千紫万紅、柳緑花紅

□四の章 北颪 きたおろし B
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四の章 北颪 きたおろし

   冬の凪


不意に。
左の二の腕あたりが
そりゃあ痛いことに気がついた。
あまりに痛いものだから、
それ以外の何にも
考えることが出来なくなって。

  痛い痛い、痛い痛い。

わたしの腕を、
誰かが無理から
持ってゆこうとしている。
力に任せて引き千切り、
どこかの遠くへ
持ち去ろうとしている。

  後生だからやめておくれ。

これは
大切な腕なんだから。
大事な大事なお人を
命かけて守ると、
そんな誓いを立てての
六花を刻んだ腕なんだから。
だから
持ってかないでおくれな。
あたしなんかが
ムキにならずとも、
お強いお方だ、
困りはしなかろうけれど。
そんなご自分へばかり、
痛みを集める不器用なお人。
だから…だから、
微力ながらも楯になりたい、
あたしなんかじゃ
滸がましいけど、
精一杯護って差し上げたいと。
そうと決めての墨を入れた、
二度とは消せない、
他言はないって
誓いだってのに。


 ― お願いだから、
   それだけは
   持ってかないでおくれ。
   あたしから、
   あのお人を
   奪り上げないでおくれ…。



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