シリーズ小説

□確かにこれは、愛でした
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愛しているから好きな人を苦しめるとか

愛しているから好きな人を閉じ込めるとか

愛しているから好きな人を殺すだとか

愛しているから好きな人を自分の中に取り込もうとして食すとか


愛というのは―――――







「そんな愛って、どんなものなんでしょうね」

「・・わかんねぇよ」

「好きで、大好きで、愛おしすぎて・・。そして狂気に踊ってしまうんでしょうかね」



どうしようもなく愛おしくて

どんなものよりもただ、その人だけが愛おしい存在で

その気持ちを制御できず

自分の気持ちを抑えきれず

そして狂気に走るんです。

その人の全てが愛おしくて

匂いも、仕草も、喋り方も、声も、存在も

血も、臓器も、目玉も、腕も、喉元も

笑顔も泣き顔も怒った顔も

恐怖する顔も怯えた顔も泣き叫ぶのも・・・。

全部、全部大好きで。

だから全部自分のものにしたい。

大切に大切に・・・。





「でも、素敵じゃないですか」

「・・何がだよ?」

「狂気にかられた愛っていうものも。」

「わかんねぇよ、コノヤロー・・」


大好き、という言葉でも足りない。

愛している、ではありきたりすぎて。

抱きしめる?キスをする?身体を重ねる?

そうすれば、いいの?

そうすれば、気持ちが総て相手に伝わるんですか?


「大好きな人に看取られるのは、どんな気分でしょうね。ね、ロヴィーノ君」

「・・お前は、そんな愛が欲しいのかよ」

「どうなんでしょうね、そうだとも思いますし、そうじゃないとも思います。」



愛おしくて、大好きで。

本当に、本当に好きだった。

自分でも驚くほどに、この恋愛に溺れた。

ただ、その恋愛に・・・。









でも気づいた時にはもう遅かったんです。

私が、愛を示せなかったから。

意地を張って、私は素直になれなかったんです。

いいえ、私は自分が大切で

あの人より自分が傷つかないように、と

そんな事ばかり考えていた。

だから、天罰なんです。

ずるい私への・・。




「あの人が帰る場所は、常に私でした。だから、どんな浮気にも目をつむり・・・」

「・・・・。」

「だけど私は、あの人に溺れてしまわないよう、そう自分に言い聞かせていたんです」




















「あいつは、確かにお前を愛していただろ?」

「えぇ、本当に、本当に大切にしてくださいました。愛を囁いてくださいました。」

「・・だったら・・」

「私はその愛に一度も答えた事はないんですよ」


心底驚いたような表情をするロヴィーノ君。
そりゃそうだろう。
一度もあの人の愛に答えた事がないだなんて。
あの人が、私を愛していた事はきっと友人のほとんどの方が知っていた。
あの人は愛に忠実な人でしたから・・。



「それじゃあ、あいつは・・」

「あの人が、別れの時に言った言葉って何だと思います?」

「・・・・・。」



今まで、ごめんね。
愛を押し付けて、優しさに付け込んで、俺の我儘につき合わせてごめんね。
でも、もう解放してあげれる。やっと、やっと解放してあげれるんだ。もう苦しめないから・・・
菊以外の帰る場所を見つけれたから。
菊以外の愛を見つけたから。
ごめんね、今まで、長い間俺につき合わせちゃって本当にごめん・・。


