ワケあり Extra 6

□どっちもどっち?
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ここ直近の梅雨は、地球温暖化のこれも影響だろうか
日本の平均が亜熱帯ぽい気象になりつつあるのへ添うてか
それは過激な代物になりつつあるようで。

「雨の降りようも過激だしねぇ。」
「災害級ですよ、土地によっちゃあ。」

自分たちにはまだ単なる大雨級だが、
豪雨や突風で建物が崩壊したり土砂が崩れてきたり、
川が決壊して田畑が冠水したりと、
途轍もない被害があちこちで出てもいる。

「ゴロさんの知り合いもあちこちで被害に遭ってるそうなんで、
 炊き出しと復旧のお手伝いに行くんだって。」

学校がなけりゃあなあ、終業式があるからついて来ちゃあダメって言われたと、
お手入れの行き届いたセミロングの髪をゆすっていやいやをしつつ
ひなげしさんがいかにも不満ですと口許をとがらせたものの、
その傍らから、

「熱中症の心配もあるから連れ出したくなかったのでは?」

こちら様も質のよさげなつややかな金髪をスッキリと束ねた白百合さんが
団扇ではたはたとお顔を仰ぎつつ一応はとたしなめる。
雨の被害こそまだマシなものの、それならならで途轍もない暑さに襲われているここいらで。
数値も凄まじいが湿気を伴う蒸し暑さはなかなか過酷。
熱中症の患者の搬送だろう救急車のサイレンの音が今も遠くで聞こえており、
不要不急の外出は控えて、水分補給をしっかりとと
もはや恒例となった文言があちこちで口にされている。

「尋常じゃアないものね、このところの蒸し暑さ。」

久蔵殿、生きてますかと、
お向かいで角卓の天板にへばりつくよになっている華奢なお友達へも扇いでやれば、
そちらはふんわりとしたくせっけのやはり金の髪も愛らしい令嬢だが、
うううとぐったり苦しげ、スローモーションで端正なお顔をあげる美人さんで。
いつものように平八の居候先、「八百萬屋」の奥向きの住居スペースにて
涼しげな夏仕様の模様替えも済んだお茶の間の大きな角卓を取り囲むように座し、
何やらかわいらしい額をくっつけ合って相談中だった模様…だが。
某女学園の名華3人娘がいつもの伝で勢ぞろいしているものの、
暑さにやられかけてか どちら様もやや萎れておいで。
学校は夏休み前の補習休暇…もとえ試験休みに入っちゃあいるのだが、
前代未聞の異常気象なためか、例のコロナ禍で旅行をひかえる癖がついちゃったご家庭が多いものか、
早々と家族総出で国外へバカンスに出かけるご学友も少ないと聞く。
そうでなくとも、好いたらしいお人が生活半径から離れない彼女らにしてみれば、
学業がお休みなんなら家にいるのが重畳というところまでお揃いで。
それでもまあまあお出掛けはしたいよねと、
海に行こうか高原で涼もうかという相談に集まっていたものの、
そういうお話の途中で都心間近い住宅地の猛暑に当てられておいで。
一応はエアコンもスイッチオンしているのだが、本来そういうのに頼らない彼女らには加減が判らず、
政府広報推奨の27度設定にしており。
それだと…新陳代謝激しく燃費も良すぎな年代の彼女らには ちょっと足りないようでもある。

