シリーズ小説

□小さなきっかけ
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「おはようございます、アーサーさん」


「あぁ、おはよう。今日も早いんだな」




一言、二言、三言、言葉を交わす。

それは、本当に何でもない世間話。







昔から、空気を読むと同時に、人の感情を読む事があった。

もうそれは、癖みたいなものにすらなっていた。



だから、気づいたのかも知れない。



アーサーさんが私に好意を抱いてくれている事を。










「好きだ、本気で。お前の事が・・っ」


だけど、それをどうか伝えないでほしいと、何度願った事だろうか。


何度も、何度も願った。どうか伝えないでほしい。


どうか私の勘違いであってほしい。


どうか、どうか―――





「本当に、好きだ。菊、俺は・・、本気で」



「分かりました。でも、わたしは・・・」





知っていた。

もうずいぶん前から。

だけど、言わないでほしかった。




「私は・・、これからもアーサーさんの事を友達としてしか、思えません」


「あ・・・、でも、本気で・・、俺は、お前が・・好きだ、・・」


「・・分かっています」


「本気なんだ、本当に、ただ、菊を、菊の事が・・」


「分かりましたから、何回も言わないでください・・・っ」




ぼろぼろと、目の前で綺麗な瞳から流れ落ちる雫。


とっても綺麗で、心底触れられない、と思った。


子どものように泣く、アーサーさんに幻滅出来ない自分に腹が立つ。


自分に苛立つ。どうして動かないんですか!


どうして、どうして立ち去ろうとしないんですか、私は!!






「好きだ、本気なんだ・・、菊、きく、」



もう言わないで。

お願いです、これ以上決意を・・。

私を迷わせないでください。





「菊、好きだ。本気なんだ、本当に、本当に・・」


「・・・・っ」




私が、触れてはいけない。

私が、その涙を拭ってはいけない。






あぁ、どうかこの人の涙を拭うのがあの人でありますように。



あぁ、どうかこの人が愛を伝える相手が、私ではなくあの人になりますように。



そして、どうか私への言葉が、『さようなら』へ変わりますように。






どうか、どうか、変わりますように―――






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