ワケあり Extra 6

□スィートな冬休みvv
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何だかんだで暦も師走。
今年は例年にはない要素が で〜んと鎮座ましましているがため、
クリスマスだのイルミネーションだのという街の催しは ずんと控えめ。

 「それでも出掛ける人は絶えないようですけれど。」
 「ですよねぇ。
  街角で “人出、減ったと思いますか?”なんてインタビューする方も方だし、
  “そうですね、先月より増えてるかも?”なんて答えてるお嬢さんもどうかしてる。」

比較できるほど頻繁に街歩きしてますって言ってるようなもんだもんね。
そして、そんな酷評を下しているのが、こちらもまた女子高生だというのが

 まあ、ウチのお話ではデフォルトでしょうか。(笑)

不要不急の外出は避けましょうというのは、何も宵のお出掛けに限った話じゃあなくて。
そういや大売出しの声もあまり聞かないねぇとは、
下宿先の“八百萬屋”のお運びを時々手伝っているひなげしさんからの情報で。
この時期は何かと、ご挨拶やら帰省の準備やら、
年をまたぐにあたっての色々が山のように押し寄せるもの。
一年の締めくくりとなるお片付けの大掃除と、
浮かれたまんま にぎやかに弾けたいクリスマス。
会社務めの人なら決算と納会などなど、ウチに外にと忙しく。
日本のあれこれは“四月始まり”だとはいえ、それでも年度末の決算期じゃああるし、
商社も工場も問屋も一気一斉に休みに入る“仕事納め”を前にあれもこれも片づけにゃあならない。
最近はコンビニやスーパーマーケットなど 元旦から営業しているところも珍しくなかったが、
今回ばかりはそれも怪しく。
昭和の時代よろしく、食料から嗜好品まで 色々と買いだめしておかないとという現状。
学業も同じで、期末の試験があるにはあるが、高校などではそっちはとうに終えており。
終業式を兼ねたクリスマスのミサも、今年は取りやめとなりそうな流れ。
だからといって、じゃあ旅行に出られる状況でもなくアルバイトもまずは無理という冬休み。
ひなげしさんの住まいでもある、五郎兵衛さん経営の“八百萬屋”も、
懇意にしているご贔屓筋の方々がどうしてもと押し切って、
貸し切りでの懇親会というのが2,3予約されかかったらしいのだが、
店を提供するのは時勢からして不味かろうとご自身らでも思い至ったらしく、
結果、料理を配達するデリバリ形式となったとか。

 「まあ、こういう時流ですから、遊び回るのは言語道断ってのもようよう判りますしね。」

普通一般の女子高生だったなら、
理屈は判ってもやっぱりちょっと、何か詰まんないなぁと感じるところだろう。
そんな結果、冒頭に挙げたよな、自分くらい出掛けたって大勢に響くはずは無しなんて
大人数がそれ構えたらどうすんの的な屁理屈で出歩きかねないわけだけど。
こちらの三華様がた、さすがは両家の子女が集う女学園の顔だから…というよりも、
記憶の残る“前世”では戦時下を生きたお侍様だったせいか、
我慢というより諦念に縁が深く。
こういうこともあらぁなと あっさり受け入れてしまえる性分も持ち合わせておいで。
自分の矜持に関係なく、よく判らん上司の見栄や面子とやらに振り回されるのも日常だったし、
様々な権謀術数のお先棒担ぎも同然な意義の薄い戦にも どれほど担ぎ出されていたことか。
ご本人は安全な場所にふんぞり返り、大して秀でてもない戦を始めては、
自分や仲間の命をざるで掬って勘定し、勝った負けたと勝手を言うよな上司もザラだったし、
それへ物申すこともしないまま、だがだが結構胸のすくよな采配振るう
“負け戦の軍師”だった勘兵衛と共に過ごして、
波乱に満ちてた生を結べたのこそ吉だったと思うような人生だったせいか。
七郎次のみならず、平八も久蔵も、
自分たちもまたイマドキの若いものなくせに、
浅慮なそれをやれやれと肩をすくめて苦笑するよなノリで、二度目の人生を堪能中。

 「とはいえ、何もしないでいたわけじゃあありませんよ?」
 「そうそう。」
 「♪♪」

おおう。幕外の声が聞こえたか、さぞかし無味乾燥した師走をお過ごし…と並べ掛かってたところへ
彼女らご本人からの“物申す”の槍が突き立った。
さすがは活発なお嬢様がた、一体何をなさっていたの?