「こういう時は大きに体を動かしたいものですねぇ。」

いっそのこと、大暴れして大汗かいて、
心地のいい疲労を友連れにぐっすり寝たいくらいのお言い様をするひなげしさんこと平八なのへ、

「また叱られるだけですよぉ。」

なんて、一応は山ほどの前例を思い出したか
ダメ出しをするよな言いようをする白百合さんこと七郎次だったりし。
そうは言うけどぉと煮え切らない平八自身は、されど率先して暴れるわけじゃあない。
むしろ効率のいい指揮を取ったり、臨機応変の利く作戦を立てたりというブレイン役で、
人体には影響しないが物騒な凶器が壁からはがれなくなる強力接着剤だとか、
使用域を限っている短波受信機などに効果絶大、
限られた周波数帯のみに妨害電波を放つジャミング装置だとか、
一体どこのゲリラの参謀格かというよな仕掛けや何やを揃えてしまえるから恐ろしく。
そんな彼女が拵えた逸品、スライドさせて伸ばして使うところはよくある“特殊警棒”ながら、
時には大量の静電気を放出できる仕様になっていたり、
ひと振りで2,3mも伸びる特注だったりという、とんでもない得物を鮮やかに操って、
踏切り板もトランポリンもない平地から、信じられないほどの跳躍を見せて立ちふさがる輩の一群を飛び越えたり、
二階家くらいありそな高い塀の上へ危なげなく立つと、そこから凄まじい加速をつけて恐れもなく飛んで来たりという
恐ろしいまでのアクロバティックな荒業見せては、
半グレやら破落戸やらを当たるを幸いに薙ぎ倒しまくってきた剛の者。
ただの恫喝や嫌がらせから、
怪しい取引のカモフラージュで人払いしていた傍迷惑行為を
根っこから掘り起こして日の下へ晒した案件も数知れずで。
いくらそれぞれに名のある良家の令嬢だとて、
そんなものへ怖じるどころか
逆にそんなおイタを公言されたら困りませんかねぇなんて
逆捩じ食らわさんと食いついて来られる恐れだってあるかもしれぬ…というに。
出来るもんならやってみな、みっともなくくも叩きのめされた事実を鮮明な動画付きで
まとめて束ねてネットに流してやんよと、
そっちの腕も卓越しているお嬢様方、冗談抜きに幾つか怪しい組織を瓦解に導いてもいる恐ろしさ。

  とはいえ

「でもねぇ、こないだの大殺陣廻りとか観ちゃうとね。」
「……うん。」
「あれっていわゆる“プロ”のお仕事らしかったし。」

 自分がやらかしてる時は気がついてなかったけど、あれは観てるだけで心臓が縮み上がりそうだった。
 そうそう、天井から下がってる照明まで足場にして駆け抜けてたしね。
 あれは…指南してほしい。
 こらこら久蔵殿。

などと、ちょいとしおらしい声でそんな話を始める彼女らで。
というのが、姉妹校として縁を結んでいるとある女学園へ、
親交行事のセレモニーの打ち合わせにと 梅雨の初めくらいの時期に学生代表として3人で伺ったのだが。
選りにも選ってその当日に唐突なボヤ騒ぎが起きての大混乱、
非常ベルが鳴り響く中、そちらの職員の方々に導かれて安全な校庭へと避難したものの、

 『…シチ、米。』

どこぞかを見やったままの紅ばらさんから小声で呼ばれ、
何だ何だとその視線を追った先、
やや遠い校舎の上階の通廊にて何者かがそりゃあ派手に駆け回っているのが見えた。
ブレザータイプの制服姿だから、そちらの在校生らしい少女が、
天井の高い、しかも礼拝堂並みに長い長い廊下を、
壁やら駈け上がるよな異様な運動能力発揮して派手に移動中らしく。
そんな彼女の身ごなしの中、
その身をすくめたり何かを除けたりする所作動作から、攻撃を受けているのが察せられたのは、
こちらのお嬢さん方も銃やら鉄パイプやらが出て来る物騒な仕儀に縁が深いからこそで。

『加勢に行くか?』
『どうしようね。』
『もしかしてこのボヤ騒ぎは、あれの陽動とかカモフラージュとか?』

一応、怖いわねと現状へ怯んでいるように見えそうな格好、
頬に手を当てたり口許を覆っての身を寄せ合い、こそこそした会話だが、
内容はといや微妙に前のめり。
どうも何かを抱えているらしい少女なようだし、
除けようの素早さから何かを察し、
平八がこそっとモノクル型のスコープを取り出して拡大して見やれば、