もう、一方通行の愛に疲れちゃったんだ・・。







「お笑じゃないです、一方通行だなんて。私も、確かに愛していましたのに。」

「なんで、あいつはそんな・・今更・・・。今までだってふらふらしてたかもしれねぇけど、でも最終的には」

「子供が、できたそうです。」


子どもができて、責任をとると。
愛おしい存在が、自分の遺伝子を受け継ぐ
無償の愛を注ぐ事ができる存在の、自らの、子どもが・・、できたから。



その瞬間から、私への愛は、もう存在しないんです。










「愚か者でしょ?私、その時はじめて気づいたんです。」



――フェリシアーノ君との恋愛に、溺れている事に






目の前が真っ暗になりました。

声が出なくて、思考がうまくまとまらなくて。

頭がいたっくて、喉も痛くて、目頭が熱くなって・・。




「それでもね、私ちゃんと耐えたんですよ。笑顔でお別れできました」

「・・菊。」



それは、それは。良かったですね。
泣かないでください、どうぞ幸せになってくださいね―――



「フェリシアーノ君は泣いていましたよ。それで、ありがとう・・何て言うんですもの」

「菊、」

「そんな風に言われるなんて思ってなくて。」

「菊、おい、」

「彼がいなくなった部屋は暗くて、冷たくて。もう彼は帰ってこなくて。何日待っても。」

「おい、菊、菊、」

「彼の好きなパスタを作って、綺麗に家も掃除して、ずっと、ずっと待っていたのに。」

「菊、菊!落ち着け!おい、菊!!」

「帰ってこないんです、フェリシアーノ君・・。もう、帰って来てくれないのです」





どうしたって勝てる訳ないじゃないですか

私では彼の子供を産む事なんてできないんです。

だって、私は男で。彼も男で。

彼は女の子が好きで。

可愛いものが好きで。

子どもだって好きで。




私への愛はもうすでになくなっていて。


「彼の大好物を用意してももう、喜んではくれないのです。もう、愛してはくれないのです」



彼のハグもキスも。
腕の温かさも、私を呼ぶ時の優しい声も。
あの無邪気な子どものような笑顔もなにもかも、もう私に向けられる事はないのです。
私ではない、別の存在に向けられる。
それがこんなにも悲しいなんて。
今まで当たり前に与えられていたものが、こんなにも素晴らしく。
こんなにも私を困らせ。
こんなにも私を弱くするなんて。

そんなの、知りたくなかったです・・。

だって、私、どうしたらいいんですか・・・っ

いきなり、こんな大きな海に一人っきりで放り出せれて。

船も人もタオルも何もない。


助けてくれるものはない
(助け何か求めてはいけない)

励ましてくれる声もない
(そんなものを求めてはいけない)

温かく身を包んでくれるものだってない
(自分で招いた結果、全ては自業自得)


もう、いっそこのと溺れてしまいたい
(貴方の手で、貴方の狂気に、貴方の愛に、看取られて)









「菊・・・・、俺じゃ・・、俺じゃダメなのかよ・・っ」

「ロ、ヴィーノ・・くん・・?」

「弱くなったっていいだろ、助けを求めても、縋ってもいい、」


―――――だから死を望むな




久し振りに人の温もりにふれた。

抱きしめられた。

彼と瓜二つのロヴィーノ君に。

彼の、お兄さんに。



ロヴィーノ君の言葉は、少し震えていて・・。




「俺だってずっと菊を見ていたのに。」



フェリシアーノ君とそっくりで。

でもやっぱり全然違う。

とても優しくて、とてもとても・・。

そんな優しさを貰える人間ではないのに。

私は・・、今苦しんでいるのも、自業自得なのに



「フェリシアーノの事を今すぐ忘れろとはいわねぇよ」

「ロヴィー、ノくん・・」

「俺は、お前の事が好きだから。菊が俺を見れるようになるまで待ってやるから。だから今は、俺を利用しろよ」




甘えちゃいけないのに。
ロヴィーノ君の腕が優しく私を抱きしめていて
私はフェリシアーノ君の事がまだ好きで
フェリシアーノ君はもう私には戻ってこなくて
それは、私が悪くて
それで、それでロヴィーノ君は私を好きだと言ってくれて
待つと、言ってくれて、抱きしめてくれて
私は、ダメだと分かっているのに
失礼だと分かっているのに
でも、誰かに助けてほしくて
苦しくて、もう潰れてしまいそうなほどに
自分で招いた事なのに、全く笑えないですね。



「ごめ、なさ・・ごめんなさい・・、ごめんなさい、ロヴィーノ、君・・ありが、とうございます・・・っ」





なんて浅はかで醜い人間なのだろう。
いつからこんなに醜い、ずるい人間になったのだろう。
いつから私は、一人で立てなくなっていた。
いつからこんなに惨めに。
いつからこんなに弱く。

私は、私は・・。



ごめんなさい、フェリシアーノ君。


ごめんなさい、ロヴィーノ君。


ごめんなさ、ごめんなさい。





私は、私は・・



寂しいのでしょうか・・。



END

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