 「焼き芋の屋台を引っ張るのはさすがにいつぞや叱られたので。」

ああ、そういう冬休みのお話もしましたねぇ。
(忠臣蔵のコスプレはこっちが先ですが。『年の瀬の晩です』)
それでもこの時期に引っ張りだこな季節の美味は看過できなんだか、

「久蔵殿は有名どころのパティスリーの知り合いが多くって。」
「シチも土地付きの親戚が。」(元華族様なせいか、係累に地主が多い。)
「そしてヘイさんは、土の下のお芋の糖度まで探れるセンサー付きのドローンを飛ばしてくださって。」

白百合さんの知り合いのサツマイモ畑をあちこち見学させてもらって
一番穫れ時のをドローンで調べて収穫開始。
あくまでも3人こっきりでの行動だったので
無駄のない働きぶりでテキパキと事を運んだその上で、

 「ホテルR 専属パティシエ直伝の
  絶品スィートポテトを街頭販売しただけですよぉvv」

路販車、所謂キッチンカーを出しての販売なら、
衛生管理も徹底できるし、
何と言っても繁華街まで出てくわけじゃなしで、
一応は保健所へ相談した上でのお墨付きを受け、
2週間ほどという期間限定、
美味しい美味しいお芋だよ〜というアルバイトを始めておいで。

 「特に宣伝はしてないんですのにね。」
 「やはり情報の時代だからじゃないんでしょうか。」
 「……。(頷)」

女学園のアイドル的存在でもある三華様たちの動向は、
さりげなくながら見守っている顔ぶれがあるようで、
隠密裏と構えたそれならいざ知らず、どこからも後ろ指差されぬようと構えたそれだったものだから、
あっさりと評判は広まっての話題を呼んでるようだけれど。
それでも自粛を挟んで大挙して押しかけないよう呼びかけ合ったうえで、
クラス別に代表が買いに来ている按配な様子。

 「まあ、転売とか考えるような下賤な子はいないから、そっちは案じていませんが。」
 「…っ。」
 「…?」

 注釈、白百合さんが「あ、その恐れもあった」と今気が付いた傍ら、
    紅ばらさんが「何のお話?」と小首を傾げた模様。

 「さ、さあ、今日も頑張って美味しいお芋の普及に励みますよ。」
 「はいなvv」
 「おー。」

午前から集まってキャッキャとスィーツ作りに勤しみ、
午後から最寄駅近くの広場まで、
本体は自動3輪の改造車だからひなげしさんの持ってる免許で大丈夫なんて、
微妙な理屈で乗り出してったお歴々。

 「まま、交通課に咎められそうなら、ドライバーとして良親さんを呼ぶとか言っておったし。」
 【お小遣いには困ってないだろうに、退屈には勝てぬというところですかね。】

厨房での仕込みの気配を察して、微笑ましいのうと苦笑していた五郎兵衛さんが、
ご迷惑をおかけしておりませぬかと案じたらしい兵庫さんからの通話へ応じているのも
この数日は日課のようなもの。

 ただ、

キッチンカーを出すくらいなら大めに見ようと構えていた保護者連だったが、
実は…そういうのへ難癖付けえて“みかじめ料”をせしめんとする半グレ連中をしめるための
オトリ大作戦だったと気づくのは行動開始四日目のことだったりするのだった。(笑)


   〜Fine〜  20.12.24.





 *クリスマスイブです、お方々。
  現実の状況を加味してみました。
  女子高生には外出はさほど後ろめたくないのかなぁと思うような
  街頭インタビューをあちこちで見たもんで。
  そういう若いのがウィルス広げてないか? 症状出ないなら検査受けないだろうしさ。

  路販車作るヘイさんっていましたね、そういえば。
  謎の刺客、島田一族のお隣さんという設定の中のヘイさんだったような。
  以前、久蔵さんだけ このお話とコラボしましたが、お元気なんだろか。





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