり大きめのスリングショット。
フォールディングファルコンなんて呼ばれている大型のそれで、
籠手のようなバンドを手首に巻き、
そこへグリップ部分から伸びるリストロックと呼ばれる補助具で固定。
鷹の翼みたいなウィング部分に固定されたゴムをぐぐうんと引いて引いて、
照準を絞ってから、えいやと手を離すまでの一通りの所作事がなかなか決まっており、

 「ヘイさんたら、結構練習してましたね。」

白百合さんが“このこのぉ”とちょっとからかい半分に肘でつついて煽れば、
ふふんとわざとらしくお鼻をそびやかして乗ってくれるところが可愛い。

 「だって、乱闘となると久蔵殿とシチさんにお任せになっちゃうじゃないですか。」

でも、運動神経で及ばないのはようよう判っているしと、
あれこれ武装を調べていて、ああこれってって思い出したというかなんて。
微妙に口調を濁らせたのは、かつての“昔”に弓であれこれ対処したことを言いたい彼女なんだろう。
そんな彼女が高みに居るお友達へと飛ばしたのは、滑車付きの頑丈なザイル。
登山用のかなり丈夫なしかも長いロープを、
先に小さめのルアーをつけて飛ばしたらしく。
こっちの意図を拾ったか、はっしと受け止めたそれの端、
あちこち見回して街路灯の首根っこに放り投げての振り子の原理で巻き付けると、
そちらを基点にそぉれっと、飛び降りてしまう身の軽さと大胆さよ。
ジャングルの王者か仮面の忍者か、
何の今ドキならプリキュアとか超電磁砲とか、
女の子でもこのくらいの活劇はこなしているよという例えを出してる暇間もない迅速さ。
セーラー服のプリーツスカートひるがえし、
あっという間に、怯みもせぬまま颯爽と飛び降りて来たお嬢さんで。

 「……で? 衣替え済んだばっかりの制服、
  砂ぼこりまみれにした言い訳は自分で考えるんでしょうね。」

 「おおう。」
 「あ、丹羽さんだ。」
 「結婚屋。」

そちらさんもまた、いつの間に嗅ぎつけていたのやら、
最寄りの警察かそれともお知り合いの機動隊か、
勇ましい制服姿の一団が逃げ惑うチンピラどもを片っ端からとっ捕まえておいでなのを背景に、
しょっぱそうなお顔でお嬢様がたの前へと進み出たのが、
今日は佐伯刑事ではなくの、
三木さんちのお庭番ことトラブルシューターの丹羽良親さんだったりし。
結構こじゃれたデザインのスーツ姿だが、
自前の足でも駆け回ったかくせっ毛を掻き乱しての相当にお疲れの体であり。

 「澄まして見せても無駄ですよ、ヒサコ様。
  兵庫さんにお説教してもらいますからね。」

 「〜〜〜〜。」

相変わらずな三華様がた。
勿論のこと、後の二人の“保護者”へも連絡は飛んでおり、
秋の夜長に 月見ならぬ説教の長講となりそうだそうです。


   〜Fine〜  20.10.03.





 *ヘイさんの武器が
  いつも静電気の電撃とか化学薬品のスライムとかなんで、ちょっと工夫を凝らしてみました。
  余計なことをと、大人組から睨まれそうですな。(苦笑)





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