『…凄いですね。同級生でしょうか、女の子姫抱きにして逃げ回ってますよ、あの人。』
『え?』

観えたものをそのまま転送したらしい様相を、スマホサイズのタブレットの上へ展開してくれ、
それを覗き込んだ七郎次や久蔵がアッと双眸を真ん丸に丸める。
つややかな長い黒髪を自身の動きの加速になびかせ、
壁やら天井やらという廊下空間を目いっぱい使っての
あちこちに足かけ蹴り上げという
多次元的ピンボールさながらのめちゃくちゃな駈けようをご披露中。
それも古式ゆかしい仕様の様式か、聖堂のように大きめの窓が並んでいるのでその中での活劇が外からも望め。
とはいえ、それと気づいていなければ、学園内は大混乱中だし、
女学園なだけあってそこもそういう仕様か手近からは目が届かない作り、
平八が用意した小道具でもなけりゃあ覗けはしなかったろが。

『凄い…。』

スカートがひるがえるのも何のその、
ぐっと膝を深く折ってばねを溜めたり、何なら大胆なまでの大股に跳躍して壁を蹴りつけたり、
足首を照明の吊り具へ引っ掛けて距離を取った地点へ飛び降りては、
そのままがっつりと踏ん張って着地してもいて。
とてもじゃあないがごくごく普通の女子高生の体術には見えないし、
そもそも、そんなまでして逃げ回るような目に遭うだろうか?
結構な距離があるので駈けつけてもどんな手助けが出来ようか。
それに、もしかして

『あのお嬢さんは “玄人”さんかもしれない。』
『……っ。』

自分たちは勝手に首を突っ込んでいるあれやこれやだが、
もしかして、こういう場での警戒要員とか護衛担当という格好で、
同世代の少女が配置されることだってあるのかも知れない。
いやいやそんなどこのジュブナイルかと破天荒な発想へ苦笑するところだが、
ああまでの能力持ちならば、こういう特殊なケースに担ぎ出されもするんじゃあなかろうか。

 『 ……っ!』

不意に、そんな少女の姿が窓から見えなくなって、
ギョッとした3人が画面を見やり、平八もモノクルの調整ネジをぐるぐるといじっておれば

 【……の関係者ではないな、抵抗はするな。】
 【不法侵入と銃刀法違反の現行犯だ。】

何とか音声を拾ったらしく、そういうやり取りが雑音混じりに此方のスピーカへも届く。

『加勢が駆けつけてくれたようですね。ほら、大勢が駆けつけてるし、』
『この距離で赤外線画像まで撮れちゃうの? ヘイさんすごい。』

壁の向こうの人々の動きだろう、オレンジやら赤い影がぞろぞろと動くのが映し出されていて、
それらが立ち去った跡へ、ぽつんと居残った人影が二人ほど。
頑張って奮闘した少女へ、別の誰かがねぎらいの声をかけているらしく。
これ以上聞くのは野暮だねと、胸をなでおろして盗み見はやめちゃったのだが、

「ああいうお仕事もあるってことでしょうかね。」

 は?

「島田なら伝手を知っているやも。」

 はい?

「どうでしょうね。勘兵衛様アタシたちがそういうのへ首突っ込むの阻止する側だし。」

当たり前です、そんな物騒なものへ関心もっちゃあいけません。
大体あのお嬢さんは……いやまあ、文字通り畑の違う次元のお話。
それに、もしかしてお嬢さんたちあの人と大差ない働きが出来そうでそこもおっかないので、
その話は封印してね?いぃい?他言無用だよ?



   〜Fine〜  23.07.13.





 *あまりに久々の「女子高生噺」でございます。
  何かもう、今書いてるジャンルのお話もペースダウンしてましてね、
  歳は取りたくないなぁ。苦笑
  3人娘たちは相変わらず暴れ回っているようで、
  酷暑猛暑も何のそのなんでしょうね。
  保護者の皆様の胃が心配です。笑

  ちなみに、劇中に出てきた、よそのお嬢さんの活劇は
  文ストパロで書いた『月下の孤獣 〜その後』“駆け足で過ぎゆく春へ”です
  異能力という、超能力ぽい力を持つ人々が様々な因果に振り回されつつ戦うお話で、
  それのパロディをちみちみ書いております。




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